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欧州最大級のビジネス・プラットフォームは
「スマートシティ・ゾーン」へ

[B. Amsterdam]Amsterdam, The Netherlands

欧州最大級のコワーキングだ。近くに固まって建つ4万㎡、3棟の建物は入居者で完全に埋まり、300社以上のスタートアップ、大企業、フリーランスが集う巨大なプラットフォームと化している。それでも1万5,000㎡分のウェイティング・リストがあるというから、恐れ入る。コワーキングはテナントビルの一部を利用する形態が一般的だが、3棟丸ごと1つのブランドのもとで再編されるケースはおそらく世界でも類を見ない。

この敷地は、かつてIBMのオフィスだった。IBMが退去した後、10年以上は廃墟のまま。これをリノベーションし、誕生したのがB. Amsterdam(ビー・アムステルダム)だ。「当時は完全に空のビルで、コンクリートしかなかった。水も電気もないところから始めました」とB. Amsterdamコファウンダーのリカルド・ファン・ルネン氏は言う。資金もなく、廃校になった古い大学からチェアやシェルフなど多くの家具を譲り受けてインテリアを構築した。

ルネン氏は「私たちのプラットフォームは、人をつなげ、人を集め、成長するためにあります」と語り、センサーなど最新テクノロジーを導入したスマートビルには、どちらかといえば批判的だ。曰く、センサー自体がビルの中にいる人々の働き方を変えるわけではないし、人々を結び付けるわけでもない。部屋の温度を管理するより、つながるのに適した人々がいたほうがもっと幸せかもしれないと、ルネン氏は考える。


かつてはIBMがオフィスとして使っていたビル一棟をすべて改修した「B.1」。スキポール空港に近いこともあり、周囲にはオフィスと物流系の倉庫が点在する。

  • 個人用のデスクが並ぶエリア。フリーランスが多く利用している。

  • コワーキングスペース兼カフェテリア。ここはオープンスペースだが、フリーランスや企業が入居する個室も建物内にはある。カフェテリアはコミュニティを育むハブとして重要な役割を担っている。

  • コワーキングスペースの一角にあるミーティングスペース。ソファが数台並んだ、リラックスした雰囲気。

  • GF(地上階)にあるカフェテリア。奥には大規模なイベントスペースも設けられており、入居者以外のコミュニティづくりにも貢献している。

  • かつてこの建物をオフィスとして使っていたIBMが借りている「IBM Innovation Space」。彼らも新しいアイデアのためにスタートアップとのつながりを求めている。

  • IBMの執務スペース。ビニールハウスのような簡易的な設えで部屋が構成されている。

  • 旅行代理店Hotelchampが大きく借りているエリア。フリーランス、スタートアップ以外に100人以上の規模の企業も入居する。

  • スタートアップ・ブートキャンプのオフィス。アクセラレーター・プログラムで有望なスタートアップを育てる活動をしている。

  • 最上階、5Fにあるレストランのバーカウンター。GF(地上階)のカフェテリアはセルフサービスだが、ここではフルサービスが受けられる。

  • レストランに隣接するルーフトップパーク。1,600㎡の規模でハーブなどの野菜を育てている。

有機的なつながり、コミュニティが
育っているという事実

ユーザーもまた、そう考えているのだ。ここにはコワーキングスペースがあり、大小のスタートアップが入居するプライベートオフィスがあり、その点ではウィーワークをはじめとするコワーキングと大差ないかもしれない。だが、充実したファシリティや「スマート」なテクノロジーも、B. Amsterdamの本質ではない。何より重要なのは、ここでは人々が有機的なつながり、コミュニティが育っているという事実である。入居しているのは、メンバーにふさわしく「ともに成長できる」と認められた者のみ。そして彼らによって構成されるコミュニティが、また新たなメンバーを惹き付けるのだ。オフィス内でのミートアップや各種のカンファレンス、ワークショップなども、彼らの交流を促している。

「ウィーワークは不動産の会社だと思っています」とルネン氏。B. Amsterdamはそうではない、と彼は強調しているのだ。「私は不動産に愛はないのですが、人々の成長は愛している。これは異なるマインドセットですね」

B. Amsterdamの一員になるべく大企業も押し寄せている。現在はハイネケンやPwC、FIFAなど、17社が入居しているという。かつて自分たちのオフィスとして使用していたIBMも入居しているというからおもしろい。彼らは皆、スタートアップとの協業を求めている。その周囲ではスタートアップらがエコシステムを形づくる。

「スタートアップもクライアントを必要としていますし、大きな会社の力が必要です。彼らは、ともにいることで繁栄することができるのです」

2014年にスタートしたB. Amsterdamは、ルネン氏も驚くほどのスピードで成長した。だが現在までのところ、B. Amsterdamのコミュニティは建物内に押し込められている。これをエリア全体へと拡張するプランがある。「スマートシティ・ゾーン構想」がそれだ。

ステップ1として、現在は1,800㎡の農場をつくっているところだ。ゆくゆくは、農場で育てられた食材を敷地内のレストランで提供するようにもなるだろう。廃棄物も再利用する。続いて、住宅を建て、少ない水、少ない電気で暮らしていく。倉庫を改修した「スマートシティ・ハブ」に、スマートシティ関連のスタートアップを誘致する。とにかく持続可能な街をつくるためのあらゆるソリューションを試みようとしている。

「私たちの最初の夢は、ビルの中に街をつくることでした」とルネン氏。だが、その夢は早々に実現してしまった。「今は、未来ある街をつくることが私たちの夢です。そのために一生懸命働いています」


ビー・アムステルダム
コファウンダー
リカルド・ファン・ルネン

  • 「B.1」に隣接する倉庫を改修した「スマートシティ・ハブ」。スマートシティにまつわるスタートアップを誘致し、敷地内にサーキュラー・エコノミーを構築する計画を進めようとしている。

  • 「スマートシティ・ハブ」内部。広大なスペースがエリア全体のエコシステムを構築することに活用される。

  • 3棟あるうちの1つ、「B.3」。かつて日産自動車が使っていたが、やはりビル一棟すべてを改修した。写真は地上階のカフェテリア。健康的な食事が提供されている。

  • 「B.3」外観。壁からせり出したように見える部分が写真2のボードルームだ。

  • 「B.3」のボードルーム。ビル全体の共用会議室で、入居企業がその都度レンタルして使用する。

  • 「B.3」の共用部には現代アートが多数飾られている。カジュアルな「B.1」と比べて洗練されたイメージを訴求している。

  • 「B.3」に入居する企業のプライベートオフィスが並んだフロア。グリーンや木材のフローリングがナチュラルな印象をもたらしている。

text: Yusuke Higashi
photo: Rikiya Nakamura

WORKSIGHT 15(2020.3)より

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