Workplace
Jun. 1, 2020
ロンドンの街に溶け込む
バーティカル・ビレッジ
[22 Bishopsgate]London, UK
ロンドンを代表する金融街であるシティ。その中心に新たなランドマーク、「22 Bishopsgate(トゥエンティトゥ・ビショップスゲート)」が建設中だ。
設計はジ・エッジと同じくPLPアーキテクチュア。同社が手がけるビルがたびたびそうであったように、今回も、マルチテナントビルの未来の形を示すものになる。その理由は「アメニティシェアを備えたバーティカル・ビレッジ」という新しい試みだ。
「テナントはアメニティを自分のスペースに置きたくないのです」と、ビル構想に関わったアンワークのCEOであり未来学者のフィリップ・ロス氏は言う。そこで約12万㎡の延床面積に約1万㎡の共有アメニティスペースを置いた。コワーキングスペースにクラブ。ジムはクライミングウォールや高地トレーニング専用の部屋を備える。「リトリート」は心身をリラックスさせるスペース。レストランは朝昼夜それぞれ3つのコースを用意し、毎日通う利用者を飽きさせない。「世界中のどのマルチテナント・オフィスビルにも、このスケールはないと思います。仕事はもちろん、食べたり飲んだり運動したり、リラックスしたり人と交流したり。人々がビルを家のように考えてくれればうれしいですね」(ロス氏)
アメニティ・シェアの仕組みが特に響いているユーザーがいる。第一にミレニアル以降の若い世代。22ビショップスゲートは、彼らが共有するシェアの価値観をテナントビルに持ち込んだ。第二にSME(中小企業)。これまで、充実したアメニティと言えば一部の大企業のみのものであり、それが採用面での競争力に影を落としていた。だがアメニティ・シェアの形なら小さい企業でも優秀な人材を惹き付けられる。ビルサイドもSMEを受け入れることでビルや都市に多様性や新しい価値観を持ち込むことができる。
写真左)
アンワーク
CEO
フィリップ・ロス
写真右)
リプトン・ロジャース・
ディベロップメンツ
建設ディレクター
ポール・ハーグレーヴス
PLPアーキテクチュア
ファウンディング・パートナー
カレン・クック
写真提供:PLP Architecture
都市からの要望に応え、
パブリックな領域を建物内に取り込む
デベロッパーには「バーティカル・ビレッジ」のビジョンがあった。アメニティが入るフロアを区切りに4層のビルを積み上げ、1万2,000人がビル内を縦横無尽に働く共同体をつくり上げる構想だ。そこには、「パブリックに開かれたビル」という狙いもある。
「アメニティの数を増やし、パブリックな領域を建物内に取り込むことは、クライアントの希望であるだけでなく、都市からの注文でもありました」。そう語るのはPLPのファウンディング・パートナー、カレン・クック氏。成長する街ロンドン、その中心部にあるシティ・オブ・ロンドンは過去10年間で通勤者数を10万人以上増やし、今後も同じペースでの成長が見込まれている。しかしそれは働く場だけが供給されたドライなものであり、ワークとライフを統合する新世代のワーカーが期待するものではなかった。「人は、ほかの人と接したいものです。テクノロジーによって在宅で働くことが可能となる一方、孤立することでメンタルヘルスの問題が悪化している。人は他人と接することで得る刺激が必要で、企業も人々にともに仕事をしてほしいと考えています」(クック氏)。これを受けて、職場に関して新しいアイデアを考えると同時に、増える労働者、自動車、自転車を考慮し、都市環境の中でどのように責任ある存在でいられるか探ってもいた。「すると、人々が職場に対し、よりよいソーシャルな場を求めていることがわかったのです」(クック氏)
端的に言えば、このビルはロンドンの街に溶け込もうとしている。超高層ビルが個性を競い合うロンドンにあって、多面的で柔らかく控えめな外観もそうした意図からだ。展望台も一般市民に開放される。「ロンドン中、イギリス中、そして世界中の人たちにロンドンの高層ビルを体験してもらえます」(クック氏)
ヒューマンサイドに立ちながら
「真のスマートビル」を目指す
都市環境において責任ある存在としてのビル。ときには利便性より社会的責任を重視する姿勢も見せる。都市の自動車を減らしストリートに人の流れを取り戻す一括配送の取り組みが一例だ。すべての配達物はいったん郊外の倉庫に運ばれたのち、倉庫とビルを行き来する小さな低排出車両で配達される。デベロッパーであるリプトン・ロジャース・ディベロップメンツのポール・ハーグレーヴス氏によれば「この規模の大きさのビルだと、1日1,000回の配達があってもおかしくないですが、一括配送により30回に減らせるかもしれません」ということだ。
テクノロジーに関しても、グローバルにスマートビルを調査しロードマップを描いている。レベル1はエネルギーやお金に関する効率性。レベル2はワーカー一人ひとりに対する個別化、最適化。ワークスペースや室温が一例だ。レベル3は「文脈化」。データをもとに、ワークスタイルやワークフローをビルの側が人々に提案する。レベル4になると今度は「静かな時間を設けたほうがいいのでは」「日光を浴びたほうがいいのでは」といった、24時間周期のリズムに応じた感覚面まで踏み込んでビルが提案してくれる。そしてレベル5はビッグデータの活用による、ビルそのものの最適化。真のスマートビルと呼べるのは、レベル5に達したビルと結論付けている。「テクノロジーが追いついていないので、まだ誰も5にはたどり着いていないと思います。私たちは確実に3には達しているというところでしょうか」(ハーグレーヴス氏)。それでも、将来5まで上がれるようにセットアップができていることを彼は期待している。
真のスマートビルの姿を見据えながら、テクノロジーの追求は今後も続く。しかし彼らの視線は常にヒューマンサイドに注がれている。
text: Yusuke Higashi
WORKSIGHT 15(2020.3)より