Workplace
Jun. 17, 2019
台湾のリソースで
台湾にイノベーションを
[FutureWard]Taipei, Taiwan
もとはといえば、創業者の個人的ニーズから立ち上げられたコワーキングだ。
創業者のダニエル・リン氏はそもそも、がんワクチンの研究者。アメリカでキャリアを積んでいたが、病に倒れた父の看病のために帰国した。その間、出版社で英語の教科書を書いたり、テレビ局でキッズ向け英語番組を制作したりと、複数の起業を経験。コワーキングやアクセラレーターの存在を知ったのは、その頃だ。
「台湾にも人やリソースを引き寄せられる場所をつくれば、議論もコラボレーションも簡単になると思いました。アメリカにいれば同じことをもっと簡単にできると思いますが、私は台湾にとって意味があることがやりたかった」
海外のスタートアップ事情もよく知るリン氏は、台湾にはスタートアップが必要とするリソースが揃っていると見る。エンジニア、デザイナー、製造技術と、人材は豊富。政府もスタートアップ支援に本腰を入れた。
だが「態度と考え方が欠けている」。GEDI(グローバル起業家精神・開発指数)調査でも、能力は高く評価されながら「リスクを負いイノベーションを起こす意欲が低い」という結果に終わった。
「両親に『起業したい』と言ったら、台湾では『この子はどうかしている』と思われるでしょう(笑)。この点で中国本土とは全く違います。彼らはスピードが早くミスを怖がりません。むしろ台湾は中国本土よりも日本に似ているという人がたくさんいます。この状況を変えるには、海外から起業家精神を持つ人間を台湾に呼ぶこと、内部から変わること、この2つを同時に着手しなければいけない。そうして台湾の若者に刺激を与え、彼らの考え方を変えたいんです」
フューチャーワードがその役割を担おうとしている。主な機能は個室オフィスとオープンオフィス。「競争よりも提携を」と、入居するチームは慎重に選抜し、多様性を高める方針だ。それでも顔認証システム、オンライン取引などテック系が多く、それぞれが製品を開発中。彼ら自身も空間にスマートロックにクラウド制御照明なども設置し、さながら1つの実験場のようでもある。
FutureWard
CEO
ダニエル・リン
人とリソースを台北の中心に集め、
海外のスタートアップを引き寄せる
空間の中心は「社交場」とした。キッチンや広間など、普通のオフィスなら隅に追いやられる機能をまとめた。週1回は料理イベントなどを催し、メンバー間に「架け橋をつくる」。
「クッキーやケーキを作ったり、コーヒーを楽しんだり。食事の時も、みなキッチンに集まります」
外部との交流も盛んだ。最大150人を収容するホールでは、外部から弁護士やデザイナーなどを招待し、スタートアップ向けの講座を開く。政府や企業とのコラボも進む。現在は政府の科学技術部と組み、台北アリーナそばにスタートアップスペースを立ち上げているところ。これは人とリソースを台北市の中心部に集めることで、海外チームを引き寄せる試みだという。
「台湾人の考え方を変えるのに一番早いやり方は、既に成功をおさめながらも、ハードウェア面でのサポートが必要な起業家を台湾に引き寄せて台湾人と交流させることかもしれません」
図面作成ソフトを開発するAutodeskとのプロジェクトでは「モバイルメーカーワゴン」をデザインした。
「キャンピングカーのようなワゴン車に3Dプリンター、レーザーカッター、CNCも積んで、人里離れた山奥まで子供たちにモノ作りを教えにいきました」
目下のところリン氏の関心は、どうしたら「一番早く」台湾のスタートアップをサポートできるか。この一点だ。「早期のスタートアップが失敗する原因は、国と地域に関係なく、大体同じです。市場性がない。アイデアはよくてもマーケットに合っていない。資金集めの問題に、チーム間のトラブル。正直、成功には公式はありませんが、教育とリソースの提供は力を入れていきたいですね。1つのモデルが成功したら台北以外の都市にも進出するつもりです。ソフト面がよければより多くの人を引き寄せられます。コラボレーションできる仲間が増えれば、リソースも増えていくでしょう」
コンサルティング(ワークスタイル):N/A
インテリア設計:FutureWard & Sophos Design
建築設計:N/A
text: Yusuke Higashi
photo: Kazuhiro Shiraishi
WORKSIGHT 14(2019.1)より