このエントリーをはてなブックマークに追加

シェアサービスを提供するホストになって、新しい世界が見えてきた

シェアハウスは出会いに満ちたリアルなSNS空間

[佐別当隆志] 一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局長、株式会社ガイアックス ブランド推進室、株式会社mazel CEO、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師

2000年からソーシャルメディアの開発・運用などを手がけるガイアックスで働き始めました。当時はインターネット黎明期でSNSもシェアの概念も浸透していませんでしたが、インターネットの人と人をつなぐ力に魅力を感じて、この新しいジャンルで自分の力を試したいと思ったんです。

リアルな人間関係が希薄になることへの違和感

2010年ごろからツイッターやフェイスブックがはやり出して、SNSの可能性を実感する一方、リアルにつながる機会が減っていくこと、匿名で言いっ放しのタコつぼ化したコミュニティが増えることに違和感を抱くようになりました。インターネットは人間関係を可視化するけれども、リアルな人間関係が希薄になってしまう。ネットで完結することに釈然としないものを感じていたんです。

そのとき東京・恵比寿のシェアハウスに引っ越す機会がありました。同僚が別のシェアハウスに住んでいて、住人たちと和気あいあいと暮らしている姿に刺激を受けたんです。

僕が引っ越したシェアハウスの住人は34、5人。個室は5~6畳ですが、だだっ広いリビングキッチンがあって、みんなでご飯を食べたり友達を呼んだりして、住んでいるだけでいろんな人とつながれるリアルなSNS空間といった趣です。フェイスブックやツイッターなど実際のSNSでも交流して、これからはインターネットのコミュニケーションとリアルのコミュニケーションが融合する時代が来るのではと直感しました。

家賃は共益費込みで11~12万円ですから、相場的には安くありません。住まいにお金じゃない価値を求めているだけに、ユニークな住人が多かったです。大使館や外資系コンサルに勤める人、ベンチャーキャピタリスト、起業家、学生など、年齢も国籍も多彩でダイバーシティな空間。外に遊びに行くより、シェアハウスで話している方が新たな出会いがありましたね。妻ともそこで知り合いました。

アメリカの豪邸でシェアハウスのように仲間とくつろぐ

その後、IT系の経営者たちと一緒にアメリカへSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に行く機会があったのですが、滞在中にAirbnbを利用して驚きました。

宿泊先は豪邸で、こんなすごいところにそれほど高くない料金で泊まれることに興奮しました。夜はみんなでワインや軽食を楽しみながら、その日の所感を語り合ったり、ディスカッションに花を咲かせたり。出展者もいれば経営者、アライアンス目当ての人、上場して株を売却する人など、多彩な顔触れで話の内容も刺激的でしたが、合宿のような雰囲気で自然と打ち解けることができました。

宿泊先でシェアハウスのような感覚を得られたわけで、アメリカではこんなすごいサービスが生まれているのかと衝撃を受けました。当時はシェアリングエコノミーという単語が海外でも出始めたころで、これは面白い、もっとシェアを追求したいと探求心が湧きました。

とはいえ、僕は結婚して子どもの誕生が控えていました。恵比寿のシェアハウスは子ども不可なので住むことができません。ファミリー向けのシェアハウスを探しても見つからず、ならば自分たちでつくろうと、東京・大崎に土地を購入し、シェアハウス兼自宅を建てました。2013年のことです。

Airbnbのアプリ経由で利用申し込みが続々と

恵比寿での経験から、シェアハウスは家族的な感覚でなあなあの関係になることもあると分かったので、大崎では一定のけじめをつけるようにしました。

新しい入居者が来るときはみんなで掃除をするというルールを設けたほか、住まい部分も海外や地方の友達がノマド的に泊まれることにして、その場合1泊3,000〜4,000円程度の謝礼をもらっていました。ゲストとシェアメイトと家族が住める一軒家というコンセプトで、「Miraie(ミライエ)」と名付けました。

いざスタートしてみたら、友達は月に1~2回来る程度。開いている部屋がもったいないと思っていた矢先、Airbnbの日本版アプリがリリースされたので登録したところ、翌日から申し込みが次々と舞い込みました。利用者としてだけではなく、サービスを提供するホストにもなったわけで、これが自分のシェアリングエコノミーの原点になっています。


一般社団法人シェアリングエコノミー協会はシェアリングエコノミーの活性化に取り組む業界団体。政策提言と環境整備、シェアリングエコノミー認証マークの発行、シェアリングシティ宣言都市の表彰・認定、勉強会・各種イベントの開催などを行う。代表理事は上田祐司氏(株式会社ガイアックス)と重松大輔氏(株式会社スペースマーケット)。2015年設立。
https://sharing-economy.jp/


株式会社ガイアックスは人と人をつなげ、社会課題の解決を目指すことを掲げ、ソーシャルメディア事業、シェアリングエコノミー事業、インキュベーション事業を展開。代表執行役社長は上田祐司氏。1999年設立。
https://www.gaiax.co.jp/


株式会社mazelは、「人を混ぜ、文化を雑ぜ、新たな社会の交差点をつくる」ことをミッションとした会社。CEOは佐別当隆志氏。2017年設立。
http://mazel.jp/

シェアリングエコノミー伝道師は、地方においてシェアリングエコノミーの導入を促進するため、豊富な知見や活用の実績等を備え、シェアリングエコノミーの活用をわかりやすく説明する人材のこと。2018年9月現在、佐別当氏を含めた11名が任命されている。


Miraie大崎のウェブサイト。
http://miraie.info/

保育園は外部との接点が少なく閉鎖的。
保育士や空間をシェアすることの利点は多い

Miraieの運営は順調でしたが、東京オリンピックによる地域の再開発で取り壊しが決まり、引っ越しを余儀なくされました。

土地探しに奔走していたちょうどそのころ、渋谷区がシェアによって個人が活躍できる機会をもっと提供しようと、シェアリングエコノミー協会と協定を結ぶことになったんです。僕自身の考え方とも方向性が一致していると感じて渋谷区で不動産巡りをして、最終的に代々木上原の土地に決めました。

土地探しと並行して、保育園の運営を手掛ける友人から、保育の現場にシェアリングの発想を生かしたいと相談を受けていました。保育の世界は子どもを守ろうとしすぎるあまり、外部との接点が少なく閉鎖的になってしまうというのです。

例えば保育士のシェアリングをすれば人手不足を緩和できますし、保育園不足も解消できます。地域に開かれた保育園になれば、近隣住民が保育のサポートをすることもできるでしょう。保育園の空間も、子どもたちのいない休日や夜間に地域でシェアすれば有効活用できる。そんなふうに、いろんなシェアリングが可能だし、シェアすることで子ども、保護者、保育士、近隣住民、自治体など、さまざまなステークホルダーに良い影響をもたらすのではないかと話していたんです。

ダイバーシティな保育環境で子どもの可能性を広げていく

たまたま代々木上原の土地が僕ら家族だけでは手に余る広さだったこともあり、いっそのこと保育園つきのシェアハウスはどうかと提案したら快諾され、トントン拍子に話が進みました。設計や運用の自由度が高い企業主導型保育の制度を活用して、2019年2月の正式オープン* を目指して現在建設を進めています。シェアハウスの名前は「Miraie代々木上原」、保育園は「つながりシェア保育園 よよぎうえはら」です。

大崎は自宅兼シェアハウスでしたけど、代々木上原はさらにそこに保育サービスが加わるわけです。そうすると例えば、シェアメイトになる大人が子どもと触れ合う機会が作れますし、民泊で泊まりに来る外国人の子どもを預かることもできます。保育士も外国語が堪能なハーフの人が2人来てくれることになっていて、ダイバーシティな保育環境で子どもの可能性をより広げることも期待できます。

また、保育園は給食を作る設備があって調理師もいますから、シェアメイトやゲストのご飯も作ってくれたら、シェアハウスの1つの魅力になるはず。保育士がシェアハウスに住むこともできるので職住近接も実現します。機能として融合できるところは融合して、さまざまなメリットを生み出したいと考えています。

近隣との関係を重視して、できる範囲で譲歩

とはいうものの、Miraie代々木上原の着工にあたっては近隣住民の理解を得るのがなかなか大変でした。

大崎のときはまだ民泊も注目されていなかったし、現地が高齢者の多い住宅街だったこともあって、僕ら若い世代が家族ぐるみで入居することも、ゲストが商店街にお金を落としてくれることもひっくるめて、地域のみなさんが歓迎して応援してくれたんです。

そういう実績もあるので、今回もスムーズに事が運ぶかと思いきや、近隣の方向けの説明会では、説明のタイミングが遅く、配慮が足りないと多数指摘をいただきました。土地の取得も施工も合法的に進めているので合意を取る必要はないんですけど、関係性を重視したいので設計の最終段階まで6回くらい説明会を開いて、意見交換を続けました。その結果、防音を一段階強化する、屋上は出入り禁止にするなど、近隣の方が気にすることはできる範囲で譲歩し、何とか着工しました。

全ての方に理解いただいているわけではないですが、特に年配の方とは価値観も違えば体験してきたことも違うわけで、シェアや民泊といった未知のものに恐れを抱く気持ちは理解できます。百聞は一見に如かずで、実際に一緒に生活する姿を見て、その豊かさを体感してもらうことで何か響くものがあればいいですよね。運営が始まってから、地道に信頼関係をつくっていけたらと思っています。

WEB限定コンテンツ
(2018.7.18 千代田区のNagatacho GRIDにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri

* 2019年1月にプレオープン予定。


Miraie代々木上原のウェブサイト。
http://mazel.jp/miraie

佐別当隆志(さべっとう・たかし)

1977年、大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒。2000年、株式会社ガイアックスに入社。広報・事業開発を経て、2016年、一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し、事務局長に就任。2017年、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師に任命される。同年、株式会社mazelを設立し、CEOに就任。家族で自宅兼シェアハウスを運営し、AirbnbのホストとしてNew York Timesなど国内外のメディア掲載多数。日本におけるシェアリングエコノミーの普及・推進と共助社会の実現を目指し、法規制の緩和やユーザー理解の促進に取り組む。政治起業家として個人を中心とした手触り感のある優しい社会を目指している。

 

RECOMMENDEDおすすめの記事

マルチステークホルダー・プロセスを成功に導くのは「弱いリーダー」

[齋藤貴弘]弁護士法人ニューポート法律事務所 パートナー弁護士、一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進協議会 代表理事

人工知能テクノロジーの現状と可能性

[松尾豊]東京大学 大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 准教授

TOPPAGE
2022年7月、「WORKSIGHT[ワークサイト]」は
「自律協働社会のゆくえ」を考えるメディアへと生まれ変わりました。
ニュースレターを中心に、書籍、SNS、イベント、ポッドキャストなど、
さまざまなチャンネルを通じてコンテンツを配信します。

ニュースレターに登録する