Workplace
Oct. 23, 2017
観光名所カムデン・マーケットに
イノベーティブな企業を誘致する。
カムデン・マーケットを拠点にしたコワーキングスペース
[LABS]London, UK
1970年代からマーケットが立ち、観光スポットとしても知られるロンドンのカムデン。このエリアを中心に、2015年11月から3軒のコワーキングスペースが誕生した。カムデン・マーケット内にTriangle(トライアングル)、Atrium(アトリウム)、そしてこの2軒のやや西にUtopia(ユートピア)。いずれも、LABS(ラブス)という組織下で運営されているコワーキングスペースだ。
LABSの親会社は、2014年にカムデン・マーケット一帯を買収し、マーケットの再生およびテック企業の誘致を進めるLAB Tech(ラブ・テック)である。ロンドンの北側に位置するカムデンはもともと音楽やアート系のクリエイターが多いエリアだったが、ここ数年はショーディッチなどイースト・ロンドンに人気が移り始めていた。再びマーケットを中心にエリア全体を活性化するため、従来の観光客向けの小売りや飲食店だけではなく、コワーキングのオフィスを運営し、イノベーティブな企業を誘致しようという戦略だ。立地的にもグーグルの英国本社などがあるキングスクロスの再開発地区から近く、今後、オフィスエリアとしての拡大が充分期待できるということだろう。
大企業とスタートアップが、互いにメリットを感じる
トライアングル、アトリウム、ユートピアの3カ所では1人用のデスクスペースから100人用のオフィススペースまでフレキシブルなワークスペースを提供しており、現在、大小合わせて約150ほどの企業が入居している。
LABSでオペレーション・マネージャーを務めるジャック・マーティン氏は語る。「いろいろな業種の企業が入居していますが、IT企業のほか、オンライン出版社、オンラインのブランド・エージェンシーなどのテック系企業が多いですね。シスコやKPMGといった大企業のサテライト・オフィスも入居していますが、これは大企業が中小の企業から学びたい面があるのでしょうね。KPMGではスタートアップへのサポートイベントなども主催しているので、お互いにメリットがあるんだと思います」。
かつてのカムデン・タウンにおけるサブカルチャーの牽引役だったドクター・マーチンも入居している。「ドクター・マーチンはLABSにオフィスを2カ所借りています。最近ではカムデン・マーケットに新しい旗艦店をオープンさせたんですよ」(マーティン氏)
アトリウムの外観。カムデン・マーケット内にあり、観光客や地元の人でにぎわいがある。
オープン:2016年4月
http://www.labs.com
オペレーション・マネージャーのジャック・マーティン氏。
フレンドリーなスタッフが
入居者の帰属意識を高める
LABSでは、入居者同士の交流を促すイベントも多く催している。入居者が互いに自らのビジネスについて簡単に紹介し合う「ビジネスデート」、朝晩のヨガやピラティス。そのほとんどが無料で開催しているのだ。バックグラウンドはさまざまながら、ホスピタリティにあれるフレンドリーなスタッフが、入居者のニーズに応えている。
もともとは家具デザイナーであり、いつかは日本で木工と学びたいというマーティン氏も「コワーキングスペースは、ホテルと大差ないですよ。寝室の代わりにオフィスが並んでいる感じです。入居者の要望に素早く対応することが求められますから」と言う。LABSのオフィスは6〜8人用のスペースが多い。また、壁が可動式になっており、30分程度で取り外せるため、必要に応じてスペースをつなげて広げることもできる。
1フロアの人数を140人に制限する
このように、LABSではさまざまな規模の企業に対応できるが、1フロアに140人以上は入居させない方針だという。それはイギリスの人類学者ロビン・ダンバーが提唱する、「ダンバー数」によるものだ。ダンバーによると、「人間が互いを認知し、社会的に安定した関係を築ける限界人数がおよそ150人である」とのこと。「私たちの感覚では、それが140人なんです。これ以上になると、人々の交流が減り、帰属意識も薄れると感じています」とマーティン氏は言う。
トライアングルの目の前には、「The Interchange」という赤レンガの倉庫がある。「ここは運河と鉄道が交差するところで、以前はあの建物が荷の上げ下げに使われていました。現在はAP通信のイギリス本社になっていますが、これと同じような旧産業施設を活用した再開発が、ロンドン各地で盛んに行われています」(マーティン氏)
かつては、たくさんの人や荷物がせわしなく行き交い、近頃では、カルチャーの発信地となった、カムデン。LABSのコワーキングスペースのオープンによって、今、新しいコミュニティが根を張る兆しが見え始めている。今後、さらなる活気が生まれることが期待できるエリアだろう。
インテリアデザイン: Tom Dixon
建築設計: Barr Gazetas
text: Yuki Miyamoto
photo: Taiji Yamazaki
天井がガラス張りで中央が吹き抜けになったアトリウム。
トイレのサインまで統一されたデザイン。