Workplace
Feb. 17, 2020
オープンなオフィスでこそ
チームワークは加速する
[Cambridge Associates]San Francisco, USA
ケンブリッジ・アソシエイツは40年以上の歴史を持つ国際的な投資管理会社だ。基金や年金機構、クライアントの資産ポートフォリオをつくり、管理する業務を行っている。「当社が創業する前、大学の基金のような機関投資家たちは、アメリカの債券や株に投資していました。ケンブリッジ・アソシエイツの創業者はより学術的なアプローチを使って、『寄付モデル』という投資スタイルを開発しました」(パートナーのジョー・マレンダ氏)
現在はアメリカ国内のほか、北京、シンガポール、ロンドンなどに拠点を構える。ここは西海岸にあるオフィスの1つだ。
事業内容のみならず、組織運営にも革新性がある。クライアントのニーズに応じたアドバイスをするため、必要以上のヒエラルキーをつくらず、5~6人の小さなチームで動く。オープンな会話が重要だという。誰も机に1人で座って作業することはない。この新オフィスもそのようなチームのために設計されたものだ。「人々が一緒になって働ける、また特別な場所だと言われるような、スペースが欲しかったのです」(マレンダ氏)
メンロー・パークにあった以前のオフィスはというと、個々人の見えないローパーティションのある典型的な造り。マレンダ氏は上役らしく、角部屋をオフィスにしていた。フロア中央には重要なサポートチームが働いていたが、自然光には恵まれなかった。マレンダ氏によれば、ほかの投資会社も同様だという。役職が上の人間は窓際の個室に座り、ほかの従業員に対して背中を向ける。従業員たちは、常にボスの様子をうかがい、ボスの後頭部を見ながら仕事をするのだ。「しかし私は少なくとも1年の半分は出張に行き、オフィスにはいない。毎日出社する人がいる中で、なぜ私が個人のオフィスを持つ必要があるのでしょう?」
かくして新オフィスには、ヒエラルキーのない組織運営に見合ったオープンなスペースが求められた。O+Aは25~30人のインタビューをもとにデザイン案をまとめた。テイストはミッドセンチュリー・モダンで、クラシックな家具に、照明やカウンタートップなどのモダンな要素が加わったインテリアだ。
ケンブリッジ・アソシエイツ
パートナー
ジョー・マレンダ
壁を極力取り払うことで実現した
「平等」なワークスペース
「O+Aは、我々へのインタビューの際に『革新的』『前向き』という言葉を使いました。投資の世界は目まぐるしく進化しますが、当社はその前線に立っているからです。それから彼らは『オープン』というオフィスデザインのゴールを定め、仕切りがないというコンセプトができました」
「オープンプランの知識と経験のない事務所だったら、私をコーナー席に座らせたでしょう。『マレンダはパートナーだから、一番の景色が見える席に』と。オフィスの角には、個室オフィスどころかデスクすら置いていません」
新オフィスでは、若い社員も上役も同じような環境で働いている。従業員の中には入居前に「プライバシーがなくなるのでは」と心配した者もいるが、今ではみな、このオープンスペースを気に入っている。なにより、壁を極力取り払ったことでより流動的なコミュニケーションが可能になり、ヒエラルキーが減少して、より平等になった。すべての社員はオフィスの中心を向くようにレイアウトされ、メール、チャット、電話も不要。顔を上げれば声が届く距離にメンバーが見える。スタッフは同僚に背中を向けて窓の外を向く代わりに、全員が平等に窓に背中を向けて顔を突き合わせて仕事をする。
新オフィスが完成してからというもの、ケンブリッジ・アソシエイツの従業員の多くが、ここサンフランシスコのオフィスで働きたがっているという。「誰にとってもクオリティ・オブ・ライフが大切ですが、このオープンオフィスのデザインとサンフランシスコという地の利が、それを高めてくれる。新しいオフィスは、多大なるポジティブな影響を及ぼしました。そして従業員のリクルート、そして彼らを維持するために、絶対に不可欠なことだったのです。幸せな従業員のほうがいい仕事をしますからね」(マレンダ氏)
外部のリアクションも一様に素晴らしかった。通常はクライアントのオフィスに出向くところ、今ではオフィスに来たがるクライアントが増えた。ベンチャーキャピタルやヘッジファンド、投資信託までが、「今まで見た中で、一番美しいオフィスだ」と感嘆するという。
text: Yusuke Higashi
photo: Satoshi Minakawa
WORKSIGHT SPECIAL EDITION【Studio O+A】(2019.7)より