Workplace
Mar. 30, 2020
バルセロナ市民に
ストリートを取り戻す
[Superblocks]Barcelona, Spain
街は本来、人々のためにある。ここバルセロナの路上にもかつては、食事の準備をはじめ、生活する人々のディテールがあった。しかし世界中の都市がそうであるように、バルセロナも自動車によって埋め尽くされて久しい。
この課題に対してバルセロナ市が提示した解決策が「スーパーブロック」プロジェクトだ。街を市民の手に取り戻し、より健康的に、よりサステナブルに、つまり、よりスマートに街を変える。
仕組みとしてはごくシンプルなものだ。19世紀末に都市計画家イルデフォンソ・セルダが考案した通称「セルダ・プラン」、基本的にはその碁盤の目状に区分けされた複数のブロックを1セットとし、通り抜けできないよう内側の自動車交通を制限する。ブロックの内側は地元住民の自転車と歩行者を主体とし、街並みも住民の意見をもとにつくり替えた。そこには緑があり、公園があり、日々の暮らしを営む市民の姿がある。「スーパーブロックでは、人々と持続可能なモビリティ(自転車と公共交通機関)を優先します。そして、市全体で自動車の21%減を目指しています」(バルセロナ市役所都市環境部門のネダ・コスタンディノビッチ氏)
バルセロナの歴史を振り返れば、スーパーブロックはより意義深いものになる。バルセロナはこれまで3つの大きな変化を経験してきた。スペインの独裁政権が1975年に倒れ、民主主義がもたらされた時代。92年のバルセロナ・オリンピックをホストするにあたり、高速道路ほか重要なインフラが整備された時代。そして92年以降のポストオリンピックの時代。現在に至るまで、バルセロナは変化を続けている。碁盤の目状の市街も、日照性や通気性など市民の快適さを考えて設計されたものだ。だが一方で、バルセロナの生活環境は限界を迎えていた。市民1人に対して10㎡の緑地を割り当てることを推奨しながら実際は1人あたり6.64㎡しかない。ヒートアイランド現象も深刻で、市の中心地と周辺エリアでは気温が4度違う。自動車による騒音や排ガスも、WHOが定める基準値を超えている。
スーパーブロックの実装には
市民参加プロセスが不可欠
しかしバルセロナに緑地を増やせる余地はない。そこでスーパーブロックなのである。これなら、街の形はそのままに市民の生活の質を改善できる。
スーパーブロックの実装は3つのレベルで行われた。第1の「ベーシック・レベル」は、モビリティの変更が中心。歩行者優先エリアの標識を各道路に整備する、自動車の使用に時間制限を設ける、などだ。第2のレベルは「タクティカル・アーバニズム」と呼ばれる。遊具やベンチ、ペイントなど、取り外し可能で比較的安価なマテリアルを活用する。第3のレベルが「ストラクチュラル・レベル」。大規模な工事を入れ、歩道や道路など街の構造部分からつくり替える段階だ。
ほかのスマートシティと大きく違う点に、「市民参加」がある。都市計画は市民の生活習慣を否応なく変える。「スーパーブロックの実装においては、最初から市民参加プロセスを通じて市民を巻き込みたいと思っています。彼らはこの土地を誰よりも知っているのですから」(同市役所でスーパーブロック・コーディネーターを務めるアリアナ・ミケル氏)。結果的に市民に喜ばれてはいるものの、市民参加のプロセスを省いてタクティカル・アーバニズムを実装したポブレノ地区では、突然起きた変化を前にして市民は激怒したという。これを反省材料に、サン・アントニ地区への実装の際には計画の初期から市民を参加させた。バルセロナ市民は自身の手で、バルセロナの街を取り戻そうとしているのである。
text: Yusuke Higashi
photo: Rikiya Nakamura
WORKSIGHT 15(2020.3)より
写真右)
バルセロナ市役所
スーパーブロック・コーディネーター
アリアナ・ミケル
Ariadna Miquel
Superblocks Coordinator
Barcelona City Council
写真左)
バルセロナ市役所
都市環境部門
ネダ・コスタンディノビッチ
Neda Kostandinovic
Urban Ecology
Barcelona City Council