Management
Aug. 20, 2018
群雄割拠するアジアのサービスオフィス・プレイヤー。注目株は?
新しいオフィス環境が経済価値をもたらす
[木下一美]Go Asia Offices Japan代表、サービスオフィスコンサルタント
サービスオフィスやコワーキングスペースなどフレキシブルオフィスの紹介を始めとした企業の海外進出のお手伝いを、アジア中心に行っています。欧米と比べても、アジアは非常に多様性に富んでいて面白いですよ。
オフィス利用者の多様性が新しいものを生み出す土壌に
最も多様性があるのはシンガポールです。ユーザには企業もいれば個人もいるし、利用する業界もコンサル、旅行関係、ITなど幅広く、人種も欧米人、ドイツ人、中国人、インド人などさまざまです。日本の場合、例えば渋谷のサービスオフィスを使っているのはほとんど日本人で、業界もITベンチャー、PRマーケティング、クリエイティブ系など特定分野に偏っていますが、それと対照的ですね。
この多様性がコミュニティを発達させるでしょうし、そこからアイデアや技術も創発されるはず。同類で固まって、自分たちの業界の話に終始するだけでは新しいものは生まれません。混沌とした豊かさから、すごいものが生まれると思うんです。ここがまず日本とアジアの違いではないかと思います。
シンガポールを筆頭に、香港、上海、北京あたりがアジアのトップ層です。その後にマレーシア・クアラルンプール、ベトナム・ホーチミンといった都市があり、そこにタイ・バンコク、インドネシア・ジャカルタが追いついてきている。それがASEANのイメージです。
先日、ホーチミンにできたコワーキングスペースを見てきましたが、そこはビル1棟が丸ごとコワーキングに使われるそうです。とはいえ個室も多くて、外資系企業で働くベトナム人が8割を占めているような印象でした。そのほかにフリーランスや学生、さらに旅行しながら仕事をする欧米人も散見されました。
他の地域や国はインフラが未熟で、街の喫茶店がコワーキングスペースになっているようなところも多いですが、いずれにせよさまざまな人がさまざまな形で活用しているんですね。その需要を取り込もうと大手コワーキング事業者もチャンスをうかがっています。
起業しやすいタイやシンガポールに人材も資金も集まる
タイも現地の利用者が多いのですが、バンコクに新しくできたオランダ系のSpacesでは外国人のビジネスパーソンの姿が目立ちます。
タイやシンガポールでは、欧米から来て会社を作る人がいるんですね。外国人の起業家ということです。日本でも外国人が起業する例はありますが、ビザを取るのも法人格を取得するのもハードルが高い。ところがシンガポールやタイはそのあたりが柔軟で、欧米の起業家が集まってくるのです。1つのオフィスにイギリス人、ドイツ人、タイ人、中国人などさまざまな国籍の人がいることも珍しくありません。そういう多様性のあるワークプレイスが増えていることは注視しておきたいですね。
実際、シンガポールではスタートアップが増えているし、日本企業の上を行く技術を持つ企業も少なくありません。すると、そうしたスタートアップを目当てに大企業やファンドが投資目的で入居してくることもある。いいエンジェルが得られればスタートアップ側も奮起するし、ビジネスにさらにドライブがかかるでしょう。
コワーキングスペースやサービスオフィスの増加は、起業や、さらにいえば経済活性化と同時進行で進んでいくわけで、新しいオフィス環境はその地域や経済に大きな価値をもたらすと思います。
Go Asia Offices Japanは、アジアのサービスオフィスに特化したコンサルティング企業。顧客に対して、オフィス情報提供、現地見学手配、交渉アドバイス、契約締結などの支援を行っている。本社所在地は神奈川県横浜市。2011年4月設立。
https://www.facebook.com/GoAsiaOffices.jp
立地や客層の違いに合わせて雰囲気を調整。
より高度なオフィスデザインを体現
アジアのサービスオフィスやコワーキングスペースを展開する事業者は多数ありますが、注目株というとJustCoですね。コワーキングスペースをシンガポールに8か所、バンコクに2か所、ジャカルタに3か所と、破竹の勢いでオープンしています。ジャカルタやバンコクでは現地の不動産やデベロッパーとも提携して事業を進めているようです。
創業者はコーン(Kong)夫妻で、私は2013年ごろに会ったことがあります。つい4年くらい前まではサービスオフィスのローカルオペレーターの1つに過ぎませんでしたが、今やアジアでは大きな存在感を発揮しています。
もう1つの注目株がARCCグループです。北京、香港、上海、クアラルンプール、シンガポール、ヤンゴンにオフィスを造っています。中にはビル1棟丸ごとコワーキングスペースというものもあって(The CO)、スケールの大きさを感じさせます。
ARCCは店舗ごと、あるいはフロアごとにコンセプトを変えたスペースを造っていて、これも面白い取り組みだと思います。多くのサービスオフィスやコワーキングスペースではブランドイメージを維持するためにデザインを同じにしますが、例えば原宿と大手町で客層が違うように、立地によって雰囲気を軽くしたり重くしたりする必要がある。このARCCの戦略にJustCoなども追随して、スペースによって廊下の幅や色遣いを変える動きが見られます。
中国系のnaked Hubも勢いがあります。上海、北京、香港に多く拠点を構えて国内の足場固めをして、ハノイやホーチミンにも展開し始めました。今後はさらに海外へ撃って出るのではないでしょうか。アジアを中心にグローバルでも活躍できそうな雰囲気があります。
高級ホテルのような洗練されたデザインが特徴のColony
タイはローカルの小規模事業者が多いですけど、SpacesとJustCoが相次いでコワーキングスペースをオープン、もしくはオープンを予定しています。都心の真ん中に数千坪という規模を誇り、WeWorkが来る前* にとにかくビルを押さえたという感じ(笑)。競争の熾烈さをうかがわせます。
コワーキングスペースやサービスオフィスが増えているのがインドネシアやマレーシアです。マレーシアはColonyとCommon Groundという事業者がしのぎを削っています。Common Groundはすでにアジア展開を発表していますが、ここはコワーキングに近く、Colonyはどちらかというとサービスオフィスに近い。どちらもここ1、2年で急成長してきた会社です。
特にColonyはデザインが洗練されています。夫婦で創業されていますが、日本が大好きというオーナーのセンスが素晴らしく、まるで高級ホテルのような雰囲気です。カフェコーナーや保育室もあり、静かで集中できる環境ということで日本企業も入居しています。
サービスオフィス事業者が企業を囲い込む動きも
デザインやコンセプトにバリエーションを持たせるとか、場所を選ばずに仕事をしたいユーザのために複数に拠点を構えるなど、ハードだけでなくソフトの充実も求められるフェーズに入ってきたんですね。
ソフト面の充実ということでいえば、サービスオフィスやコワーキングスペースの事業者と利用企業の間で仲介をするビジネスがアメリカで生まれています。例えば東京でいますぐ50人のスペースがほしいという企業に対して、普通の賃貸オフィスだけでなく、サービスオフィスやコワーキングの事業者にも当たって、必要なオフィスを確保するという具合です。そういうオフィス仲介契約をグローバルに組むわけです。
こうした動きを受けて、サービスオフィスの運営サイドでもコーポレートチームを作って、顧客企業の囲い込みに乗り出したところがあります。例えばグローバル企業であるA社のヘッドクオーターと話をつけて、A社の世界中のオフィスは全て自社を通して契約してもらう。そういうサービスがいくつか出てきています。香港のサービスオフィス事業者もコーポレートチームを作って、どんどん企業を囲い込もうという姿勢を見せています。
不動産コンサルティングを手掛けるジョーンズラングラサールやCBREも、以前は普通のオフィスしか扱わなかったのですが、ここ1、2年はフレキシブルオフィスを専門に扱うチームがヨーロッパから始まって、シンガポールと香港でも活動するようになりました。世界の動きに乗り遅れないよう、日本もフレキシブルオフィスの事業者としての能力を向上させる必要があるでしょう。
次から次へと新しいものができるのが面白い
特にアジア圏はサービスオフィスやコワーキングスペースの変化が激しく、半年で街の風景が一変してしまうこともあるほど。今後オフィスの形がどう変化するか、どんな企業がさらに台頭していくか、全体像を見通すことは難しいですね。
日本で知名度を上げたWeWorkにしても、全世界のマーケットの17パーセントを取ると気勢を上げているけれども、設備やサービスに手厚く投資していますし、景気が下がれば入居料も抑えざるを得ません。フレキシブルオフィスの世界的な人気をバブルにたとえる向きもあります。
私はオフィスビジネスについて借りる側も貸す側も仲介も、全て手掛けてきましたけど、これだけ状況が大きく、しかも急激に変わることはいまだかつてありません。次から次へと新しいものができるので、面白くて仕方がない(笑)。わくわくしながら、小まめに現地に足を運んで、街やオフィスの変化の兆しを敏感にキャッチしていきたい。そして、変化のその先にある新たな価値を顧客に届けていきたいと思っています。
WEB限定コンテンツ
(2018.6.12 渋谷区のTHINK OF THINGSにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri
以下、■印は各社のウェブサイト
■JustCo
https://www.justcoglobal.com/
JustCoについて木下氏は「今後はマニラあたりにも進出するのではないか。東京も視野に入っているかもしれない」と見る。
■ARCC グループ
https://arccoffices.com/
■naked Hub
https://www.nakedhub.com/
※2018年4月にWeWorkがnaked Hubを買収した。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-04-11/wework-is-acquiring-china-s-naked-hub-for-400-million
* バンコクのWeWorkは1号店が近日オープン予定(2018年7月現在)。
■Colony
https://colony.work/
■Common Ground
https://www.commonground.work/
■ジョーンズラングラサール
http://www.joneslanglasalle.co.jp/japan/ja-jp
木下一美(きのした・かずみ)
1955年、滋賀県生まれ。南山大学外国語学部卒業。John Swire & Sons Japan、ケン・コーポレーション、リージャス、ジョーンズ ラング ラサール日本などを経て、Go Asia Offices Japanを設立。国内外の豊富なサービスオフィス事業経験を元に、多国籍企業からローカル企業まで幅広くオフィスコンサルティングを行っている。