Workplace
Nov. 2, 2020
データの主権を個人に取り戻す
「データ・コモン」
[DECODE]Barcelona, Spain
市民が生み出すデータを大企業が入手し、市民の手の届かないところで管理し、コントロールしている昨今だ。情報社会の中で最も価値の高いものであるはずの個人情報が、市民の手に委ねられていない。スマートシティについてまわる議論である。データは自由に活用し、サービス改善に生かすべきとする議論もあるが、欧州では「個人情報の主権は個人に戻すべき」との意見が主流だ。DECODE(ディコード)はその文脈に位置する。厳格な個人情報保護規制を設けたGDPR(一般データ保護規則)の制約を超えて、個人データをどう社会的に活用していけるか検証するEUのパイロット・プロジェクトだ。現在、バルセロナ、アムステルダムの2都市で大規模な社会実験が進められている。「このプロジェクトの目的は、市民に対して自らが生み出すデータをコントロールできる新たなインフラを供給すること。それからコモン的なやり方でデータを開発・利用することです」とDECODEのリサーチャー、パブロ・アラゴン氏は言う。
一般的には、2つの選択肢が考えられる。1つはプラットフォームで個人データを守る方法。2つ目はオープンソースのように誰もがアクセスできるようネット上でシェアする方法。しかしDECODEはいずれとも異なる3つ目の選択肢として、個人と組織の間に「データ・コモン」をつくろうとしている。データ・コモンはあくまでコミュニティ主導のプラットフォーム。ここに集められたデータはコモン・グッドのために活用され、そのプロセスも市民に対して透明性が保たれる。
市民が自らデータを取得、管理し、
そこから新しい価値を生み出す
バルセロナで行われた実証実験を紹介しよう。1つは個人情報を活用した分散型民主主義のトライアルだ。バルセロナ市役所が開発した参加型民主主義のプラットフォーム「Decidim」をDECODEのインフラに組み込み、市民がDECODEのアプリを通して政策提案できるようにした。なおかつ性別や年齢、住所などの個人情報を条件付きで寄付することが可能になった。従来、個人情報保護の観点から蓄積できなかったデータだが、寄付という形なら集めることができ、人口統計データとして活用できる。もう1つは市民自らがデータをつくるトライアル。騒音データをセンシングするプロセスの中で、市民は個人情報が漏洩する危険に気付き、個人情報保護のルールやプロトコルをつくる動きが見られた。
スマートシティでは、それを管理する自治体や企業が街中にセンサーをちりばめ、データを収集・取得する。対してDECODEは、あくまで市民が主役だ。市民が自らデータを取得、管理し、そこから新しい価値を生み出す。またコモン・グッドな目的から外れることもない。アラゴン氏の言葉を借りるなら、これは「スマートシティからデモクラティックシティへの大きな変換」を推し進める試みなのである。
text: Yusuke Higashi
photo: Rikiya Nakamura
WORKSIGHT 15(2020.3)より