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「ヨーロッパで一番」の職場が大切にしているもの

「親切」「思いやり」に最大の価値を置くソフトウェア企業

[Futurice]Helsinki , Finland

  • 会社の成長に合ったマネジメント環境の整備
  • 透明性の徹底で、社員を思いやる制度を構築
  • 「欧州でもっとも働きがいのある職場」の評価を獲得

ヨーロッパの18カ国、1500以上もの企業から“もっとも働きがいのある職場”を選ぶ「欧州ベスト・ワークプレイス賞」*。その中小企業部門(2012年)で1位に輝いたのが、ヘルシンキに本社を置くソフトウェア開発企業のフューチュリスだ。同社は、フィンランドの「ベスト・ワークプレイス賞」を2年連続で受賞している。

会社設立は2000年。現在では、フィンランドのタンペレ、ドイツのベルリン、イギリスのロンドンにもオフィスを持ち、およそ180人の社員が働いている。

フューチュリスが顧客満足度とともに一貫して求めてきたのは、社員の幸福と充実感だ。「やる気あふれる人々がつくり上げたシステムは、顧客のエンドユーザーをハッピーにする。エンドユーザーがハッピーなら、社員はもっとやる気が出る」という好循環を高いレベルで実現してきた。そのために、「規制」と「コントロール」ではなく、「相互の信頼」と「内部の透明性」に基づく社内プラットフォームを重視している。

組織づくりの始まりは「お互いを信じること」から

「13年前にこのような会社を設立したのは、自分たちが楽しく働ける職場をつくろうという思いからでした」と語るのは、人事主任でシニアサービスデザイナーでもあるハンノ・ナヴァンリンナ氏。しかし、社員が60人ほどに増えた頃から様子が変わってきたという。「創業後の企業が変化していくのは当たりのことですが、我々も、次第に会社らしく、社員をマネジメントする制度を整えていこうとしたのです。それを半年間ほど推し進めた頃、現在のCEOである創業メンバーが問題提起をしました。『なぜ社員をマネジメントする必要があるのか』と」。

業績が伸び悩むとき、間違っているのは社員なのか、制度なのか? その問いに、創業メンバーたちは「社員が間違っているはずはない。制度が間違っているのだろう」という答えを出した。優秀な社員も縛りすぎればよさを発揮できなくなる。問題なのは、情報が足りないことだと結論づけた。

そこからフューチュリスは、3つの具体的な変化を社内に起こしていく。

1つめは「あらゆる情報がシェアされている状態」をつくること。シェアが実際は無理な場合でも、少なくとも開示はされている。守秘義務に反しない限りは、事業に関するいかなる情報も秘密にはされない、ということを基本とした。2つめは「会社の進んでいく方向性を社員全員が確実に理解している」ようにすること。戦略、ビジョン、ミッションなどの共有は、どの企業でも行っていることだが、フューチュリスはそれを徹底させた。3つめは「何事に関してでも、社員自身に決断させる」ということ。そこには会社の社員に対する信頼がある。例えば、ある会議が開催されるときに、社費を使って参加することが会社の利益になるかどうかを判断するのは、会社ではない。会議に参加する社員自身だ。上司に「行くべきでしょうか?」などと質問するシチュエーションは存在するべきではないのだ。

こうした社内プラットフォームづくりは、社員の意欲と主体性を高めるとてもアクティブなプロセスになった。「フィンランドでもこれが普通なわけではありません。しかし、実現してみて思うのは、このモデルに人は意外と順応できる、ということです。実際に変化を起こすために必要なのは、『信頼されている』と社員がはっきり自覚できること、自分で決断・実行するための力を与えられていること、そしてすべてにおいて可能な限り透明性が確保されていることだと思います」(ナヴァンリンナ氏)。

創業:2000年
売上高:950万ユーロ(2010年)
従業員数:約180人

Futurice(フューチュリス)は、IT分野におけるコンサルティングやソフトウェア開発、それに伴う業務効率化(ERP)、研修事業などを行う企業。クライアントはレストラン・チェーン、スーパーマーケット、携帯電話会社、不動産会社、映画会社など多彩で、プロジェクトも顧客のゴールに合わせて、物流システムの改善、Webページの制作、ファン向けアプリ開発など幅広い。本社のあるヘルシンキは、緯度の割には穏やかで、12月から2月の平均気温は−4℃前後。

*ベスト・ワークプレイス賞
働きがいに関する職場の調査・分析・情報提供などを行うアメリカ発の機関Great Place to Work(R)が国や地域ごと選ぶ賞で、もっとも働きがいのある職場に贈られる。Great Place to Workは、世界40カ国以上で大企業、中小企業、非営利組織など5,500以上のクライアントを有し、日本では2005年から活動している。

ハンノ・ナヴァンリンナ(人事主任/シニアサービスデザイナー)
Hanno Nevanlinna
「開発チームは、異なる職種の集まり。顧客に喜ばれる成果のためには、ゴールを共有し、親密なチームを作ることが大切です」

オフィス改善に主体的にコミットしてもらうために、エリアごとに、常に社員から意見を集めている。

  • 「コイヴュメッツァ(koivumetsä)」と呼ばれるリラクゼーションスペース。フィンランド語で「白樺林」の意味。

  • オフィススペースの様子。左の棚には、さまざまなガジェットが飾ってある。

  • エントランスのミーティングスペース。左奥には、ベスト・ワークプレイス賞のタペストリーが飾られている。

  • 1週間ごとの自分の状況(心境)をスマイルマークでを書くボード。短期目標や課題、備忘メモなどが付箋で貼られている。

顧客に共感し親密な関係を結ぶことで生まれる
「親切」に基づく「終わらない改善」

「信頼」と「透明性」に加えて、フューチュリスが大切にしている価値観は「親切」と「終わらない改善」だ。それはもちろん、社員だけでなく、顧客にも向けられている。

フューチュリスが行っている事業は、既製品をつくることではなく、顧客のニーズに柔軟かつ迅速に対応していくアジャイル・ソフトウェア開発。その中で重視しているのは、「顧客と常に近い距離を保つこと」だという。「我々は、自分たちのためにプロジェクトを組んでいる、という意識はありません。顧客のためにソリューションを探している、という意識です。エンドユーザーと顧客をプロジェクトに巻き込むこともありますし、飲み会に誘うこともあります。『御社・弊社』ではなく、『私たち』の関係になりたいのです」(ナヴァンリンナ氏)。

もっともよい結果が生まれるのは、顧客自身も何を欲しているのかわからずにいるときだ。そこを深掘りし、大きなニーズを見つけ出し、ソリューションを構築していくことに最終的な喜びがある。「そのためにも、新入社員教育は重点的に行います。たくさんの質問を投げかけ、自分たちのプロジェクトを片付けるのではなく、顧客の問題を解決するためによい仕事をする、という意識を確認していくのです」(ナヴァンリンナ氏)。

周到な準備と綿密な「振り返り」が仕事の精度を高める

リサーチのためにフィールドワークを行うこともある。例えば、フィンランドの郵政省からの依頼で、朝刊の配達を電子化した仕事では、デザイナーが朝刊の配達員に夜中からついて回った。郵政省が考えるビジョンだけでなく、現場で実際に行われていることも理解するためだ。結果として、このときに開発されたシステムは、現在フィンランド全土で使われている。

開発は多くの場合、時間との勝負でもある。思考を練ることも大切だが、それでもアイデアはアイデアに過ぎない。ソフトウェアは、使ってみて初めてわかる、という面も大きい。「すべての仕事におけるモットーは、使えるものをできるだけ早く出す、ということです。早い段階でアイデアを具体化し、試せるものを提供する。失敗も早く済ませてしまう、ということですね」(ナヴァンリンナ氏)。

フューチュリスでは、こうして行われたすべてのプロジェクトの終わりで「振り返り」を必ず行う。どのように開発を行ったか、そこから何を学んだか、どうすればもっとよい結果を導くことができたか……。「終わらない改善」の実践であり、顧客に対する「親切」のさらなる追求でもある。

個室のオフィスの様子。本社はビルの2フロアを占めており、キッチンで料理もできる。

ワークショップや全体会議などを行う大会議室。

オフィスにはサウナ室も備わっている。男女で利用時間をずらして共用している。

カフェテリアのスペース。天井の至る所で見かける風船には、「透明性には、いいことが盛りだくさん(Transparency brings sh**loads of good.)」など、会社の理念を表すフレーズがプリントされている。

360°View

カフェテリアのスペース。天井の至る所で見かける風船には、「透明性には、いいことが盛りだくさん(Transparency brings sh**loads of good.)」など、会社の理念を表すフレーズがプリントされている。

※画像をタップすると360°スライド表示が見られます

温かな配慮と遊び心で
社員の幸せと働きがいを支える

ソフトウェア開発は、ともすればハードで殺伐とした仕事になってしまいがちだが、フューチュリスでは社員への思いやりを欠かさない。人事部の壁には、社員の名前を縦軸、月の何週目かを横軸にとった掲示板があり、各マスの中には笑顔や悲しい顔を表すマークが描かれている。「社員は皆、週に1回ここに来てマークを描きます。悲しい顔を描いた人がいれば、他の人が『どうしたの?』と質問できますよね。仕事が多すぎるとか、私生活で心配事があるとか、問題を話すきっかけになるのです」とナヴァンリンナ氏。

そのほかにも、個人の仕事における6カ月後の目標、そのゴールに到達するための月々の目標を書く場所もある。社員たちは年2回、上司と面談してそのゴールを決める。また、月に1回、開発を行うチームごとに集まって、目標達成のために今何をしているか、何をするべきか、ゴールの設定は適切かどうかなどを話し合う。全員に対するメンター制度があるほか、各プロジェクトチームにはコーチがつき、さまざまな支援を行う。

付箋などの小道具を使って仕事を楽しくする工夫も、フューチュリスに根付いている文化だ。目標値を達成するための時間を見積もる「プランニング・ポーカー」、会議で「1分以内に考えをまとめよ!」といったときに使われる「時限爆弾」、頑張った社員の首にかけられる「メダルチョコ」。至るところに“働きがいのある職場”をつくろうとする意志がある。「私たちは、社員を幸せにして、幸せな仕事をして、顧客に喜んでもらおうとしてきました。そのための考え方すべてが、欧州ベスト・ワークプレイス賞1位につながったと思います」(ナヴァンリンナ氏)

WEB限定コンテンツ
(2013.1.31 フィンランドのFuturiceにて取材)

頑張ったメンバーに送られるメダルチョコ。遊び心があれば、働く喜びややりがいは、お金をかけなくても創造できる。

タクシーを呼ぶデバイス。電話1本で済む行為にも楽しい演出が用意されている。

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