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自社の革新性を体感してもらう
ショーケース

[Mirvac]Sydney, Australia

サウス・イヴリーをはじめ、革新的な不動産開発を手がけるマーバックにとって、本社オフィスが入るシドニーの「EYセンター」は自社の革新性をカスタマーに体感してもらうショーケースでもある。ビル6フロア分、7,000㎡を専有するオフィスのコンセプトが「フレキシビリティ」。固定デスク、ハイベンチ、コラボレーション・スペースなど多くのセッティングがあり、ワーカーはその日必要な働き方に合わせて選ぶことができる。在宅含め、社外での勤務もOKだ。「生産的で上司がパフーマンスを好評価していればどこで働いてもいいことになっています」と同社のコマーシャル・デベロップメントでゼネラル・マネージャーを務めるサイモン・ヒーリー氏は言う。

もう1つ、マーバックのイノベーションに「ワークプレイス・ダイナミック・デンシティ(流動的密度)」がある。これは1つのワークステーションに何人を割り当てるかという考え方。アジャイル・ワークなどを理由にオフィスにいないワーカーの数を考えると、必ずしも1つのワークステーションに1人を割り当てる必要はない。この「ワークプレイス・ダイナミック・デンシティ」は大企業になるほど数字が高くなる傾向にあり、「当社では10のワークステーションに対し12人、つまり、(1つのワークステーションあたりでプラス)20%が標準的です」(ヒーリー氏)。ビル全体を見ても、オーストラリアで新規に建てられたオフィスビルの基準が「10〜12㎡に1人」であるところ、ここは8㎡に1人の密度になるよう設計されている。さらに、アジャイル・ワーク(オーストラリアではABWをこう呼ぶことが多い)によって流動的に人口密度は変化する。マーバックの従業員満足度を調べたデータを見ると、生産性は35%向上、視覚的な美しさは前オフィスの30%から91%へと改善。また「職場が健康にプラスの影響を与える」という認識も33%から88%へと向上した。


マーバック
コマーシャル・デベロップメント
ゼネラル・マネージャー
サイモン・ヒーリー

  • 女性のチャリティ団体「YWCA NSW」が運営するカフェ。この団体からは賃料を取らず、カフェの利益はDVを撲滅するための同団体のサービスへの出資金として使われている。

  • シドニーのジョージ・ストリート200番地に建つビル「EYセンター」。マーバックがビルの開発を担当し、26Fから31Fの6フロアをオフィスとして占有。曲線的なフォルムと木材の質感が特徴だ。

  • 3層のガラスからなる「トリプル・グレイズド・ファサード・システム」を採用。この木製ブラインドが、ビル全体の外観に優しい雰囲気を醸し出す。近づくと木目の表情の違いに気付く。

  • 地上階のビル共用エントランス。快適で落ち着ける家具を揃え、壁一面には先住民への敬意を表したアート。オフィスというよりはホテルの雰囲気を目指した。

曲線的、かつ木材を活用する設計が
オフィスビルに温かみをもたらした

ビル設計にあたっては6つの建築事務所にコンセプトデザインを依頼した。「オフィスビルは一般的に矩形でデザインされますが、四角い形、ガラス、コンクリート、光が反射するという要素は特徴がなく、温かみに欠けます。それでも商業ビルですから、オフィスビルでありながらテナントを入れることができ、かつ新しさを感じるものにしてほしいと指示しました」とヒーリー氏は言う。コンペで採用されたのはシドニーの建築事務所FJMTによるもの。曲線的で木材を活用する設計はマーバックを満足させた。中でもトリプル・グレイズド・ファサード・システムは野心的だ。3層のガラスを持つ外装システムで太陽光線を遮り、3層の間にある密閉空間に木製のベネチアン・ブラインドを取り付ける。これがビル内外に木材の温かみを伝えるものになった。

マーバックはオフィス市場の今後をどう予測するだろう。その1つのトレンドがオフィス回帰だ。「どこでも働ける」環境が整備される一方で、オフィスで働く意味が顕在化された。コラボレーションやカルチャー醸成には、人が集まるオフィスがやはり有効と多くの企業が考え始めている。

「企業にとってオフィスは企業カルチャーや帰属意識などの面で重要です。『誰もがリモートワークを求めている』という考えもありましたが、実のところ多くの企業では、人は対面で仕事をすることや人とのつながりを持つことを好んでいることに気付いています」(ヒーリー氏)

オフィスビルにパブリックスペースやリテールスペースを設けるトレンドにも同じ理由がある。そして、オーストラリアの企業の多くが、デザインやアートワークを通じて国の伝統や先住民の文化を尊重することにも。

「それはビルのヒューマニスティックな側面です。みなパブリックアートを見に行くのが好きで、歴史の片鱗を見ることや、それを自身でクリエイティブに解釈することを好みます。新しくつくるビルにはこれまで以上にそうした要素を取り入れていきます。テナントに対しては、リテールやパブリックアートはどんなものか、文化的意義はどうなのか、ビルにソウル(魂)はあるのか、ビルに入ったときにいい気持ちになるのか、そうした要素を求めますし、今後ますます重要になるでしょう」(ヒーリー氏)

  • マーバックが占有する6フロアはフロア中央に内部階段を設け、社員の交流を活性化している。顔認証セキュリティも採用し、社員のスムーズな動きを阻害しない。

  • 階段の終着点にはコミュニケーションを誘発するハブが必ず用意されている。トレーニングセンターやキッチンも併設され、社員間の偶然の出会いをさらに加速する。

  • アジャイルワークを採用しているため、ワーカーは自分の働く時間と場所を自由に選択することができる。囲われ感のあるコンセントレーションブースが人気だ。

  • 執務室内の通路上に配置された細長いキッチン。往来の多さが偶然の出会いを誘発する。ここはタッチダウン的な作業スペースとしても機能している。

text: Yusuke Higashi
photo: Hirotaka Hashimoto

WORKSIGHT 16(2020.7)より

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