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大企業のイノベーションを
手助けするデザインスタジオ

[IXDS]Berlin, Germany

デザインコンサルティングファームといえば、アイデア創出のみに関わる、自分では手を動かさない人たち、という印象があるかもしれない。 その点、コンセプトメイキングからエンジニアリングを経て製品をリリースするまでクライアントに付き添うIXDSのポジションは、業界的に見て、かなり特異なものだと言える。主な活動領域は、シームレスモビリティ、ヘルスケア、コネクティッドリビング、スマートマニュファクチュアの4つ。メンバーの3分の1がエンジニア、残りがデザイナーという布陣でプロダクト作りを支えている。

IXDSのクライアントは大手企業ばかり。BMW、フォルクスワーゲン、ボッシュ、グーグルと名を挙げればキリがない。彼らがIXDSに期待するものは、将来の不安に対する回答だ。これからどのような未来が訪れるのか? そして、どう対処するべきなのか? 遠い先のことに思いを馳せるだけの時間もチームもスペースもない大企業がIXDSを頼り、このオフィスを訪ねてくるわけだ。

IXDSが提供する新しい視点に大企業はおおいに刺激を受け、驚嘆する。もっとも、「驚かせること自体は簡単」だとマネージングパートナーのナンシー・ビャルクホルツァー氏は言う。より大きな問題は企業の組織体制が変化に対応できるかどうか。「大きな組織であればあるほど、長期的な視点から自社の事業を見つめ直すことをおろそかにしがちです。ですから、私たちはクライアントに対して『社内組織と文化を再考すべきかもしれない』という示唆を与えるところから始めます。そうすれば、彼らはそこに注意を払うようになってくれるのです」

執務スペース中央に配置されたスタンドアップエリア。外出の多いメンバーはハーフスタンディングで仕事をすることも多い。部屋を取るほどでもないちょっとしたミーティングにも重宝される。

  • エントランスに面したキッチン。毎週火曜日はここでチームランチをとる。ルーレットで選んだ社員同士がランチをともにする仕組みも。ミュンヘンオフィスとのビデオカンファレンスに使うのもこの場所。

  • 地下にあるハードウェアラボ。曰く「ここはエンジニア用のプレイグラウンド(遊び場)」。立つも座るもエンジニアの自由。さまざまなプロトタイプがここで作られている。

  • ワークショップ。所狭しとアイデアソースとなるような付箋、ペン、コードなどが置かれている。クライアントが使うユニークな調査キットもここで生まれている。

  • 非クリエイター向けの電子工作キット「CREATOR KIT」。IXDS初のスタートアップであるFrizingが手がけた。電子工作に精通していない人でも感覚的に仕組みを理解し、プロトタイプを作ることができる。

  • オフィスビルのエントランスにあるカフェ。窓口しかない小さな店舗だが、ベルリンに多い中庭からアプローチする建築にあって、内外をゆるやかにつなぐハブとして機能している。

コンサルティングと同時に
スタートアップにも乗り出す

IXDSを他のデザインコンサルティングファームと隔てるもう1つの要因は、自らスタートアップを立ち上げていること。「IXDSラボ」がそれだ。自社プロダクトの開発と大企業との協業によるベンチャー設立のプラットフォームにすることが狙いだが、そもそもなぜ、デザインコンサルティングファームが自らスタートアップに乗り出す必要があるのか。本業であるコンサル事業が無用のリスクを負うことになりはしないか。

ことの始まりはIXDS内部の一事業としてスタートした「Frizing」だ。2012年に非クリエイター向けのオープンソース電子工作キット「CREATOR KIT」をリリースすると、これが大当たり。クライアントワークのチームとラボのチームを切り分ける、つまり組織の内部に別の組織をつくる必要が生じたのがこの時だった。

そして過去2年間、多くのスタートアップとのコラボを重ねた経験からわかったのは「私たちはスタートアップと働くことが大好き」(ナンシー氏)だということ。何しろスタートアップは意思決定のスピードが速く、大企業病とも言える内部政治に振り回されることもない。

スタートアッププロジェクトのリスクが高いことは、もちろん彼らも認識している。「コンサルで得た利益をラボに回すようなまねはしたくない」と、ラボとIXDSとは完全に別会社とし、リスク管理を徹底したのはそのためだ。


WIRED Germanyとコラボレーションしたコーヒーカップ。センサーが取り付けられており、コーヒーを何杯飲んだかわかる。さりげなく各自のアクティブ状況を知らせるためのIoT。

  • 執務スペース全景。全体にゆったりとスペースが取られている。インテリアにはビジネス色の強い固苦しいものは排除され、ホームライクな雰囲気を作っている。

  • 上述した書籍が置かれているライブラリ。エントランスから入ってすぐのところにキッチンとともに配置され、社員のコミュニケーションハブとなっている。

  • エントランス。オフィスはレッドブルや感度の高い店舗なども入居する複合ビルの一角を占める。外部にもちょっとしたミーティングエリアがあり、取材時には短い夏場を楽しんでいた。

  • オープンな執務スペース。自社のスタートアップ、パートナーシップを持つ大企業が入居。さながらコンサルティングカンパニー内にコワーキングスペースができたような雰囲気だ。

自分たちの価値を認めてくれる
組織と一緒に仕事をする

それでも、ラボの内外によらずチーム間の交流が活発なオフィスである。フロアのあちこちに転がる製品のプロトタイプは、各チームが取り組むプロジェクトをさりげなく可視化するもの。毎朝のミーティングではスクリーンショットをアップロードし、問題解決のプロセスを共有。隔週ではデザイン、エンジニアリング、プロトタイピングなど各分野のエキスパートがスキルを交換する場を設けつつ、月1回は社外から人を招く。朝のイベント「プレワークトーク」だ。スタジオディレクターのヴェレナ・オーグスティン氏によれば、「社員数名がIFA(ベルリンで開かれる、世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスショー)を見物した際は、そこで展示していたクライアントを呼び、学びを共有した」という。

ドイツを含め国際的な大企業が抱える課題を解決するため、陰に日向に彼らをサポートするIXDS。だが、どんな企業もウェルカムという方針はとらない。むしろ彼らは、シビアな目で客を選ぶのだ。

「私たちは、自分たちが提供する価値を認めてくれる組織と一緒に、その価値を具現化していく仕事をしていきたいんです」と語るのはナンシー氏。

それは、取引先を「クライアント」ではなく「パートナー」と呼んでいるところにも表れている。すべて「お互いに良好な関係を構築することが最優先」だ。そのため、仕事を引き受けるかどうかについては、まず自社の価値観と合致するかどうかをIXDS内で徹底的に議論するという。

そのうえで、スタジオスペースでIXDSと取引先企業の双方が集まり、オープンな議論を行いコミュニケーションをとる。時には一日ワークショップを開いて、アイデアを練ったり、意思決定プロセスのスピードアップを図ることもあるという。

「どのようなクライアントとでも仕事をする広告エージェンシーのような会社とは違うのです」とナンシー氏は言う。

「イノベーションは、あらかじめ計画できないものです。プロジェクト中、何度も方向性が変わることもありますし、交渉し直すこともある。私たちは、ニーズと期待値が明確になっているパートナーシップを重要視しています。そこの相互理解さえあれば、きっとうまく進むのです」

コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計: 自社
建築設計: 自社

text: Yusuke Higashi
photo: Tamami Iinuma

WORKSIGHT 11(2017.4)より


自身の誕生日になると社員は同じ本を2冊、会社用と自宅用に注文する。会社用に「なぜこの本を薦めるのか」を書き込み、4の本棚へ。ライブラリを活気づかせる工夫。


右/ベルリン スタジオ・ディレクター ヴェレナ・オーグスティン
左/マネージング・パートナー ナンシー・ビャルクホルツァー

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