Workplace
Jul. 5, 2021
フレキシブルなワーカーが
自ら考えたビジョン「Living Arup」
[Arup]Melbourne, Australia
ロンドン発のエンジニアリング、プランニング、デザイン会社アラップが、新しい働き方を提示している。3つのフロアを2つのメザニンでつなぐ構造もユニークだが、よりユニークなのは、独自のカルチャーだ。「(株式の)所有構造ですね。会社は従業員によって所有されているのです」とアラップのワークプレイス・リーダー、キャメロン・マッキントッシュ氏は言う。従業員が所有する組織として、アラップは外部の株主の意向に左右されず、実施するプロジェクトを自由に選択することができるのだ。また、エンジニアの会社としては珍しくABWを実践しているのも自らの発案だ。アラップは建築設計事務所ハッセルとともに2015年、オーストラリア地域のオフィス向けに、会社のフィロソフィーを踏まえた働き方のガイドラインを開発した。それをどう導入するかは各拠点に委ねられている。ここメルボルンでは「Living Arup」というビジョンを掲げ、サステナビリティ、ウェルネス、コネクティビティ、フレキシビリティを重視すると決めた。
彼らの新オフィスはその「Living Arup」の表現といえる。そして、それはまた彼らの横断的でフレキシブルなカルチャーをサポートする役割も果たすものだ。マネージャーはすべてのミーティングに参加し、プロジェクトでのすべての決定は彼らの議論を経て下された。「例えば500個のロッカーを『ロッカーの森』みたいに1つの場所に置くことについて、最初は緊張しましたが結果的にはうまくいきました」とマッキントッシュ氏は言う。
建物外観。立地はオフィスビル、レジデンス、商業施設などからなるメルボルンの再開発エリア「メルボルン・クォーター」。その中のOne Melbourne Quarterに入居する。
テクノロジーはツールであり、
結果ではない
3つのフロアを独立させるのではなく、複数のメザニンを挟んだのは「3次元の体積」としてオフィスを捉えるため。2,000㎡の広さがあっても各フロアが視覚的につながっている。「個人的には2FからGF(地上階)までコーヒーを取りにいくのは面倒ですが、ビジネスや健康から考えたらいいことだと思います」(同氏)。執務エリアはゾーン別のグループアドレスとしているが、4カ月に一度移動する。ワーカーはラップトップを抱えてオフィス内を自由に移動できるが、ランチはキッチンで。「ここは私たちの『ホーム』。電子レンジ、ストーブ、冷蔵庫があり、みんなで一緒に話をしながらランチを食べています。自分のデスクで食事をしてはいけないというルールはないですが、できるだけみんなと食べるように勧めています。また、上階のカフェでは外部イベントが開かれることがあり、そうした場合にもこのキッチンがみんなの居場所になります」(同氏)
サステナビリティのために掃除には化学薬品を使わず、電解水を使う。自転車で通勤するワーカー向けにはシャワー付きでユニセックスの更衣室をつくった。いつでも運動できるようにとヨガやピラティスなど体を動かせるスペースもある。
テクノロジーについてはどうだろう。「テクノロジーはツールであり、結果ではありません。レセプションも実際に人間が受付をしていて、大きいモニターなどがあるわけではありませんし、実際に人間味があってほしいと思っています。例えば、ビルの入退室からロッカーの施錠までを1つのカードで可能にすることで、よりシームレスなエクスペリエンスを実現させることができる。ロッカーを電子ロックにすることで、今後11年間はキーの管理をせずに済みます。データも見えるので、もし誰かが6カ月ロッカーを使っていなかったらまだ必要か確認できますし、来客に1週間貸すこともできる。テクノロジーを通してオペレーションを改善することができるのです」(同氏)
以上すべてが従業員の働き方を考慮に入れて決められた。「かかったのは大きな金額ではないですが、みんなに大きな影響を与えています」とマッキントッシュ氏は胸を張る。おかげで評判は上々。移転3カ月後の調査では、ワーカーの98%が「満足」と答えたという。移転当時453人だったワーカーが1年で520人まで増えたという事実も、新オフィスの成功を証明するに十分だ。
数々のデザイン賞に加え、アラップのメルボルン・オフィスはグリーンスターの6つ星を獲得している。さらに、WELL認証の新たな評価基準であるWELL v2のプラチナ認証を受けたオフィスの1つに輝いた。これはオーストラリアのみならず、世界で初めての快挙である。
アラップ
ワークプレイス・リーダー
キャメロン・マッキントッシュ
text: Yusuke Higashi
photo: Hirotaka Hashimoto
WORKSIGHT 16(2020.7)より