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プロフェッショナルたちのフラットな連携

個別性の高いニーズに応えるための新しい組織

[三つ葉在宅クリニック]名古屋市, 愛知, 日本

  • 利用者側の多様化するニーズにいかに応えるか
  • 縦割りヒエラルキーを打破するフラットな連携システムを構築
  • 持続的で高品質な在宅医療サービスを実現

高齢化の進展は新しいビジネスを生み出しているが、それは医療の世界でも同様だ。利用者側の多様化するニーズにいかに応えるか……、専門家たちに突き付けられた課題に対し、医師たちが新しい取り組みを進めている。三つ葉在宅クリニックでは、従来型の縦割りヒエラルキーにとらわれず、医師同士、看護師らとの新しいパートナーシップをつくることで、高品質な在宅医療サービスを24時間365日、持続的に提供することに成功した。そのカギとなったのは、独自の情報共有のしくみと、連携に向けた努力だった。

在宅医療のハードルは高く、医師一人の努力には限界

今後確実に進展していくであろう高齢化。老齢患者や要介護者の数は急速に伸びていく一方で、現状の医療従事者や病床の数では対応しきれないのが実状だ。さらに最近では入院せず、住み慣れた自宅で診療や介護などの医療サービスを受け、最期まで過ごしたいという声も多い。そこで注目されはじめているのが在宅医療だ。

高齢者にとって介護とも連動させやすい在宅医療は、患者を中心とした新しい医療の形ともいえる。しかし、従来型の医療システムでは、在宅医療への対応は万全にはなかなかならない。医師が病院という本拠地を離れ、高品質の医療サービスを24時間365日提供するには、医師の理想や情熱だけではもたないのだ。三つ葉在宅クリニック代表で院長の舩木良真氏も、研修医時代、肉体的にも精神的にも非常にきつい在宅医療の現場を経験した。しかしそれでも舩木氏は、在宅医療の可能性を直感し、「どうすれば持続できるか」を考え続けた。

困難さの原因の一つは、医師たちが孤軍奮闘してしまうことだ。舩木氏は「医師は孤立した存在だ」と言う。「医師は互いに干渉しない文化が根強く、どんな治療をしたか、どんな処方を書いたかなどはなかなか共有することはありません」。医師たちは専門家として、自分の診断に責任を持ち、看護師らを指揮するが、舩木氏は在宅医療を継続的に行っていくためには、医師の思いや経験知を結集することが必須だと考えた。そこでたどり着いたのが、グループ・プラクティスという方法だった。

今、注目されている在宅医療。自宅での診察は生活環境も把握でき、患者さんの状態を深く知ることができる。

名古屋市のオフィスビルに構える「三つ葉在宅クリニック 栄」。スタッフが車で通勤しやすいように名古屋の中心部に診療所を構えた。

1日の訪問件数は8~10軒程度。1軒あたり20~30分の時間をかけ、じっくり診察する。通常検査のほか、必要に応じて超音波や心電図、レントゲン検査なども行う。

看護師は部下ではなく、
対等な外部パートナーとして迎え入れる

「グループ・プラクティス」とは、専門分野のエキスパートがチームを組んで問題解決にあたる手法だ。日本での認知度はまだ低いが、弁護士事務所やコンサルティングファームなどにそのケースを見ることができる。舩木氏は志を同じくする仲間とともに、勉強会やビジネススクールでグループ・プラクティスを研究し、4人の若い医師たちと三つ葉在宅クリニックを開業した。三つ葉ではITを活用した情報共有システムをベースに、主治医制、夜間・休日の当番制を組み合わせることで、持続可能な24時間365日の医療サービスの提供を実現した。そして、医師たちが医療に専念できる体制をつくるためのもう一つの方策が、看護師などスタッフについて、基本的には外部のリソースを活用することだった。

「この地域は、訪問看護ステーションなども充実していたので、外部の看護師や介護士と組むことにしたのです。介護のプロフェッショナルや看護師と連携することによって、より高品質な在宅医療を実現できるとの判断です」と舩木氏。在宅の患者を中心とし、医師、地域の訪問看護ステーション、ケアマネジャーらが、お互いにプロフェッショナルとして対等なパートナーシップを組む。これが三つ葉が目指す在宅医療の体制だ。

病院では医療を頂点としたヒエラルキーが生まれがちなのだが、対等な関係と位置づけることで、新しい信頼と工夫が生まれるという。そのために、あえて白衣を着用しない、時間をきっちり守るなど、コミュニケーションを潤滑に行うための努力も払う。これらによって、患者側にとっても従来の医療につきまとう重苦しいイメージが払拭され、よりコミットしたサービスが可能になるという。

現場ごとの取り組みを、チームで共有する環境づくり

外部パートナーとの連携に加え、三つ葉の在宅医療を支えているもう一つの柱が、情報の共有である。医師たちは毎朝夕にカンファレンスルームに集結し、おたがい担当した患者について報告しあい、全体方針の調整を行う。

そしてこのカンファレンスと表裏一体にある情報共有システムが電子カルテだ。医師たちは患者宅へ向かう際、モバイルパソコンとプリンタを携行し、診療後に電子カルテに入力し出力物を渡す。さらに最新の情報に更新された電子カルテは、インターネット経由で蓄積され医師の携帯電話にも配信され、必要に応じてその出力物を看護師や介護士にも送る。リアルタイムにナレッジを共有することができる電子カルテの存在は、パートナーとの連携の基盤にもなっている。三つ葉ではこのシステムを運用進化させるために、システム開発の会社をグループ傘下に置く。カンファレンスと電子カルテは、作業の効率化だけに留まらず現場スタッフたちの意思の統一や結束にも一役買っているという。

三つ葉在宅クリニックでは、オフィスやスタッフのありようもユニークだ。拠点オフィスは、スタッフが車で通勤しやすい名古屋中心部のオフィスビル8階にある。医師たちのカンファレンスが行われるのは、ガラスのパーティションで大きく仕切られたゆったりした一角だ。常勤医師が6人、非常勤医師が9人(2010年10月現在)このオフィスを拠点に医師一人が一日に8~10人程の患者宅へ向かう。ほかに、システム担当や広報担当と言ったスタッフがオフィスに常勤し、従来型の医院とは異なるスタッフ体制で構成されている。医師たちに専用の部屋はなく、必要に応じてオープンな席に座り、常勤のスタッフたちとともに仕事をする。

「プロフェッショナルだからといって、ひとり孤独でやるのは楽しくありません。様々な人とディスカッションし、厳しい中にもサロン的な環境にしたいですね」と舩木氏。舩木氏は価値観を共有できるパートナーを募るため、精力的に地域のケアマネジャーやヘルパーの団体の学習会や研修会に出向き講演を行っており、その甲斐あって賛同者の数は年々増え続けているという。「自分が高齢者になったとき、自分が望む医療サービスが受けられること」という舩木氏自身の目標は、プロフェッショナル同士の新しい連携という三つ葉在宅クリニックが切り拓いたモデルによって、一歩一歩実現に近づいていく。

WORKIGHT創刊準備号(2010.11)より

交代制の当直医で24時間制をつくる。必要に応じて担当医との情報交換なども行う。 オフィスはICT環境を完備。医師はフリーアドレスでスタッフと同じオープンなスペー スで働いている。

朝夕に行われるカンファレンスでは申し送りと同時に、患者の状況について一人ずつ検討が行われる。グループプラクティスに大きな役割を果たすほか、現場スタッフの意思統一や結束力の強化にもつながる。患者の状態だけでなく、医師としての悩みを共有できるのもポイントだ。

訪問時にはモバイルパソコンのほかプリンタも携行。診療後、その場で電子カルテに入力し、診察レポートを印刷して患者さんに容態を説明する。

訪問先で入力された電子カルテは、リアルタイムでデータベースに蓄積され、共有される。必要に応じて、情報がヘルパーなどの外部スタッフの携帯電話に配信される。

舩木良真(ふなき・よしまさ)

医師。医療法人三つ葉代表。三つ葉在宅クリニック栄院長。名古屋大学医学部卒業後、アジア各国や北欧、ニュージーランドなどの医療視察を通じて、高齢者医療モデルに興味を持つ。2005年、名古屋に若手医師4人で在宅医療を専門とする三つ葉在宅クリニックを設立。高齢者に安心を提供するためのシステムの構築を目指している。電子カルテは在宅医療用のオリジナルを開発し、スケジュール管理や物品管理などオペレーション面の充実を図っている。

 

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