Workplace
Jan. 15, 2018
細やかな情報共有文化が
世界のゲーム人材を惹き付ける
[Wooga]Berlin, Germany
60秒間という短い時間で楽しめるパズルゲーム『Diamond Dash』が世界中で2億ダウンロード数を突破するメガヒットとなったカジュアルゲームメーカー、ウーガ。2009年に創業するとフェイスブック・ゲームの開発をスタート、2013年以降はモバイルゲームに特化した。
パン工場を改装したという本社ビルは天井が高く、当時の小麦粉を運んだダクトが室内に生々しく残る。ベルリン中心部にあり、アクセスに優れた立地だ。「何より、人材を集める上でこの街は有利なんです」と話すのはPRマネジャーのマイケ・シュタインヴェラー氏。
ドイツの中でも飛び抜けてインターナショナルなベルリンらしく、従業員250名のうちドイツ人は56%、ほかは40以上の国籍豊かな従業員だ。女性従業員の割合は3割、これも今後、男女均等に近づけていくという。こうした多様性が独自のカルチャーの醸成に寄与しているとマイケ氏は語る。
「ありとあらゆる文化的背景を持った人たちが年齢や性別を気にせず、トライブ(種族・部族)のようなコミュニティを構築できる環境。そういうものを作りたいと考えています。そのためには様々な背景をもったユーザーを代表する社員のアイデアや意見を取り込んでいくことが大切なんです。制作を通して多くの人がお互いに深く関わり、コラボレーションしていくのは私たちの文化ですね。社内の公用語が英語であるのもその1つ。私たちはドイツに拠点をおく会社ですが、入社した人には初日から英語を使ってもらいますし、ドイツ人だけの会議でも英語でやりとりをするようにしています。こうしたシンプルな原則をとても大事にしています」
外観。BACKFABRICと名づけられた複合施設内にウーガは入居する。食材配送のスタートアップHello Freshや眼鏡メーカーic! berlinなどもここに入居している。
社員とその家族をサポートする
移住プログラム
非ドイツ人のために移住プログラムを整えていることからも、彼らの本気度は伝わってくる。採用が決まった瞬間に社員と家族の分のビザを手配。ウーガ専用の無料アパートを用意し、そこに6週間腰を落ち着けてもらう。「まずはベルリンの雰囲気を感じてエリアごとの特徴をつかみ、それからどのエリアに住みたいか、ゆっくり考えてもらうのがいいと思うのです」。ベルリンの街を案内することもあれば、子供用の学校や保育園の相談に乗ることも。さらにはドイツ語のレッスンを社内で提供、社員とその家族に参加を呼びかけている。
ヘッドオブスタジオのマット・ロバーツ氏はフィラデルフィア育ちのアメリカ人。ウーガにジョインするため、わざわざシアトルからベルリンに移り住んだのだという。「ベルリンはとても安全だし、モダンな街。車を持たずに暮らせるなんて初めてです」とマット氏。
「それでも、もし会社のサポートがなければ、家族全員を連れての移住はできなかったと思います。渡航、ビザ、最初の住居、ドイツ語の学習などの面でずいぶん助けてもらいました。特に嬉しかったのは、役所対応をしてくれたこと。住民登録をはじめたくさんのペーパーワークが必要で、会社のサポートなしでは何をすればいいのかがわからず困ったことでしょう。外国人としては『間違いを犯すのではないか』という不安がどうしても大きいのです。今では、妻もこの街をとても楽しんでいますし、息子のドイツ語はすっかり流暢になりました」
250名の従業員はエンジニア、プロダクトマネジャー、アーティストそれぞれが3分の1ずつを占める。彼らはプロジェクト単位でまとまり、オフィス内に島を構成している。
ウーガ内では、多くのことがこのチーム単位で進む。各チームは毎朝、立ったままの短いミーティングを行い、情報共有を図る。プロジェクト運営も、個別のチームにほぼ委ねられているといっていい。同じ理由から、在宅勤務は推奨していない。会社としては、チームが近くにまとまりコミュニケーションが促進されるよう期待しているのだ。
オフィス内を貫く内部階段。3Fから5Fへ移動する様子。オフィスにはエレベーターもあるが、社員は感覚的に階段を利用することの方が多い。
誰もが積極的に発言する
フィードバックに事欠かない職場
「ウーガがユニークなゲームをリリースできるのはこの体制だからこそ」とマイケ氏は言う。「一番のポイントは、チームが完全に独立していることです。もちろん会社の予算やタイムラインは決まっていますが、その中でチームには大きな自由が与えられています。ゲームの中身も、自分たちの好きなものを作っているんです。『アライグマを主人公にしたい!』と思ったらそういうものを提案して構わないです(笑)」
それぞれ独立していながら、各チームが内に籠もることはない。チーム間のインタラクションは活発、オープンな雰囲気がウーガのオフィスにはある。
毎週月曜日には全従業員がオーディトリウムに集まり、15分のミーティングを行っている。2週間に一度は各ゲームスタジオが朝9時半からブッキングしており、ここには誰でも参加可能だ。スタジオごとの進捗状況や取り組みを知ることができる。また月1回、職務ごとの会を開催。各メンバーに5分間が与えられ、相手にとって価値のありそうなことを何でも話し合う。
「5分間と限られているのは『誰の時間も無駄にしない』というコンセプトがあるからです。みなメッセージを簡潔に伝えるためよく練習していますよ」(マイケ氏)
オンライン上には各チームが手がけたゲームのプロトタイプを置き、社員なら誰もが自由にプレイできる環境をつくった。そして社員が参加するフェイスブック・グループ上に意見を投稿し、お互いにフィードバックを与え合うのだ。大企業のプロジェクトでは、チーム間のインタラクションを謳いながら、ともすると「フィードバックが思うように集まらない」という問題が指摘される。だがウーガは違う。
「うちの社員はみんな、とにかくゲームが大好きで、パッションがあります。だから他のメンバーがやっていることが自然と気になってくる。プレゼンをすればフィードバックがどんどん集まりますし、フィードバックは建設的なものであるべきという意識も共有しています」(マイケ氏)
こうしたウーガのカルチャー、そしてスタートアップ都市ベルリンは、アメリカのテックシーンを知るマット氏の目にはどう映るのだろう。
「アメリカでは、社内にも競争文化が根付いています。数字に重きを置かれる一方で人間がないがしろにされ、働いていて消耗することもあります。ウーガにも競争文化はありますが、同時にものづくりを大切にすること、人を大事にすることを重視しているように思います。ベルリンは小さく、ハングリーなスタートアップが多いですね。対してアメリカはグーグルやフェイスブックのような大きなテック企業が多い。ここ数年はベルリンでもRocket InternetやZalandoのような大企業が出てきましたが、大きなエグジットはそれほど多くありません。しかし、ドイツでも近いうちにアメリカにあるように、エグジットで得たお金をまた新しいベンチャーに投資する、といったサイクルが回る日が来ると思っています」
世界的に注目されることで物価も上昇、かつてほど「安く住みやすい街」ではなくなってきたベルリン。しかし今は「過渡期」であり、テックシーンの成長にも余白があるというのがマット氏の見立て。ベルリンはまだまだ面白くなる。
コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計:Hülle & FülleInteriorDesign
建築設計:Hülle & FülleInteriorDesign
text: Yusuke Higashi
photo: Tamami Iinuma
WORKSIGHT 11(2017.4)より
5F内部階段横のオープンミーティングスペース。最上階のため上部からやさしい自然光がふりそそぐ。いつまでも長居してしまいそうな心地良い空間。
PRリーダー
マイケ・シュタインヴェラー
ヘッド・オブ・スタジオ
マット・ロバーツ