Workplace
Feb. 1, 2021
「ビル」「シティ」に代わる
スマートの新しい単位「プリシンクト」
[The Smart Precinct]
「スマート・プリシンクト」は、ワークプレイス界の権威ジェレミー・マイヤーソン氏がオーガナイズする研究プロジェクトの1つだ。
ここで注目するべきは「スマート」の単位である。つまり街区(プリシンクト)のサイズだ。スマート・プリシンクトは2〜3ブロック、1つのデベロッパーが管轄しているエリアをテクノロジーによってスマート化する試み。そのほうが「より管理、整理がしやすく、今後のプランも立てやすい」とマイヤーソン氏。
ここでは、より大規模な「スマートシティ」や、より小規模な「スマートビル」に、中規模な「スマート・プリシンクト」が対置されている。スマートシティは市や政府が関わる規模であり、いち企業が管理できるものではなく調整が困難。かといってスマートビルでは規模が小さすぎ、スマート化による恩恵が小さい。スマート・プリシンクトは、いわば双方の「いいとこどり」なのだ。
スマート・プリシンクトの重要なポリシーとして「インターミックス」というものがある。これは、住宅とオフィス、パブリックとプライベート、バーチャルとリアルなど、異なるコミュニティをつなげることを指す。
そこではデータが収集されるほか、サービスが共用される。「例えば、ミーティングの際の食事をどうして持参しなくてはならないのか。飲食店がたくさんあるプリシンクトに行けばよいのでは?」。サービスの共用は、スペースと時間の効率化にもつながる。
スマート・プリシンクトにおける
4つの代表的なモデル
これらを考慮するとスマート・プリシンクトには4つの代表的モデルがある。1つ目はエンタープライズ・モデル。大企業中心で、ワークプレイスの確保が重要になる。そこに商業や娯楽、ホスピタリティ、大学などを付け加えることで、1つのプリシンクトとする。具体的な例として、このスマート・プリシンクトの研究を共同で行った不動産デベロッパー、マーバックが手がけたサウス・イブリー(旧オーストラリア・テクノロジー・パーク)が挙げられる。大企業が集積したエリアにリテール、エンターテインメント、ホスピタリティの機能も充実している。
2つ目はエンポリアム・モデル。ここでは50%をリテールが占める。その例としてマイヤーソン氏はロンドンのウェストフィールド・ストラトフォード・シティを挙げた。「50%が商店で、20%が住宅、20%がワークスペースで、残りが教育や文化の展示場などです」。ショッピングセンターだが大学やオフィスビルの真ん中にあり、ロンドンの国際裁判所も近い。エンターテインメントもあるため多くの人を引き寄せる。そうして商店からリアルタイムの情報を得て、そのデータをもとにプリシンクトを改善している。
「ウェルビーイングやフィットネス、社交なども仕事の一部なのです。皮肉なことに、日本ではこのような多目的の施設を多く開発していますが、その中心にワークスペースを置かず、職場はそこから分けてしまっています」
3つ目はヘイヴェン・モデル。こちらは住宅の割合が多いモデルだ。「ベッドタウンを増やすと地域の雰囲気が暗くなります。寝るためだけのベッドタウンではなく、人々が暮らしを楽しむ地域をつくろうと考えました。そこに根付き、長期的に暮らすことで、いいコミュニティができます。このプリシンクトでは自宅勤務なども可能です」
4つ目はインターチェンジ・モデルだ。これは交通の結節点が中心的な役割を果たす。ロンドンのキングス・クロス駅周辺が好例だ。すべてのビルが駅を中心に立ち並び、インターチェンジから最新のリアルタイム情報がオフィスに流れ込む。
なかでも、理想的なプリシンクトのサイズはどれぐらいなのだろう。
「データベースを効率よく共有するためには、キングス・クロスのような方法がベストだと思います。1,800戸もの住宅があるキングス・クロスだとたくさんの人を引き寄せることができます。小さいですが、理想の結果を出せる大きさです。そのキングス・クロスが大学を含めて67エイカーの広さなので、それが最大だと思います」
スマート・プリシンクトにおいては、オフィスビルのあり方も再定義される。「孤立せず、外につながるための場所」とマイヤーソン氏は言う。そのために、ミーティングルームはより多く、デスクはより少なくなる。
「その方がより人が入りやすく、コミュニケーションを取りやすいからです。伝統的なオフィスの雰囲気は変わりつつあると思います」
text: Yusuke Higashi
photo: Rikiya Nakamura
WORKSIGHT 15(2020.3)より