Workplace
Apr. 5, 2021
自社の革新性を体感してもらう
ショーケース
[Mirvac]Sydney, Australia
サウス・イヴリーをはじめ、革新的な不動産開発を手がけるマーバックにとって、本社オフィスが入るシドニーの「EYセンター」は自社の革新性をカスタマーに体感してもらうショーケースでもある。ビル6フロア分、7,000㎡を専有するオフィスのコンセプトが「フレキシビリティ」。固定デスク、ハイベンチ、コラボレーション・スペースなど多くのセッティングがあり、ワーカーはその日必要な働き方に合わせて選ぶことができる。在宅含め、社外での勤務もOKだ。「生産的で上司がパフーマンスを好評価していればどこで働いてもいいことになっています」と同社のコマーシャル・デベロップメントでゼネラル・マネージャーを務めるサイモン・ヒーリー氏は言う。
もう1つ、マーバックのイノベーションに「ワークプレイス・ダイナミック・デンシティ(流動的密度)」がある。これは1つのワークステーションに何人を割り当てるかという考え方。アジャイル・ワークなどを理由にオフィスにいないワーカーの数を考えると、必ずしも1つのワークステーションに1人を割り当てる必要はない。この「ワークプレイス・ダイナミック・デンシティ」は大企業になるほど数字が高くなる傾向にあり、「当社では10のワークステーションに対し12人、つまり、(1つのワークステーションあたりでプラス)20%が標準的です」(ヒーリー氏)。ビル全体を見ても、オーストラリアで新規に建てられたオフィスビルの基準が「10〜12㎡に1人」であるところ、ここは8㎡に1人の密度になるよう設計されている。さらに、アジャイル・ワーク(オーストラリアではABWをこう呼ぶことが多い)によって流動的に人口密度は変化する。マーバックの従業員満足度を調べたデータを見ると、生産性は35%向上、視覚的な美しさは前オフィスの30%から91%へと改善。また「職場が健康にプラスの影響を与える」という認識も33%から88%へと向上した。
マーバック
コマーシャル・デベロップメント
ゼネラル・マネージャー
サイモン・ヒーリー
曲線的、かつ木材を活用する設計が
オフィスビルに温かみをもたらした
ビル設計にあたっては6つの建築事務所にコンセプトデザインを依頼した。「オフィスビルは一般的に矩形でデザインされますが、四角い形、ガラス、コンクリート、光が反射するという要素は特徴がなく、温かみに欠けます。それでも商業ビルですから、オフィスビルでありながらテナントを入れることができ、かつ新しさを感じるものにしてほしいと指示しました」とヒーリー氏は言う。コンペで採用されたのはシドニーの建築事務所FJMTによるもの。曲線的で木材を活用する設計はマーバックを満足させた。中でもトリプル・グレイズド・ファサード・システムは野心的だ。3層のガラスを持つ外装システムで太陽光線を遮り、3層の間にある密閉空間に木製のベネチアン・ブラインドを取り付ける。これがビル内外に木材の温かみを伝えるものになった。
マーバックはオフィス市場の今後をどう予測するだろう。その1つのトレンドがオフィス回帰だ。「どこでも働ける」環境が整備される一方で、オフィスで働く意味が顕在化された。コラボレーションやカルチャー醸成には、人が集まるオフィスがやはり有効と多くの企業が考え始めている。
「企業にとってオフィスは企業カルチャーや帰属意識などの面で重要です。『誰もがリモートワークを求めている』という考えもありましたが、実のところ多くの企業では、人は対面で仕事をすることや人とのつながりを持つことを好んでいることに気付いています」(ヒーリー氏)
オフィスビルにパブリックスペースやリテールスペースを設けるトレンドにも同じ理由がある。そして、オーストラリアの企業の多くが、デザインやアートワークを通じて国の伝統や先住民の文化を尊重することにも。
「それはビルのヒューマニスティックな側面です。みなパブリックアートを見に行くのが好きで、歴史の片鱗を見ることや、それを自身でクリエイティブに解釈することを好みます。新しくつくるビルにはこれまで以上にそうした要素を取り入れていきます。テナントに対しては、リテールやパブリックアートはどんなものか、文化的意義はどうなのか、ビルにソウル(魂)はあるのか、ビルに入ったときにいい気持ちになるのか、そうした要素を求めますし、今後ますます重要になるでしょう」(ヒーリー氏)
text: Yusuke Higashi
photo: Hirotaka Hashimoto
WORKSIGHT 16(2020.7)より