Workplace
Dec. 27, 2011
プロジェクト型オフィスで従来の組織限界を超える
世界最大規模の総合設計事務所
[日建設計]千代田区, 東京, 日本
- 事業拡大で四散したナレッジを集約したい
- 東京オフィス8階に、実験的にPOWを設置
- 社内の様々な暗黙知をさらに結集できるようになった
東京オフィスの8階にあるPOW(プロジェクト・オリエンテッド・ワークプレース)は、案件ごとに各部署から集まったメンバーがチームデスクに座る。「デザインやエンジニアリング、構造、設備など職能の異なる職員が机を並べて作業する。そうしたチームが同じフロアにいくつも同居しているから刺激がある」(同社設計部・勝矢さん)。個人ゾーンとコラボレーションゾーンを区切った従来のオフィスは効率性に優れる。
しかし知的生産性はどうか。「いろいろ目に入る、摩擦やノイズの多い環境のほうがみんなで知恵を出し合える。インフォーマルな横のつながりを生かした働き方ができる」――日建設計ではそう考えた。
プロジェクトごとに島をつくると業務が見える化する
チームデスクの横を通りかかると、作りかけの模型が目に入る。「前よりもお互いに何をやっているか見えやすくなった。プロジェクトがつねに顕在化していることで、外からのつっこみが入りやすい」(POW責任者・執行役員の亀井さん)。アイランドタイプのチームデスクそのものが、プロジェクトの外との接点になっている。個人にひきつけたデスク空間は、ともすればタコツボ化を助長し、社内の豊富なリソースを分断する。「個人でやっているなら自宅で働けばいい。会社のスケールメリットを生かせる環境がつくり出すビジネスに期待している」。
フロアの中心部に、誰のプロジェクトにも属さないテーブルを置いているのも、インフォーマルなコミュニケーションを促すためだ。「社外の専門家をプロジェクトに招くときもコラボレーションしやすくなった。会議室ではなく、作業場にきてもらう感覚が喜ばれる」(同社設計部・塩浦さん)。プロジェクト単位で集合・離散するので、すべての什器を軽量化し、キャスターをつけて可動式にするなど、細かな工夫にもこだわっている。
中央ゾーンは誰が使ってもいいフリースペース。打ち合わせなどに利用されることが多い。
課外活動で
社内リソースを掘り起こす
POWの実験は空間だけではない。所属部署やプロジェクトにとらわれない、横断的なつながりをつくりだそうとしている。「Cloud-PTという課外活動を通して、社内のリソースを掘り起こしたり、つなげたり、外に発信しようと考えている」と塩浦さん。ユニークな活動の1つが「お花見テーブルPT」だ。テーブルの表面をステンレスで鏡面化することで、下を向いていてもそこに映り込んだ桜の花を見ながらお酒を飲めるという製品アイデア。設計事務所らしからぬ活動だが、こうした動きを通して世間のイメージも当事者たちの既成概念も取り払われると期待している。
このcloud-PTはもちろん社内に限らず、コンサルタントやアートディレクター、編集者といった外部の専門家と広くコラボレーションするためのプラットフォームとしても使われる。POWの試みは、塩浦さん、勝矢さんなど、30代の比較的若い社員たちが中心となって行われているのが特徴だ。「これが日建設計としての正解とは思っていないが、新しい働き方を考える大事な実験だと考えている」(勝矢さん)。
WORKSIGHT 01(2011.10)より
cloud-PTで生まれたお花見テーブル。桜の花びらのかたちに思えるが、じつはひらがなの「お」の点の部分。桜の木の下に”おはなみ”という文字のテーブルを置くのが最終目的だとか。
地域活動PTは、立川市を中心に放送されている「FMたちかわ」と提携。都市や建築、デザインに関する番組を放送している。
亀井忠夫(かめい・ただお)
日建設計執行役員。1977年早稲田大学理工学部卒業後、ペンシルベニア大学大学院へ。81年日建設計に入社。クイーンズスクエア横浜やさいたまスーパアリーナ、パシフィックセンチュリープレイス丸の内、東京スカイツリー?などの設計を手掛ける。POW担当の執行役員としてプロジェクトを主導している。