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ワーカーの刺激的な「体験」を作る
Studio O+A流オフィスデザイン

リサーチから課題抽出、デザインまでを包括的にカバー

[プリモ・オルピラ]Studio O+A 代表、創業者

1991年に仲間と共にサンフランシスコで「Studio O+A」(以下、O+A)を立ち上げて以来、多くの企業のオフィスをデザインしてきました。

今でこそアメリカ西海岸のオフィスといえば、ワークスタイルの多様性とコミュニティとしての居心地の良さを追求する先進的なオフィスの手本として知られるようになりましたが、かつてこのあたりのオフィスは単一的で旧態依然としたデザインがほとんどでした。

より民主的で、ヒエラルキーの少ないオフィスへ

それがこんなふうに変化したのは、仕事がよりソーシャルなものになったからだと思います。

インターネットが登場する前のオフィス、例えば農場や工場では定型作業が多くを占めます。しかし、情報化が進んで業務は多様で複雑になりました。市場のニーズもめまぐるしく変わります。今や流れ作業的にモノやサービスを生み出すのでは淘汰される時代です。ワーカー同士の一対一のつながり、会話、交流、そしてそこから発生する新しい発想や共同作業が価値を生む時代になったのです。

そうなると必然的にオフィスも変わらざるを得ません。より民主的で、ヒエラルキーの少ないフラットな環境を作ることが求められています。パネルを低くしたり、窓際のスペースをみんなで使うようにしたりするのは、全ての社員に「自分は大事な存在だ」「隅に押しやられていない」と感じさせ、当事者意識やモチベーションを刺激するためです。

「正しいデザイン」と「マネジメント層の意識改革」がオフィス刷新のカギ

我々がオフィスデザインを考える際に重視している要素は2つあります。

1つはデザインの正しさです。働き方を変えようと声をあげても、それに適した仕事場を提供できなければ変化は望めません。オフィスはワーカーが協働して革新的な成果を生み出すためのツールです。美しい壁紙やカーペットなど見た目が素晴らしかったとしても、ビジネスが機能するための構成要素が揃っていないと意味がない。まずはそれを踏まえるべきでしょう。

ただ、適切なデザインが盛り込まれていたとしても、それだけでは機能しません。そこでもう1つ重要になるのが、マネジメント側の意識改革です。社員に対して、「どこで仕事をしてもいいんですよ」「好きなときに休憩していいんですよ」という具合に新しい働き方を示し、それを実践するように働きかける。そうやってオフィスが社員のものとなって初めて、現場の創造性や生産性が刺激されるのです。

そういう観点から、我々はクライアント企業に対するコンサルティングも手厚く行い、チェンジマネジメント* の導入を促すこともします。デザイン会社とコンサルティング会社が1つになったようなものですね。

つまるところ、問われるのはコラボレーションということかもしれません。よいリーダーシップがあればこそ、いろいろな場所で仕事ができたり、個々のワーカーがそれぞれに適した環境で集中できたりといった副産物が得られます。コラボレーションは自然に生まれるものだと思われがちですが、そうではありません。従業員同士の強いつながりが必要です。

よいチームで仕事をすると社内の雰囲気がよくなりますし、社員は会社を信用し、協力するようになります。社員同士の良質な関係性は、オフィス環境によって醸成することが可能です。コラボレーションと銘打って一日中顔を突き合わせていれば何かが生まれるかといえば、そうではないですよね。仕事にきちんと取り組むチームがレベルの高いアウトプットを目指して一丸となるとき、すごいものが生まれます。デザインは、そうした一体感を醸成することが可能なのです。

モノの配置やデザインで、創発の機会を生み出す

クリエイティブなオフィスでは、例えば壁がホワイトボードになっていたり、別部署の人と自然な交流が生まれるような動線を設計したりと、随所に創発を促す工夫が凝らされています。アイデアはいつ、どこで生まれるか分かりません。モノの配置やデザインで、そういう幸せな機会を自然と生み出すことができます。

私たちのデザインするオフィスには開けた空間が多く、ワークスペースは窓側に、会議室はその反対側に持ってくることが多いですね。自然光や眺望、解放感をみんなで共有できる民主的な空間作りを得意としています。それはO+Aの考え方を如実に表したものです。マネジャーの執務スペースを窓側に作りたいなら、他のデザイン会社に頼んだほうがいいでしょう。でも、それはひょっとすると、人気のない活気に欠けるオフィスを作ることになるかもしれません。

コラボレーティブな空間作りにかけては、私たちにはたくさんの実績があります。クライアントになるのは、そういう事例を見て「いいね!」と共感してくれる企業です。そういう方々と一緒になって、働き方を観察し、企業理念を分析し、なおかつ我々がこれまで蓄えた知見をふんだんに提供しながら、直感的な方法でオープンな空間を作っていく。それが我々の仕事なのです。


Studio O+Aは米国サンフランシスコの建築設計事務所。スタートアップ企業から、Microsoft、Uber、Alibaba、Facebook、Cisco、Nike、Evernoteといった有名企業まで、数多くのオフィスのコンサルティングや設計を手掛け、西海岸流オフィスデザインの主導的存在となっている。
http://o-plus-a.com/

* チェンジマネジメント
組織を変革するための管理手法。

ソファの配置や壁の模様に至るまで、
全てのデザインに意図がある

クライアントからオフィスデザインを依頼されて、すぐに設計に入るわけではありません。デザインの前にクライアント企業を深く理解するため、リサーチに十分な時間をかけます。

最初の1ヵ月はひたすら観察します。働く時間、仕事に取り組む際のスタイル、オフィスに対する不満や要望など、彼らの仕事の流れや決まりを理解し、現状の仕事場の問題点をあぶり出します。その上で、問題点を改善するデザインを生成するのです。

社員が何回コーヒーを飲みに行くかも数えますよ(笑)。だからクライアントへの報告も子細になるし、提案に説得力が増します。「社員は建物のこのあたりに、45分から2時間に1回は行きます。なので、この機能を1つフロアから外せばこんな影響が出て……」という具合です。他の会社のリサーチを活用する手もありますが、情報のソースや質問の精度が分かりませんからね。デザインに責任を持ちたいので、リサーチも自前で行うというのが我々のポリシーです。

綿密なリサーチの上に課題を抽出し、改善プログラムを作り、クライアントの承認を受けたら実行して、課題を解決に導く。ワンストップで全て行うのが我々の特徴であり強みです。従来的なデザイン会社の枠を超えたことをしていますが、多様な課題をデザインで解決できると信じているからこそ、こうしたプロセスを踏む必要があります。

プロセス全体を包括的にカバーするので、「コーヒー・スタンドはいくつ置けばいいだろう? 4つ? いや、1つにしよう」とか、「カフェテリアはどの階にあるのがいいだろう? 最上階の見晴らしのいいところ? いや、みんなが集まれる真ん中の階だな」という具合に、芯をとらえたデザインを描くことができます。ソファの配置や壁の模様に至るまで、全てのデザインに意図があるのです。

優れた体験をもたらすオフィスなら、常にピークで仕事ができる

光を共有するとかコミュニケーションを活性化するということからもわかるように、我々が重視するのは単にオフィスという箱を作ることではなく、「体験を作る」ことです。

オフィスを魅力ある場所たらしめる要素は何かといえば、その答えはみなさんの体験の中にあるんです。お気に入りのカフェ、書店、レストラン、ホテル、あるいは自宅のお気に入りの場所。そこにある何かが「居心地がいい」「集中できる」と思わせているわけですね。それが何なのかは分からないけれど、そこにあることは分かる。そういう空間にいるときは、そのことに気づきません。でも間違っているときは分かります。理屈ではなく、ただ「ここにいたくない」と感じるはずです。

日々私たちが味わう体験には、良いものも悪いものもあります。人間には適応能力があるので、気に入らないオフィスでも我慢して、それなりにパフォーマンスは発揮できるかもしれませんが、レベルの高い仕事はできないでしょう。しかし、もし本当に自分に合うオフィスで仕事ができればどうでしょう? 常にピークで最高の仕事ができます。

我々は、その人に一番合った環境を作りたいと思っています。O+Aの仕事は、意味のある、感動するような体験を作り、働くのに必要な環境を作ること。誰でもただ座って黙々と作業するのではなく、周りの環境にインスパイアされながら働きたいものです。周りの人たちとの関係性や間取りなど、全てが影響して体験をもたらします。だからデザインだけでなく、オフィスという空間をどう体験してもらうか、そこに我々は注力しているのです。

複数のレイヤーはデザインが深くてしっかりしていることの証

オフィスは社員の行動に影響を与えます。また会社の文化や価値観はオフィスに反映します。デザイナーの使命はそれを理解し、作業スペースや会議室、交流エリアなど、さまざまな要素を絡めて最良の仕事環境を作ることです。

O+Aのデザインを見た人はよく「いくつものレイヤー(層)がありますね」と言います。表面的でなく、いろいろな面があるということです。それはデザインが深くてしっかりしていることの証だと思います。人はその空間からさまざまなレイヤーを感じ取り、心に訴える何かを察知する。いわばデザインがメッセージを発しているわけで、それは「また来たい」と思わせる特別な体験につながります。

単に家具を変えたり、壁紙をクールにするだけではダメなのです。クールであるなら、そこに意味が必要だし、社員を表すクールさでないといけません。オフィスは社風や社員を表すものであるべきです。

オフィスデザインは“働き方改革”を後押しする

例えば作りかけのオフィスで、私たちがプロジェクトをいったんストップして社員に入ってもらうと、いい感じに変化していくことはよくあります。社員に乗っ取ってもらうわけですね(笑)。彼らが自由に進めると、いろいろなスペースがカスタマイズされます。しっかり関わって、その空間を自分たちのものにしようとしているわけですから、我々はこういう乗っ取りは喜んで受け入れます。

スペースを私的に活用するということは、そこが特定の人だけのものになるということではありません。1つのスペースを時間帯によってさまざまな用途に使うということです。オフィスの場合、狭い面積を高い家賃で借りるケースも多いですから、空間は柔軟にさまざまな用途で使った方が効率的です。

カフェテリア、全社会議の場、ヨガスペース……何でもいいでしょう。多目的に使えるスペースがあればワーカーの満足度も向上します。実際、「仕事が終わってもここに残りたい」と多くの社員が思う、そういうオフィスを我々はこれまでたくさん作ってきました。

オフィスのデザインは働く環境に変化をもたらすことができます。そしてそれは、ワークスタイルの多様化や知的生産性の向上、イノベーション創出などを含む“働き方改革”を後押しするものでもあるはずです。

WEB限定コンテンツ
(2018.4.6 港区のコクヨ東京品川SSTオフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Nahoko Morimoto

O+Aではメンバー同士が密に連携。ディスカッションを重ねながらプロジェクトを進めていく。(写真提供:Studio O+A)

O+Aがデザインを手掛けたオフィスの取材記事はこちら。

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プリモ・オルピラ(Primo Orpilla)

Studio O+A 代表、創業者。1992年、Studio O+Aを設立し、サンフランシスコで活動を展開。企業のオフィスデザインやコンサルティングを手掛ける、西海岸流オフィスデザインの第一人者。Cooper-Hewitt National Design Award インテリアデザイン部門賞(2016年)など、受賞歴多数。IE School of Architecture and Design、サンノゼ州立大学デザイン学部講師も務める。(写真提供:Studio O+A)

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