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9つのタイポロジーで考える「コロナ後のワークプレイス」

ダイバーシティやウェルネスに配慮した魅力あるオフィス

[プリモ・オルピラ]Studio O+A共同創業者

2020年12月1~25日、コクヨ株式会社は「コクヨフェア」を開催し、さまざまなウェビナーを配信した。
本稿ではそのうちの1つ、プリモ・オルピラ氏率いるデザイン事務所「Studio O+A」のプレゼンテーションの一部を紹介する。

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大防止やリモートワークといった要素を踏まえ、未来のオフィス像は再考を迫られています。今日はStudio O+Aが考える未来のワークプレイスの基礎的な概念や空間の類型、そして既存の空間を生かす方法についてお話しします。

オフィスに来る目的別に7つのペルソナを抽出

ワークプレイスの再検討にあたって我々がまず取り組んだのは、ワーカーのニーズの分析と定義です。ワーカーの性格のタイプや動機付け、オフィスに来る理由などを探り、それらがリモートワークの導入でどのように変化していったかを探りました。

その結果、オフィスに来る目的別に次の7つのペルソナを抽出しました。

(A)家にはない施設やアメニティを求めている
(B)メンターシップや研修を行う場を求めている
(C)邪魔の少ない、集中的に作業できる環境を求めている
(D)より高度なテクノロジーや、より使い勝手のいい環境を求めている
(E)突発的なコラボレーションや社交、コミュニティ意識向上の場を求めている
(F)多くの会議を抱え、それに対応するために適した環境を求めている
(G)入社してまだ日が浅く、居場所を求めている

こうした多様なペルソナを踏まえると、これからのオフィスのフォーカスポイントは「リアルコラボレーション」「バーチャルコラボレーション」「ヘルス・ウェルビーイング」の3点に集約できます。

ワークプレイスのデザインに当たっては、この3点をそれぞれ枝分かれさせます。リアルコラボレーションでは屋外と屋内の両方にソリューションを確保し、バーチャルコラボレーションでは固定・柔軟なソリューションの両方を確保する。そして、ヘルス・ウェルビーイングについては心身の健康をサポートする休息空間だけでなく、より健康的なチームワークのメソッドや行動指針を新たに提案するという具合です。

外から中への移行空間に衣類の着脱ゾーンを設ける

オフィス空間のタイポロジー(型)としては9つが挙げられます。これはすべて先ほどの3要素に分類することができます。

まずは「Donning & Doffing(着脱衣)」です。外から入った際に汚染された服を脱ぐ場所ですね。外から中への移行空間ですが、そこにホスピタリティ要素を加えることが望ましいでしょう。

「Homeroom(ホームルーム)」は固定席の代わりとなる場所ともいえます。社員の専用収納スペースや私物管理カートがあると同時に、人が集まり、コミュニティ感覚を共有する空間でもあります。ここは企業文化の醸成にも役立つでしょう。

「The Grove(林)」はアウトドア作業のスペースで、例えばコンセントや冷暖房が完備されています。

「The Arboretum(樹木園)」はメンタルヘルスに重要な役割を果たすとされる植物を取り入れたスペースです。休憩を取り、心を整える場所でもありますが、同時に人々が集まる場所でもあるので、チームで話し合ったり食事をとったりすることも可能です。

子ども連れで仕事ができる空間は今後必須となる

「The Audium(音響シアター)」はストレスを解消する場所です。コロナ直後はワーカーの緊張やストレスが高まっていることも予想されます。ここで音楽を聴いたり瞑想したりして、忙しいオフィス空間から離れて休憩できます。

「Family Room(家族部屋)」は働く親のための空間です。リモートワークでワーカーのプライベートと仕事の融合が進みました。それを考慮して、子どもを職場に連れてきて作業ができる空間は未来のワークプレイスに必須と思われます。

「Courtyard(中庭)」はリアルでのコラボレーション空間の1つです。未来のワークプレイスにおいて重視されるのは柔軟性、適応性です。これまでもそうしたトレンドはありましたが、さらなる加速が見込まれます。この空間はとても適応性が高く、簡単に分割・統合できる設計であるべきだと私たちは考えます。

突発的なバーチャルコラボレーションにも対応できる

「オール・ハンズ(全員参加型)」ソリューションにも重きを置いています。周囲との会話を促し、ヒエラルキー意識を軽減する場です。大規模な集まりから小さなミーティングまで、すべてを可能にする広場のような空間です。

「The Port(港)」はオープンオフィスの延長で、突発的で適応性の高いバーチャルコラボレーションを可能にします。例えば造作壁を設けることで簡単にスクリーンを引き出せるようになるので、より容易なバーチャル参加を可能にします。リアル参加者は壁に向かって座ってもいいですし、テーブルも状況に合わせて簡単に並べ替えられる、そんな仕組みを想定しています。

「Sound Stage(音響ステージ)」は、いわば電話ボックスの強化版です。防音性に優れ、他のワーカーの邪魔になりません。オンラインでの配信にも役立つ設備で、大人数に向けたフォーマルなプレゼンなら大きめのスペースを、一人で使うなら小さめのスペースを使います。高度なマイクや音響システム、バーチャル技術が搭載され、ビデオ会議に最適な空間です。

(トップ写真提供:Studio O+A)


Studio O+Aは米国サンフランシスコに拠点を置くデザイン事務所。Facebook、Microsoft、Yelp、Nike、McDonald’sなど、数多くのオフィスのコンサルティングや設計を手掛けている。
http://o-plus-a.com/


コクヨフェアのウェブサイト。
https://fair2021.kokuyo-furniture.co.jp/


プレゼン中のオルピラ氏。


Studio O+Aでプロジェクトデザインを手掛けるローレン・パリチ(Lauren Perich)氏(上)と、デザイナーのシャロン・スクラー(Sharon Sclarr)氏。

アトリウムのような広いオープンエリアと
休息に適した小部屋をバランスよく配置

ここまでお話しした未来のオフィス空間を具体的にイメージしていただくため、ロビーから入って中を探索していくことにしましょう。

ビルに足を踏み入れると、そこにはガーデンを生かしたアトリウム(吹き抜けの空間)が広がっています。外と中をつなぐ場所なので洗面台があるかもしれません。セルフチェックインの機能を設けてフロント到着前に受付を済ませ、フロントに着くころにはバッジが発行されているといったことも可能でしょう。受付の横にバリスタを置くなど、ホスピタリティを意識したいですね。

フロントの横には会議スペースがあります。空間のタイポロジーでいうところの「Courtyard(中庭)」で、柔軟性、適応性を反映した会議スペースとなります。手前に会議室に接するロビーがあり、裏手には飲食物を準備するスペースをつくります。イベントや大人数での会議に対応できるようにします。

受付を挟んで「Courtyard」の反対側には、「Grove(林)」タイプの空間が受付・待合室の延長として機能します。ここで作業をしてもいいですし、単に待合室の延長として使ってもいいでしょう。

「Grove」の横にあるのが「Audium(音響シアター)」スペースです。広いオープンエリアだけでなく、暗くて休息にフォーカスした空間も選べるよう、多様な空間を用意することが求められます。

トイレや洗面台、休憩室などを取り揃えたウェルネス・ハブ

ロビーを進んだ先の右手にはセキュリティデスクとゲートがあり、そことエレベーターとの間には来客用の「Donning & Doffing(着脱衣)」スペースがあります。来客はここに私物や大きな荷物を預けると同時に、コートを脱いだり靴を履き替えたりすることもできます。今後一般化されるであろう新たな入退出のスタイルに対応するわけです。

壁にはプロジェクションマッピングを搭載し、掲示板やニュース、天気、ビルの中で起きていることなどを映し出し、コミュニケーションや透明性に寄与するようにします。

ロビー奥の左手はゲートを通らずに行けるスペースが広がっています。まずあるのがウェルネス・ハブで、バリアフリーのトイレ、洗面台、化粧直しスペースがあります。

着替えができる個室には小さな洗面台も完備し、家族連れや働く親をサポートします。また、ファミリー用の休憩室は授乳期間中の女性の利用も想定しています。スピリチュアリティ室はヨガマットを広げられる広さで、足を洗うシンクもあるので祈りの部屋としても使用できます。

ダイバーシティや自転車通勤を考慮したソリューションを提供

ウェルネス・ハブに面して奥へ伸びる廊下には複数のブースがあり、ニューロ・ダイバーシティを考慮したソリューションを提供します。席が壁側を向いている席もあれば、廊下にアクセスしやすいよう外向きのものもあります。またバリアフリーのブースは車いすの方でも廊下にはみ出すことなく作業ができます。

廊下の中ほどには小さな休憩ラウンジがあり、このエリアのロビーとしても機能します。すぐ脇のバリアフリーの電話ルームと、カーテンだけの半個室型電話ルームは、ちょっとしたプライバシーが必要な時に使うこともできます。

廊下の突き当りは自転車ルームです。自転車を利用するワーカーは増えているので、そのトレンドに建物も対応していく必要があります。自転車ルームには直接外からアクセスできる出入口があり、手洗い場やシャワールームも備えています。

駐輪場はもちろん、自転車のセルフ修理ステーションと、空気入れなどが使えるメンテナンスコーナーもあります。1日に数時間、もしくは週に何回か自転車修理のプロが来て、コンシェルジュ的な要素を加えます。

休息やアクティビティの場を再構築。
これまでのパントリーの役割の見直しへ

ワークプレイスではパントリー(食糧庫・食器室)も重要な位置を占めます。我々が想定する新たな形は「Town Hall Pantry(広場型パントリー)」です。

未来の休憩スペースとはどのようなものであるべきでしょう。休憩ルームは実は緊張や不安を高める場所であるという結果が出ています。そこで、休息を目的とした空間やアクティビティゾーンを再構築することに専念し、これまでのパントリーの役割を見直しました。

つい最近までワークプレイスにあるパントリーは住宅のキッチンと似た構造をしていました。社員が2~3人であればそれでもいいですが、それ以上となると動線がぶつかったり、電子レンジの前に列ができたりします。そうした事態を回避するため、業務キッチンを参考に効率を最大化するためのソリューションを考案しました。

食事の準備スペースを独立させることで混雑を回避

このような大きなオープンな「タウン・ホール(広場)型」空間は、出入口が複数あった方がいいでしょう。そこで複数箇所に手洗い場を提供します。入退室の動線は非常に重要です。独立したコーヒーなど飲料のステーションを設ければ、飲み物だけ欲しい人は素早く入って出ていくことができますし、ランチスペースの一部としても機能します。紙類、リサイクル、生ごみなどのごみ箱コーナーも両サイドに設けます。

パントリーの構造を見直すに当たって、2つのゾーンにフォーカスしました。オープンカウンターの上下に収納スペースを設けるという構造を一変させ、収納スペースと冷蔵庫のみの空間を用意するのです。

カウンターはその脇につくり、それぞれにシンク、電子レンジ、1メートル弱の準備スペースも用意します。こうして食事の準備スペースを独立させることで混雑を回避します。また、ここで使用した水は空間内の植物を育てるのに再利用することで、より持続可能なシステムとなります。

席についても、一般的なオープン席、カフェテーブル、ブース、個室空間など、ダイバーシティに配慮してさまざまなソリューションが必要と考えます。

新しい空間タイポロジーを組み込んだ戦略的不動産モデル

最後に、我々が考える今後の戦略的不動産モデルについても紹介しましょう。

近年多くの企業がハブ&スポーク方式* を検討しています。これまでは本社と各地の支社という2段階構造が一般的でしたが、これからは支社から分岐したサテライトオフィスに加え、在宅勤務や場所に縛られない業務をどのように活用していくか、さらにレンタルのコワーキングスペースや別地域からの業務に関して、どのような規則や手順を設計していくかを考える必要があります。

我々は不動産的アプローチにおいていくつかのモデルを開発し、いかにして新しい空間タイポロジーをこのようなモデルに組み込むかを提案しています。

第一のモデルは「The best of both worlds(両世界に最適)」です。柔軟性の高いフロアと親近性の高いフロアで構成されるもので、いわば従来の仕組みに近いものです。アジャイルワークやABWは今後も間違いなく効果を発揮するでしょう。既存のこうした仕組みを生かしつつ、新しい可能性を見出すことが求められます。

第二のモデルは「The Neighborhood And City Center (中枢と周辺地域)」です。いわゆるハブ&スポーク方式ですが、それを1つのオフィス内に実現します。文化やコミュニティを強化するハブ(中枢)と、必要なものが揃ったチームゾーンの共存を実現します。

第三の「Together First(共同優先)」モデルは、支社オフィスはあくまでも共同空間であるべきという考え方を元にしています。チームで作業するスペースを一部設けつつも、文化・コミュニティ空間に重きを置きます。アメニティや研修・メンタリング空間が充実し、ダイバーシティやバリアフリーを実現し、「目的地としてのオフィス」「憩いの場」としての空間を提供します。

職場に戻る上での緊張や不安感を軽減する

4つ目、「Choice is power(選択は力だ)」モデルは、よりニューロ・ダイバーシティを考慮したオフィスです。アクティブゾーン、静寂ゾーンの両方で同等の価値を提供し、自由にゾーンを行き来し、同じものを全く違う形で体験できるようにします。多様な性格タイプに対応するだけでなく、同じ人でもタスクや時間帯による使い分けを可能にします。

非常に面白いモデルが、5番目の「Everything but the kitchen sink(洗い場以外すべて)」です。居心地の良さを追求したスペースを確保したものです。

オフィスに人々が戻るのは在宅勤務を丸1年以上経験した後になるかもしれません。生活を丸ごと逆転してしまうと慣れないことだらけになります。だからこそABWやアジャイルワーク空間の柔軟性や適応性には価値があります。このモデルではそのようなゾーンを残して生かしつつ、実験的なチーム作業空間や文化・コミュニティハブなど、新しい空間の型を導入し、同じフロアでそれらをすべて体験できるようにします。

チェンジマネジメントの観点から見ても、新しい実験的なソリューションにワーカーを慣れさせていきつつ、同時に職場に戻る上での緊張や不安感を軽減するサポートをすることができるわけです。

WEB限定コンテンツ
(2020.12.1-25 コクヨフェアのウェビナーを元に記事を作成)

text: Yoshie Kaneko

* ハブは車輪の中心部分のような拠点、スポークはハブと車輪を放射状につなぐもの。

プリモ・オルピラ(Primo Orpilla)

Studio O+A 代表、創業者。1992年、Studio O+Aを設立し、サンフランシスコで活動を展開。企業のオフィスデザインやコンサルティングを手掛ける、西海岸流オフィスデザインの第一人者。Cooper-Hewitt National Design Award インテリアデザイン部門賞(2016年)など、受賞歴多数。IE School of Architecture and Design、サンノゼ州立大学デザイン学部講師も務める。(写真提供:Studio O+A、以下2点も)

ローレン・パリチ(Lauren Perich)

Studio O+A プロジェクトデザイナー。ワークプレイス・インテリアデザイナーとして豊富な商業デザイン経験を持ち、2017年よりO+Aのサンフランシスコ地域の案件に参画。ポジティブな環境はポジティブな行動をもたらすと考え、社会空間戦略を重視した包括的な設計ソリューションを提唱している。

シャロン・スクラー(Sharon Sclarr)

Studio O+A インテリアデザイナー。ワークプレイス、ホスピタリティ、ホテル、住宅、地域住民向けなど、さまざまな分野で各国の賞を受賞。ウェルビーイングとストーリーテリングを重視した人間中心の価値観に基づき、マテリアリティと光にフォーカスしたデザインを芸術と技術の側面から探求している。

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