Workplace
Dec. 7, 2020
グローバルからローカルへ。
経済活動をボトムアップに変える「ファブシティ」
[Fab City]
「ファブシティ」のコンセプトは「製造のリ・ローカライズ」。ファブラボ・バルセロナのディレクター、トマス・ディアス氏はそう説明する。それは地球規模にまで拡大した生産/消費モデルを、再び地域の手に戻すことであり、食・エネルギー・モノの製造拠点を消費の拠点に近付けることを意味している。
グローバリゼーションは生産、消費、廃棄のすべての拠点を世界各地に分散させる性質を持つ。各拠点間をマテリアルが移動するのに要する化石燃料を考えれば、環境負担は大きい。また「人々をより透明性の低い製造チェーンに依存」させもするとディアス氏は言う。ファブシティはこの構図を反転させるプロジェクトだと言える。
問題は、どうやってこれを実装するか。「スマートシティは都市モデルにICT技術を持ち込むというコンセプトでしたが、問題は実装の点で非常にトップダウンなアプローチを取っていることです」。そのためスマートシティ化で得られるメリットは、市民ではなくテクノロジーを供給する企業側が享受するのみだ。また「政府はスマートシティのアプローチで都市をコントロールしようとしてきました。私はそれを愚かな行為だと思っています」とディアス氏。なぜなら都市は常に変わりゆく。変化することが前提であり、スマートテクノロジーよりもはるかにオーガニックだ。
ファブシティは、より柔軟な分散型コミュニティを通じた実装を試みる。それはボトムアップ型のアプローチだ。世界各地の1,700ものファブラボまたはメイカースペースがインフラとなる。「ファブラボやメイカースペースは人々とつながり、ローカルにインパクトをもたらします」。これまで消費者としての存在だった市民を、クリエイターとして生まれ変わらせる可能性を秘めている。
現に「都市で消費するものを都市で製造する」というアジェンダに共感し、34の都市がファブシティとして名乗りを上げている。これは、ファブラボ周辺のコミュニティがファブシティに参加するよう行政を説得した結果だ。その中には日本の鎌倉市も含まれている。
ただし本格的な実装はこれから。都市スケールで実装するには行政との煩雑な手続きが障壁になることもわかっている。
世界各地のローカルなグループを
組織化していきたい
バルセロナでは、都市よりも小さな「地区」のスケールで「ファブシティ・プロトタイプ」を検証している段階だ。例えばIKEAのオープン・イノベーション・ラボであるSPACE10とのプロジェクト「Made Again Challenge」を実行している。このチャレンジはファブシティのプロトタイプとしてポブレノ地区を想定するのに役立ち、のちに地元の政策立案者によってメーカー地区としての公共政策となった。
ポブレノでのこれらの取り組みは、ファブラボ・バルセロナとバルセロナ市が作成したファブラボのパブリック・ネットワーク(ファブリケーション・アテナエウム)に含まれている。ほかにも、IAACと共同で郊外に「グリーン・ファブラボ」を設立し、エネルギー、食品、モノの循環型経済の理論化と実践を進めている。
また、パブリックインフラにファブラボを加える都市も生まれている。バルセロナ、サンパウロ、ソウルでも同じことが起きている。
ファブシティのネクストステップはどのような形をとるのか。これまではディアス氏が主宰するIAACやファブラボ・バルセロナなどが主体となってプロジェクトを推し進めてきた。しかし世界各地ではローカルなグループがバラバラに動いている。そこで彼らを、ファブシティに関わるワークショップやリサーチを行う「ファブシティ・コレクティブ」、ファブシティを宣言した都市においてパブリック・セクターとプライベート・セクターをまとめる「ファブシティ・ネットワーク」、そしてファブシティの発展をサポートするファイナンス組織として「ファブシティ・ファウンデーション」を設立し、組織化するという。
「次の目標は、ファブシティ・グローバル・イニシアチブのような複雑なプロジェクトの達成に必要な、さまざまなレベルの補完的な戦略、プログラム、アクション、およびプロジェクトで構成されるファブシティ・フルスタックを開発することです。これにより、ファブアカデミーなどの既存のプログラムやプロジェクトから、大きなビジョンを小さな断片に分解して構築できます。また、ファブシティ・ファウンデーションのようにグローバルに運営できる分散型組織をサポートし、メーカーや技術者以外の幅広いネットワークとの取り組みを調整していきたいと考えています」
text:Yusuke Higashi
photo: Rikiya Nakamura
WORKSIGHT 15(2020.3)より