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顧客の潜在ニーズを掘り起こす固有のプロジェクトルーム

技術に強いデザインコンサル会社

[Ziba]Portland, Oregon, USA

  • デザインだけでなく、より高度で統合的な顧客課題を解決する
  • すべての情報を見える・触れる状態で集約するプロジェクトルームを設置
  • 顧客企業が抱える本質的な課題を共有、統合的な提案ができるようになった

ポートランドにあるジバは、50%以上のスペースが顧客とのコラボレーションに使われるように設計されている。工業デザインに強いデザイン会社として、26年間にわたって先進的なプロダクトを世に送り出してきたジバ。しかし、2009年8月に完成した現在のオフィスは、狭義のデザインビジネスから、顧客企業のイノベーションプロセスそのものを設計するという、より高度なビジネスに移行するためにつくられた。

その中核をなす機能が”プロジェクトルーム”だ。ジバが扱う案件それぞれに物理的な個室が割り当てられ、常時、関係者だけが出入りできるしくみだ。顧客企業とジバがイコールパートナーとして、このプロジェクトルームに集まり、日々知恵を出し合っている。会議室を使ったミーティングや、ITを使ったバーチャルなコミュニケーションが全盛の今、ジバがタンジブル(触れることができる)な体験共有を重視するのは、ナレッジワークの本質が情報の統合にあると考えているからだ。

ジバは米国本部と3カ国を拠点にグローバル展開しているデザインコンサルタント会社だ。本部はスポーツブランドの本社が集結するオレゴン州ポートランドにある。スタッフの国籍は18カ国以上。職種も様々で、社内にコミュニケーション・デザイナー、アプリケーション・デベロッパーなども抱えている。

  • プロジェクトルームの壁は一面ホワイトボードになっており、常に無数のアイデアが書き込まれたり、貼り付けられたりする。顧客企業と課題やアイデアを共有するのにうってつけだ。

  • 通常の会社では、顧客対応エリアを建物の外側に配し、外部と内部を明確に分離するケースが多い。しかしジバは、プロジェクトルームをオフィスの中心部に設置。部屋単位で機密を確保し、あとは自由に行き来できるようにした。

  • 3階建ての建物のうち、2~3階部分はオフィススペース。1階はギャラリーや工房、シアターが設置されている。プロジェクトルームは、3階部分につくられている。

  • 顧客や社員が使える休憩スペース。冷蔵庫の飲み物はすべて無料。

オフィス中心部に顧客を迎えて
コラボレートする

シンプルな言葉で伝え合うこと、情報を統合すること、インテグレートされたアイデアを組み合わせること、この3つのアクティビティがナレッジワークの要諦だという。「クライアントは自分たち専用の何かがあるということを喜んでくれて、我々との親密感も生み出している」と社長のボソギさん。

ユニークさはプロジェクトルームだけではない。「多くの会社では機密事項に配慮して、オフィスのあちこちにゲートを設ける。建物の中心から顧客を排除しながら、離れた会議室で接客する構造になる。しかし、私たちのオフィスは中心部分に顧客を迎え入れてコラボレーションできる。唯一鍵がかかっているのはCFOとマネージングディレクターの部屋だ。社員の個人机には情報が見える形で置かれないしくみなので、クライアントがふらりと立ち寄ることができる。体感的にもビジュアル的にも、オフィスの中に入ってきていると感じてもらえるはずだ」。

狭義のデザインを超えた提案を目指す

48職種、約110人という社員がジバで働いている。「ブランド、イノベーション、デザインのそれぞれを専門とする会社はあるが、分断されたアプローチでは複雑化する企業の悩みを解決できない」(濱口さん)。顧客から依頼された内容とは別のところに、その企業が抱える本質的な課題を発見する場合もある。中国のスポーツウェアメーカーから靴のデザインを依頼されたときのことだ。

「顧客と議論するなかで、次第に課題が靴のデザインにはないことが分かった。そこで製品戦略を作り、デザイナーのトレーニングを実施、最終的にはポートランドにイノベーションセンターを作った」(ボソギさん)。ジバの社内には、工業デザイン、エンジニアリング、インタラクションデザイン、コミュニケーションデザイン、環境デザイン、コピーライター、戦略、クライアントリレーションズなど様々なバックグラウンドを持った人材がいる。「彼らが可能性を限定しないコラボレーションを実現できるのも、このビルの設計で目指した重要な部分だ」(ボソギさん)。

ガラス張りになっている上階部分がプロジェクトルーム。外から室内の作業を覗けないようになっている。

プロジェクトルームの様子。デザインだけでなくブランド構築の戦略、イノベーションまで徹底的に話し合われる。

クリエイティブチームの様子。オフィスのコンセプトは「コラボレーション」「クリエイティビティ」「コミュニティ」の3つだ。これらを確立するために、プロジェクトルームが作られた。

モノだけでなく“体系”を
デザインする会社

ジバが目指しているのは、前例のない新しい事業形態だ。それは「ブランド戦略やイノベーションを含めて、思考や発想のしくみまでデザインすること」だ。デザインを軸としたソリューションは、顧客から求められる者がこの5~10年で大きく変わりつつあると濱口さんはいう。

「かつては、お客様は素人で、デザインが分からないからデザインをして欲しいという依頼がほとんどでした。 “モノの形”が求められていたわけです。ところが今は、お客様が社内で問題解決をしようとしてうまくいかず、『もっと新しい何かはないか』と弊社に来られるケースが増えています」

モノに限らない、大きく茫漠としたソリューションが求められているというわけだ。しかし多くのデザイン会社は「少数のカリスマデザイナー」が「製品などのモノをつくる」という形態であるため、漠然としたオーダーに応えていくのは難しい。そこで必要になるのが、ジバのような「大きなグループ」で顧客と一緒に「思考や発想、問題解決のしくみのデザインを考える」という手法だ。

「弊社の顧客には銀行、カード会社、ホテルなどたくさんありますが、私たちは建物やカードを設計しているわけではないんですね。”体系”というソリューションをデザインしているわけです。こうした、高度で複雑な課題に応えるには、情報を統合してシンプルにし、みんなでアップグレードしていく必要がある。そのためにプロジェクトルームを活用しているというわけです」(濱口さん)

モノのかたちをデザインする会社から顧客企業のインテグレーションをデザインする会社へ。業態をシフトするために考案した”プロジェクトルーム”を活用し、リアル空間にすべての情報を見える・触れる状態にして集めて統合、顧客とともに本質的な課題を発見し、アイデアを出す。ジバの成功は、企業の問題解決にデザイン思考のプロセスを導入した典型例の一つといえるだろう。

WORKSIGHT 01(2011.10)より

従業員と顧客が自由に使えるライブラリー。1000冊を超える書籍、500冊以上の定期刊行物が用意されている。

ソラブ・ボソギ

ジバデザイン社長。1956年イラン・テヘラン生まれ。1971年に渡米し、米国籍を取得。ヒューレット・パッカードを経て、84年にジバデザインを設立。アメリカ工業協会(IDSA)やビジネスウィーク誌のベストデザイン賞など数多くの受賞作品を手掛ける。

濱口秀司(はまぐち・ひでし)

同社戦略ディレクター。京都大学工学部卒業後、松下電工に入社。研究開発や戦略投資案件の意思決定分析担当を経て、98年よりジバに。USBフラッシュメモリなどのコンセプトづくりに携わる。パナソニック電工米国研究所上席副社長などを経て2009年より現職。

 

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