Workplace
Jan. 21, 2019
「若者」に届くメディアは
「若者」にしか作れない
[Vice]New York, USA
創業当初はドラッグ&セックスのパンキッシュなフリーペーパーだった『VICE』。20年後の今の姿を想像した者はいなかったはずだ。
2006年に動画メディアに進出すると、音楽、ファッション、アート、スポーツ、フード、社会問題、国際問題までを扱い、ミレニアル世代の絶大な支持を集めた。月間7,800万人以上のユニーク・ユーザー数を誇り、年間売上は7億ドル超と聞けば、誰もが驚き、問わずにはいられない。若者のテレビ離れ、雑誌離れが語られる中、なぜヴァイスのコンテンツだけが愛されるのか?
彼らの答えはこの上なくクリアだ。感覚の鋭い若者にウケるには、感覚の鋭い若者を集め、彼ら自身にコンテンツを作らせるしかない。同社コミュニケーション・ディレクターのイアン・フリード氏は言う。
「中を見てもらえれば、多くの20代が働いていることがわかるだろう。それは、我々の読者がまさに20代の若者だからなんです。若者は、若者が語る、若者たちの声を聞きたいと思っているのです」
建物はドミノという会社の砂糖工場の跡地を活用している。周辺にも多くの工場跡地が残っており、大規模な再開発計画が進行中だ。
「ヴァイスで働きたい」
若い才能にそう思わせるオフィス
ヴァイスのオフィスは、そんな若い才能を惹き付け、「ヴァイスで働きたい」と思わせるために存在する。現在のオフィスは3年前に改装したものだ。デザインの狙いは1つ、クリエイティブな仕事環境を作ること。フリード氏は「若い人たちの創作活動を支える場にしたかったんです」と話す。息を吸うようにユース・カルチャーを取り込み、若い視聴者と同じ感覚を養うことができる場所に、ということなのだろう。たくさんのワーカーが集まることのできる広いオープンスペースに、ソーダやキャンディ、ヘルシーなスナックを備えたキッチン、壁のアート作品も、そのためのものだ。若者にコンテンツを届けるには、若者の言葉で語らなければならない。
「オーディエンスに共感してもらえるのは、オーセンティックなコンテンツを作っているからでしょう」とフリード氏は続けた。
「若い人が若い人向けに作る本物のコンテンツだということです。特定のオーディエンスのために、彼ら自身の手によって作られたコンテンツを商品化することで、彼らを惹きつけるリアルで本当の言語で語ることができるのです」
ここでは、若者らしい個性はそのまま尊重される。タトゥーにボサボサの頭も珍しいものではない。組織としても、彼らの個性を発揮させるべく、新しい取り組みを始めた。1つは「VICE Impact」。刑事司法の問題や環境問題などヴァイスが重要だと考えるテーマを社外のオーディエンスに発信し、社会変革を推し進めるものだ。もう1つは「VICE Community」。ヴァイス内部にフォーカスしたプロジェクトで、組織の改善案を議論する場だ。「もしスタッフが『ヨガのクラスをオフィスで開いてほしい』と言うなら、取り組むことになるでしょう」(フリード氏)
「その国で最もクリエイティブな地域」に
根ざした、徹底的なローカル志向
ヴァイスが若い世代を惹き付ける理由がもう1つある。それは徹底したローカル志向だ。
ヴァイスのコンテンツはすべてローカルで作られる。イギリスのコンテンツはロンドンのショーディッチで、日本のコンテンツは渋谷で。その地域のカルチャーへの興味と理解があればこそ、その土地のオーディエンスと深くつながることができるというわけだ。スタッフは、地元の若くて優秀な人材の中から探し出す。オフィスの立地も戦略的だ。
「その国で最もクリエイティブな地域を探すんです。私たちが拠点を置くウィリアムズバーグは、世界でも屈指のクリエイティブな地域。ロンドンのオフィスがショーディッチにあるのは、そこが『ロンドンのウィリアムズバーグ』だから。東京オフィスが渋谷にあるのは、そこが『東京のウィリアムズバーグ』だからです」
若者を虜にする過激な番組作りも、こうしたローカル志向の賜物だ。いい例がある。2017年8月、米シャーロッツヴィルに白人至上主義者が集結、死亡者が出る事件が起きた。この時のデモを追った番組を『VICE News Tonight』で放映したのだ。
「特派員の女性は深く内部に入り込み、数カ月にわたって彼らを取材しました。特派員がデモにアクセスできたのは、そうして彼らと関係性を作り、デモが起きることを知ったからです。特派員が過激派の集団と一緒に車に乗り込むシーンがありましたが、その他の報道機関はそういったやり方をしません。これは地域に根を張るからできるタイプの報道なんです。だから視聴者を引き込み、人々の心を動かします」
わずか10年前に動画メディアにシフトしたヴァイスだが、今や世界最大級のプロダクションとなった。17年には4億5,000万ドルの資金調達を行い、企業価値は570億ドルと試算された。今後ヴァイスが世界一のメディア・カンパニーになることは、十分にあり得ることだろう。
コンサルティング(ワークスタイル):N/A
インテリア設計:Mimi Madigan Architects
建築設計:Mimi Madigan Architects
text: Yusuke Higashi
photo: Ryo Suzuki
WORKSIGHT 13(2018.6)より