Innovator
May. 7, 2018
仕事を通じて自己肯定感を育み、紛争地の自立を支援
現地に飛び込んで、まずは自分を試してみる
[仲本千津]株式会社RICCI EVERYDAY COO
「RICCI EVERYDAY(リッチー・エブリデイ)」は日本とウガンダで法人を立ち上げました。
アフリカン・テイストのある暮らしを日本のお客様に提案する醍醐味がありますし、ウガンダで雇用するシングルマザーの生活向上、自己肯定感の醸成など、社会的事業としての手応えも抱いています。ただ、アフリカでの起業には日本で起業するのとは違う予測不可能な面があることも確かです。
一人でも多くの人と知己を得ることで局面を打開
身近なところでは停電、断水ですね。ストライキもたまに起こって資材調達ができないこともありました。また、ウガンダの行政担当者と折衝することもあるのですが、国自体に法律やルールがあるようでない、ないようであるという不透明感があるので、そこも一筋縄ではいきません。
例えば、窓口で何か申請しようとしたら別の書類を持ってくるように言われたので翌日持っていくと、別の担当者が「それはいらない、違う書類が必要だ」とまた突き返されたりという具合で、人によって対応が違ったりする。ルールが属人的な解釈のもと運用されているんですね。今日ははじき返されたけれども、次の日に同じものを持っていったらすんなり通ったということもありました(笑)。
こういう状況はストレスにはなりますが、でも立ち止まってしまうと物事が進みません。諦めたら、そこでゲーム終了なのです。プランAがだめならプランB、それでもだめならプランCと、次から次へと手を打っていく。コミットメントを意識しながら、動きながら考えて、考えながら動く、そのスピードを上げていくことが大事だと思います。
ルールが属人的ということは、裏を返せばキーパーソンとつながることが重要だということ。とにかく動いて情報を足で稼ぎ、小さなツテでもいいので当局の人を紹介してもらって相談すると局面が開けることもあります。理不尽な目に遭ったからとウジウジしている暇があったら、外に出てとにかく一人でも多くの人に会って打開策を見つけること。それが最近は習慣化されました。
安心して仕事に集中できる環境を作ることが経営者の使命
もう1つ、異国で事業を推進するには、人や状況をよく観察して、俯瞰する目も必要だと感じます。
ある日、ウガンダの工房スタッフの一人がやけにイライラしていたことがありました。言葉や態度がつっけんどんで、縫い目もガタガタ、周りの人もいい気分で仕事ができません。何かあったのかと聞いても理由を言ってくれない。他のメンバーが教えてくれたところによると、その人の離婚した夫が子どもの教育費を支払う約束を反故にしたそうなんです。それでその日、彼女は早朝から銀行などを駆けずり回って、どうにかこうにか支払いを済ませたということでした。元夫への憤りや金策に奔走した疲労が彼女のイライラの原因だったわけです。
彼女の様子に気づかなかったらそういう状況がわからなかったのですが、この出来事で改めてウガンダのシングルマザーがいかに弱い立場に置かれているかを思い知りました。貯金もなく、行政や福祉のセーフティネットもない。ちょっと間違えれば貧困に転がり落ちる、まさに一寸先は闇という生活を彼女たちは日常的に送っているわけです。
そこで私は何ができるだろうと考え、経済的に安定できる環境を整備しようと思ったんです。給与はもともとウガンダの平均より高く設定していますが、前編でも触れたように無利子の教育ローンや年金制度、医療費補助などの仕組みなども整えました。いつ何時資金ニーズが発生するかわからない、そういう中でも彼女たちが安心して仕事に集中できる環境を作ることが経営者としての使命だと気づいたからです。
そういうニーズに気づくためにも、常に目の前の状況や相手の様子を観察する目を持たなければなりません。困っていることの背景を探り、それを打破するには何をすればいいのかを俯瞰して考えることでメンバーをつなぎとめることができるし、結果としてそれが事業を推進する力になります。
株式会社RICCI EVERYDAY/RICCI EVERYDAY Inc. は、アフリカン・プリントを使用したバッグ及びトラベルグッズの生産・販売を行っている。代表取締役は仲本律枝氏(社長)、仲本千津氏(COO)。母娘の協働事業ということでも注目されている。日本法人は2015年、ウガンダ法人は16年に設立。日本では静岡、ウガンダでは首都カンパラに本拠を置く。
https://www.riccieveryday.com/
ウガンダの工房での生産の様子。仕入れた布を洗濯(上)した後、丁寧にアイロンをかけて裁断、縫製(中)と進む。持ち手部分の革は手で縫いつける(下)。(写真提供:RICCI EVERYDAY)
現地のコミュニティで人脈を広げ、
ビジネスや支援活動の糸口を見出す
最近は社会的事業に関心が高まって、企業で働くかNGO/NPOなど国際協力団体で働くか迷う方もいるようです。銀行とNGOで働き、起業も経験した立場からそういう方にアドバイスをするとしたら、あれこれ考えすぎず現場に行くことをお勧めしたいですね。活動したい場所や団体にまず身を置いてみるんです。
日本ではインターネットが発達しているし、ウェブ以外にもいろいろな情報ソースがありますが、新興国ではそういうことはありません。情報は足で稼ぐしかない。ウガンダでもウェブサイトを持つ会社もありますが更新されていないことが多いので、現地に行かないと最新情報は得られません。
また、ウガンダではイギリスの植民地支配の名残で、現場を監督する立場にあったインド人が今も大きな影響力を持っています。そういう人にリーチするためにも現地のインド人コミュニティや集まりに顔を出して、人脈を広げることも重要です。そういうところからビジネスや支援活動の糸口が見つかることもあるでしょう。
さらに、自分がそこで暮らしていけるかを試す意味でも、少なくとも3か月くらいは滞在してみることも意味があると思います。
NGO時代のプロボノで、いまの事業の疑似体験ができた
もう1つ、私がやってよかったと思うのはプロボノ* ですね。農業支援NGOの東京オフィスで働いていたとき、空いた時間を使ってバッグなどを手がけるエチオピア発のレザーブランド「andu amet」の手伝いをしていたことがあるんです。
当時はまさか自分も同じような事業を立ち上げるとは思ってもみませんでしたが、その経験があったおかげでデザイナーやファッション界隈の方々と知り合えましたし、ファッションブランドの1年の回し方、PRやブランディングについて断片的にでも理解することができました。アフリカでビジネスをすることのリスクも学びました。そのブランドの運営を自分事として考えられる経験をさせてもらえて、いわばいまの事業の疑似体験ができたわけです。
社会人の方も忙しいでしょうけど、例えば空いた時間で関心のある活動に少し参加してみるという形で、まず一歩を踏み出してみるとまた違う視野が開けてくるのではないでしょうか。
南半球で販路を開拓し、通年売上の安定化を目指す
今後は、日本以外の地域にも販路を広げていきたいと考えています。RICCI EVERYDAYの商品はデザイン的に春夏が強く、秋冬がいまひとつです。なので、日本の秋冬シーズンに、南半球や1年中温暖な地域で販売できれば年間の売上を安定化させることができます。例えばオーストラリア、米国西海岸あたりがいいかなと思っていますが、具体的にはまだ模索中です。
また、もともとの私の問題関心である、紛争後に人々がどう人間的な生活を取り戻すかという課題にも取り組んでいきます。例えば、ウガンダ北部に多く存在する、子どもの頃に紛争に駆り出された「元子ども兵」の自立支援。これは事業化に向けて動き出しています。
ウガンダ北部は2006年まで20年近く内戦状態にありましたが、そこで戦闘の矢面に立たされたのが子どもたちでした。武装勢力が小学校や村から子どもを拉致して、暴力や薬物で洗脳して兵士に仕立て、前線で戦うことを強いたのです。女性も戦いを強制されたり、性的奴隷や荷物の運び屋にされたりしました。
ケガや病気をして1、2年で解放された人もいますが、長いと10年くらい拘束された人もいます。そういう人は保護されて地元に帰って生計を立てようにも、メンタル的に問題があるとか、基礎学力に欠ける、農業さえやり方が分からないといった具合で、人生を立て直すのが難しいのが実情です。
元子ども兵に雇用を提供して人生の再建を支援
そんな状況を改善しようと、「テラ・ルネッサンス」** という日本のNPOが、元子ども兵向けの3年間の社会復帰プログラムを提供しています。平和教育やメンタルケアはもちろん、テーラリング(縫製・仕立て)や大工などの職業訓練もあります。私たちは、ここでテーラリングを学んだ人たちとの協働を2017年8月から進めています。
私たちが商品のデザインとグローバルに勝負できる高い技術を提供し、彼らが製作を担当します。2018年4月の商品化を目指していまして***、実現すれば元子ども兵の収入源を増やすことができるでしょう。
これが今後、社会的なインパクトにつながればうれしいですが、少なくとも商品を通してそういう人たちの存在を知ることや、その人たちが生み出された紛争の背景を知るきっかけになれば、それも変化の1つだと思います。巡り巡ってウガンダの社会を底上げする助けになればいいなと思っています。
コミュニティ全体がいい循環で回っていけば社会も安定する
紛争を経験した地域でもう一度平和を作っていくには、人々がまっとうな仕事を得て社会とつながることが重要ではないかと私は考えています。
仕事に就かず街中でたむろして、社会に対する不満ばかり募らせる人たちが一番危ない。そういう人が悪い政治家に扇動されて銃を渡され、「今日からお前は民兵になれ」と駆り出されてしまう。そうやって少しずつ状況が深刻化していくという流れがあります。
たむろしている状況を作らないためには、まず仕事を提供していかないといけません。働いて報酬を得ることで生活が安定すれば社会への不満が軽減しますし、同時に自信や自己肯定感を高めることにもつながります。自分は家族を幸せにしているんだ、社会から必要とされているんだと実感できる人が増えれば、コミュニティ全体がいい循環で回っていくでしょうし、そういうコミュニティがいくつかできれば社会も安定化していくのではないでしょうか。
ウガンダ北部だけでなく、南スーダンやブルンジなども過酷な歴史からコミュニティがぜい弱になっています。そういう地域こそ人々の自己肯定感を高めていくことが必要ですし、その意味で仕事を作り出すことの意義は大きいはず。RICCI EVERYDAYは今後も販路を広げ生産体制を拡大していくとともに、ゆくゆくはNGOと協働しながらウガンダだけでなく、幅広い地域でも雇用を提供していけたらと考えています。
WEB限定コンテンツ
(2018.3.13 港区のコクヨ品川SSTオフィスにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri
* プロボノ
職業上持っているスキル、知識、経験をボランティア活動に生かす取り組み。
1980年代後半から2006年まで、ウガンダ北部では政府軍と反政府武装勢力LRAとの間で戦闘が続いた。この間、LRAは多くの村人を拉致し、強制的に戦闘や労働に従事させた。18歳未満の子どもの拉致被害者数は6万人以上ともいわれる。
** 認定NPO法人テラ・ルネッサンスは「地雷」「小型武器」「子ども兵」「平和教育」という4つの課題の解決に取り組む団体。2001年設立。
https://www.terra-r.jp/
*** 現在は商品化済み。
仲本千津(なかもと・ちづ)
株式会社RICCI EVERYDAYのCOO。1984年静岡県生まれ。一橋大学大学院修了。日本の都市銀行を経て、農業支援NGOの活動でウガンダに駐在。現地のシングルマザーたちとともに、アフリカ布を使用したバッグやトラベルグッズを企画・製造・販売する「RICCI EVERYDAY」を、日本に暮らす母・律枝氏と共に立ち上げる。2015年に日本法人、2016年に現地法人及び直営店舗をカンパラ市に設立。2016年11月、第1回日本アフリカ起業支援イニシアチブ最優秀賞受賞。