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ロンドン・オリンピックのレガシーが
新たな都市の起爆剤に

[Here East]London, UK

イースト・ロンドンは2012年ロンドン・オリンピックが開催されたエリア。この地が選ばれたのは、放置されていた旧工業地帯を再生するためだった。費用のかかるオリンピックを開催する上で、その「レガシー」をいかに次世代に継承するかは重要だ。オリンピック後、ここは全域がクイーン・エリザベス公園として整備され、オリンピックで使用された施設は新たな目的のために転換・再構築されている。ヒア・イーストもその一つ。もともとは放送センター、プレスセンターだった場所だ。広大な施設は、「メーカー・ムーブメント」を支援するために改装された。企業や教育機関、スタートアップ、起業家がさらなるイノベーションを目指してグローバル企業とコラボレートできる場だ。2020年「東京」後のレガシーの継承を考える上でも、興味深い事例と言えるだろう。

ヒア・イーストは、言わば職住近接のテックキャンパス。選手村とその周辺を集合住宅へと改装したイースト・ヴィレッジを含めオリンピック・パーク内だけで2万戸以上が建設予定で、隣接するハックニーウィックやタワーハムレットといった地区にも若者が集まりつつある。ヒア・イーストCEOのギャビン・プール氏は言う。

「若くて才能のある人材を確保するのは、企業にとっての課題。そのため、若いファミリー向けの住まいは重要です。今の若い世代は通勤を嫌います。歩いて10〜15分、自転車でも15~20分が彼らの理想。電車で片道1時間なんて考えられないと彼らは言うでしょう。家や商業施設に近く、公園があり、スポーツやウェルビーイング系施設ができることも若い世代にアピールします。その全てがここでは揃うのです」

ヒア・イーストは、テクノロジー企業や大学が集積する場であると同時に地域経済への貢献も目指している。ローカルな飲食店なども入居し、個性ある街を目指している。

天井の高いカフェテリア。スペースの大きさはここでも感じ取ることができる。

  • 「職住一致」をテーマに、クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク内には2万戸以上が新規に建設予定。現在でも週末ともなれば屋外スペースに人があふれる。

  • ヒア・イーストはもともとロンドン・オリンピックのメディアセンターだった建物。床面積は120万平方フィートと、実に巨大だ。

  • ヒア・イーストの完成予想図。すでにロンドン大学の建築学科や、レベル39出身のインキュベーターであるプレクサルなどの入居が決まっている。現在は70%ほどの入居状況。

  • ロンドンでは最高レベルの広大なスペース、電源容量、通信速度を備えるヒア・イーストには、スポーツチャンネルであるBTスポーツがオフィスとスタジオを構えている。

  • ロンドン・オリンピックの主会場だったクイーン・エリザベス・オリンピック・パーク。もともとは貧しい地域で、廃棄物処理や工業用地として荒廃していた土地だった。オリンピック終了後、再開発を担う私設会社としてロンドン・オリンピック・レガシー開発公社が誕生、再開発事業がスタートした。競技施設、オフィス、商業施設、住宅街などの都市機能を全て揃える。

最新のインフラを備える
デジタルクラスター

テクノロジー企業にとってもヒア・イーストは魅力的だ。120万平方フィートの床面積があり電気のキャパシティは42MVA、オリンピック用に整備された光ファイバーのおかげで「ロンドン内で最もインターネットが高速な施設」とも言われる。「こちらに向かいつつあるデジタル・クリエーションの波を受け止めるキャパシティが十分にあります」。オリンピック時に政府主導で投資された最新のインフラやテクノロジーを備えた施設は、テクノロジー企業には大きなプラス条件。都心部から移転してくる企業も続々決まり、デジタルクラスターとしてのヒア・イーストが立ち上がりつつある。すでに入居している企業には、スポーツ専門放送局BTスポーツやデジタルビジュアルを取り入れたダンスカンパニー、データ・センターなどがある。

大学の入居も決まっている。まもなくオープンするのは、ロンドン大学のロボティックセンターや建築学科のエンジニア部門。ラフバラ大学の国際キャンパスはすでに開校している。大学院コースのみだがデジタルイノベーション、スポーツビジネス、メディア&クリエイティブなどのコースがあり、国内で唯一の国際外交のコースがあることでも知られる。まだ内装工事が終わっていないが、もうじき建物奥にエンタープライズ・ハブが開設され、学生たちが起業に挑戦することになるという。

現在は博士課程の学生24人を含む500人弱の学生が学んでおり、うち8割が留学生だ。イギリスの大学はどこも経営難に直面しており、留学生集めは死活問題。ラフバラ大学はヒア・イーストという場所の魅力で留学生を集める道を選び、見事成果を上げたというわけだ。

「メインキャンパスにアクセスしやすいキングスクロス駅からヒア・イースト最寄りのストラトフォード駅まで高速鉄道で7分ぐらいなので、かなり近いです。また、ここは24時間オープンしていますし、学生たちはだいたい徒歩圏内に住んでいるので終電を気にせずに勉強ができます。ほぼ寝泊まりしているような学生やスタッフもいますね」


CEO
ギャビン・プール


レセプション近くに設けられたコミュニケーションスペース。

  • 木製の枠で囲われたミーティングルーム。デジタルファブリケーションに力を入れている施設らしく、三次元局面で作られている。

  • ラフバラ大学キャンパス内のカフェテリア。

  • ラフバラ大学キャンパス内のライブラリ。

  • ラフバラ大学キャンパス内、グループワークのためのスペース。

  • ラフバラ大学キャンパス内のキッチンスペース。

さまざまなテナントをつなぎ、
繁栄を生み出すエコシステム

ヒア・イーストでは、スタートアップと大企業、デジタル・メディアとデータ・センター、大学とコミュニティカレッジが、それぞれ隣り合わせている。それは独自の集合体であり、エコシステム。繁栄を生み出す仕掛けだ。

「いくつものテナントをコネクトし、新しい何かが生まれるための橋渡しをするのが私たちの役割だと思います。通常の貸しビル業ならビルがあってマネージャーがいて、契約を結んで鍵を渡したらそれで終わり。でも私たちは、長い目で見て、その企業や組織がここで成長できるかどうかを見極めてからテナントを選びます。優良なテナントはヒア・イーストにとって付加価値になりますし、さらなる優良なテナントを引き寄せます。教育研究機関があることも大きな付加価値です。大学があることでリサーチとエンタープライズの同時進行が可能になります。学生はヒア・イーストに入居する企業からサポートを受けることができますし、企業も大学との共同リサーチを必要としているので、お互いに有益。イノベーションを刺激するコラボレーションが進むでしょう」

コンサルティング(ワークスタイル):非公開
インテリア設計: 非公開
建築設計: Allies and Morrison

text: Yusuke Higashi
photo: Taiji Yamazaki

WORKSIGHT 12(2017.12)より

ローカルかつインディペンデントな飲食店を積極的に誘致している。

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