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ブルックリンが育む
仕事場のエコシステム

[Industry City] New York, USA

サンセットパークの工場跡地を再開発した複合施設は、インダストリー・シティと名付けられた。600万平方フィートの広大な敷地に立ち並ぶビル群に、ショップやカフェのほかクリエイティブ系を中心に450の企業が入居し、約6,500人が働いている。

ニューヨーカーに人気の商業施設として注目されていることは言うまでもない。特筆すべきは、若いクリエイターによるコミュニティを形成している点だ。

インダストリー・シティに集まるのは、小さい企業が大半。若者の独立、あるいは小さい企業を好むのは国際的な動向だ。そしてモノづくりのサイズも小さくなった。技術革新によりPC内で多くの工程が完結する。3Dプリンターやレーザーカッターといったコンパクトかつ高機能な機材の進化も若者たちとモノづくりの距離を縮めた。ニューヨーク発のコワーキングスペース、ウィワーク(WeWork)の台頭も象徴的だ。デスクと長テーブルを並べ、平方インチで賃料を請求するマイクロオフィスが2兆円企業に成長している。「インダストリー・シティは、これら小規模の作り手と、ウィワークのような小規模のワークスペースの組み合わせだと言えます」
(アンドリュー・キンボールCEO)

インダストリー・シティ
CEO
アンドリュー・キンボール

  • ビルを突っ切るストリート「イノベーション・アリー」。ビルとビルをつなげて「孤立させない」仕掛け。

  • ブルックリンの南西、アッパーベイに面した造船関連施設を改修した巨大な再開発エリア。マンハッタンから地下鉄で数駅という好アクセスでもある。

  • インダストリー・シティ発のプロダクトを扱うショップ。生産から販売までクリエイターをサポートする。

  • 運営チームのオフィス。ゆったりしたオープンスペースが、彼らの思い描く「未来のオフィス」。

「オーセンティシティ」が
若いクリエイターを惹き付ける

若いクリエイターによるコミュニティが育ったことで、大企業までインダストリー・シティに惹き付けられてきたというから、興味深い。世界初のニュース雑誌『タイム』は、5万平方フィートの職場面積をミッドタウンからインダストリー・シティに移してきた。かつてはミッドタウンを拠点としており、ワールド・トレード・センターへの移転も決定していた。しかし会社の改革派が「若者のいるところに行きたい。彼らとシナジーを作り出したい」と経営陣を説得したのだという。

もう1つ、アベルサイン(AbelCine)もインダストリー・シティに移ってきた大企業の例だ。「カメラ部品の販売、修理、製造、レンタルなどを行う会社で、カメラの扱い方も教えてくれます。この会社はマンハッタンのオフィスを拡張する必要に迫られていたのですが、マンハッタンの不動産価格は上昇の一途でした」。しかし多くの従業員がブルックリンに住んでいることや、関連企業の多くもブルックリンにあることがわかって、全機能をここに移してきた。

インダストリー・シティが、ブルックリンのクリエイティブシーンに歓迎されているのは明らかだ。場所に対する美学とスタイルも、その理由。例えばキンボール氏がよく口にするオーセンティシティ(本物感)という言葉。「若いクリエイターは、オーセンティシティのある美しいビルで働きたいと願っています。それこそ我々のアプローチなんです」。クリエイターが交流する共有エリアも気が利いている。地階のラウンジや中庭、ビルとビルを貫いているストリートがそうだ。すべてのビルをつなぐことで広々としたキャンパスの一部であるという帰属意識を育んでいる。これで、1つのビルの中で孤立しなくて済むというわけだ。

  • 棟と棟の間にあるコミューナル・ゾーンでは、コミュニティ内の交流を促す各種のイベントが催される。写真はヨガのクラス。

  • 音楽イベントも。多くの若者で賑わっている。

  • ある日のイベントスペースの模様。ヴィンテージの衣類が販売されていた。入居企業にもハンドクラフトにこだわる企業が多い。

  • インダストリー・シティのテナントの1つ、「キャンプ・デイビッド」。高級感のある大人のコワーキングだ。

  • テナントの1つ。頭から尻尾まで、全部位の肉を食べることをコンセプトにしたグローサラント「エンズ・ミート」。

  • 以前からエリア内で操業されていた町工場もビル内部に残っている。

  • フードホールはハンバーガー店「バーガージョイント」などが人気。ワークスペースとしても機能する。

マンハッタンでは実現不可能な環境が
ブルックリンにはある

華やかなマンハッタンに比べると、ここは穏やかだ。マンハッタン育ちのキンボール氏は「マンハッタンには絶対戻りません」と笑ってみせた。高層ビルに邪魔されず空をいつでも見上げることができ、ブラウンストーンの建物が立ち並ぶブルックリンの街を、彼は気に入っている。「それにマンハッタンだけではなく、他の地域に商業中心部があることが重要です」。徒歩や自転車で近距離通勤できるエリアに職場があれば、公共交通機関の利用負担も軽減できる。自治体にとってもそれは願ったり叶ったりだ。職住一致、マンハッタンでは実現不可能な職場環境が、ここでは実現されている。それこそ、ミレニアル世代の若きクリエイターが望むものだ。

今後のビジョンを尋ねると、「もっと多くの大学に来てほしいですね」とキンボール氏。現在も、シティ・ユニバーシティ・オブ・ニューヨーク傘下のシティテックや、ニューヨーク大学のエンジニア学部とも提携を結んでいる。インダストリー・シティ内にイノベーションのエコシステムを作るためだ。

「今後はエンジニア、デザイン、ファッション、料理、テクノロジーなど、ニューヨークで成長している分野で活躍しようとしている若者をインダストリー・シティに配置したいですね。インターンシップをここで行い、ここで仕事に就く。または卒業して、ここに自分のスペースを構える。アカデミアとの未来に期待しています」

コンサルティング(ワークスタイル):N/A
インテリア設計: Matthews Nielsen Landscape Architects、TERRAIN architects
建築設計:N/A

text: Yusuke Higashi
photo: Ryo Suzuki

WORKSIGHT 13(2018.6)より

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