Workplace
Aug. 27, 2018
ロンドンの住環境を変える
世界最大のコリビング
[The Collective]London, UK
ザ・コレクティブのサービスは、ロンドンの若者の声を代弁している。
「私たちの世代にとって、家をシェアすることは自然の流れです。まず、シェアすることによって、自らが特定のコミュニティの一部になることを望んでいる。ロンドンに暮らす18歳から34歳までの人の83%が、自分は孤独であるという統計結果が出ていますから。そしてロンドンは物件価格や賃料が高騰していて、暮らすためにはシェア以外の選択肢が難しいという現実もあります」(CEOのレザ・マーチャント氏)
コリビングが若者に支持されるのは当然のなりゆきというわけだ。ザ・コレクティブの運営するコリビング施設には、家具も食器も全て用意されており、着の身着のまますぐに入居可能。もちろん、いつでも退去可能。「モノを持たず、所有権だけ得る」という形の住まいだからできることだ。
マーチャント氏がコリビングのビジネスを始めたのは大学在籍中のことだ。タクシーを呼ぶにもスマートフォンをタップするだけで済むほどテクノロジーが発達したにもかかわらず、賃貸物件を借りる際のプロセスがその恩恵にあずかっていないと感じた。
「やっと気に入った物件が見つかったとしても、やれデポジットだ、保証人だと契約に伴う手続きが大変だし、さらに引っ越しで家具を入れたりインターネットの回線を引いたりと、とにかく面倒が続きます」
そこで2010年、銀行から借りた1600ポンドを元手に不動産賃貸のエージェントを始めたものの、適当な物件が見当たらず、小さな家を借り上げてシェアハウスにした。その後、数年で扱う物件は少しずつ増え、現在はロンドンに5物件を構えている。
ザ・コレクティブ
CEO
レザ・マーチャント
部屋数は550室。
住人は年齢も職種も多岐にわたる
そして2016年、世界最大のコリビングとして立ち上げたのがオールドオークだ。部屋数は550室。部屋は6タイプあり、2部屋でミニキッチンを共有するプランがスタンダード。トイレとシャワーは各部屋につく。これにWi-Fi、ジムの利用、2週間に1回のリネン交換と掃除、共有スペースへのアクセスを含めて月850ポンド。郊外にあるとは言え安くはないが、これだけのサービスがついての家賃は、ロンドンのほかの物件と比べても決して高くはない。
そのほかにも、1400㎡のシェアスペース、コワーキングスペースにスパ、図書館、シネマ、レストラン&バーまでを併設する。いずれも1人で賃貸暮らしをしていたら持ちようがないスペースだ。
住人の平均年齢は28歳で、18歳から60歳まで幅広い年齢層が暮らす。業種はデザイン系、金融系、働き方も企業に所属する者からフリーランスまでさまざまだが、平均像を挙げるなら「28歳のテック系企業勤務」というところ。イギリス人は60%で、残りの40%は外国籍だという。ダイニングルームでは毎週20〜30のイベントを開催、住人が交流する機会を演出している。
各フロアには中廊下に面して35〜75室の個室が並ぶ
エレベーターホールにはイベント掲示板が。イベントを通じて住民に豊かな経験がシェアされる。
ザ・コレクティブは
コリビングだけで終わらない
ザ・コレクティブは今後、コリビングをコアにしながらも、コワーキングスペースやオフィスも広げようとしている。ベッドフォード・スクエアにある、ザ・コレクティブの本社兼コワーキングスペースはその好例だ。
建物は1770年代に建てられ、イングランドの保存指定建造物で最も重要度の高いグレード1に分類されているもの。「ミーティングルームのドアが弧を描いていたり、階段を上がる時に上を見るとドーム型の天窓があったり、とても美しく、歴史を感じさせる建物です」
どの物件においても、インハウスのデザイナーがインテリアを手がけることで、ブランドとしてのアイデンティティを打ち出している。「ラグジュアリーに見えるかもしれませんが、実はそうでもないんです。質の高いデザインとはたくさんのお金がつぎ込まれたものでなく、よく考えられたデザインのことですから」。しかし、美しいデザインを提供するだけでは終わらない。
「交流イベントを通してより深いコネクションが生まれ、ビジネスに発展することもあれば、カップルが誕生することも。オールドオークの住人から『ここで暮らした1年は普通のところに暮らす3年分ぐらいに相当する』と言われたことがありますが、それこそ私たちの目指すもの。ここで暮らすことでより密度の濃い体験をしてもらいたいのです。コリビングとは風雨を凌ぐだけの場所ではありません。私たちが新しい暮らし方を示し、社会を変えるきっかけになればと思います」
コンサルティング(ワークスタイル):非公開
インテリア設計:Design Haus Liberty
建築設計:PLP Architecture
text: Yusuke Higashi
photo: Taiji Yamazaki
WORKSIGHT 12(2017.12)より