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屋外のような開放感が創造性を引き出す

世界90カ国にオフィスを展開する広告エージェンシー

[JWT]New York, USA

  • コラボレートしやすく変化に強い制作体制の構築
  • アウトドアを思わせるオープンかつカラフルな空間づくり
  • よりクリエイティブな工程で多様化するメディアに対応

JWTは1864年、世界初の広告会社としてニューヨークに設立して以来、あらゆる分野の広告で様々な話題をもたらし、成長を遂げてきた。現在では、90カ国以上に200を超えるオフィスを展開する世界的な広告エージェンシーだ。

ニューヨークの本社オフィスはJWTのオフィスのなかでも最大規模で、建物の5階までにフリーランスやパートタイムを含めて約700人が勤務している。オフィス空間は2004年のデザイン変更を経て、オープンフロアに様変わりした。

現在の受付からオフィスに足を踏み入れて、まず驚かされるのは、いかにも企業然とした様子がまるでなく、あたかも野外を歩いているかのような自由さが感じられること。個室を持っているのは経営トップの3名だけ。人事部が入っている6階以外は、すべて中央の階段で行き来できるようになっており、制作に関わるスタッフは、部署ごとに用意されたエリアとは別に、自由に場所を見つけてプロジェクトを共有するメンバーと一緒に仕事ができる。

多様化するメディアへの対応力を高めるために

かつての“企業らしい”オフィスをなぜ根本的に変換させる必要があったのか。エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターのエリック・ワイスバーグ(Eric Weisberg)氏は、その理由を「一人ひとりが考えるスペースをやめて、皆でコラボレートして考えるスペースを構築する必要があった」と語る。

広告会社の仕事は、5年ほど前なら、テレビやラジオ、紙媒体などと媒体が限られており、3〜10ほどのメディアをカバーしていれば事足りた。しかし、現在はインターネット広告や、モバイル端末向けのメッセージングなど、新しいメディアでの仕事が半分以上を占めている。その結果、300以上ものメディアをカバーすることとなり、より多くの、そして多様な人々が様々なプロジェクトに関わるようになった。JWTはこのようなメディアの傾向の変化を10年以上前から予測し、その対応への必要性を感じていた。そこで、他社とは差別化したコラボレーションを実現するために、より有機的かつダイナミックにアイデアが行き来するようなオフィス空間が必要になった、というわけだ。

「昔のオフィスでは、2人のスタッフが向かい合ってアイデアを練るのに快適な個室があれば十分でした。しかし、現在では、3〜10人のチームが集まって仕事ができるスペースが必要なのです」(ワイスバーグ氏)。かつてのオフィスは、暗い廊下の両側に打ち合わせ用の個室がたくさん並んでいたという。そこは“内側”と“外側”が分かれており、天井も一般的な天井高しかなく、静かで決して活動的とはいえないスペースだった。

それが改装を経て、明るくエネルギーに満ちた空間に生まれ変わった。このおかげで、使用していたフロア数が1つ減ったが、改装前と同じ人数のスタッフが快適に働く環境となった。

設立:1864年
本社:ニューヨーク
従業員数:約1万人

JWTは自身のあり方をWorldmadeと呼んでいる。JWTで制作されるものは、常に世界との交流から生まれるものであり、戦略やアイデア、制作に関するアプローチもまた、世界中からインスピレーションを受けていることを表している。国境や地域にとらわれず創造を追究する気概が込められているといえる。
http://www.jwt.com/

通常のミーティングはソファなどで行われる。アートをこよなく愛するCEOボブ・ジェフェリー氏の発案で、壁の各所にアート作品が飾られており、四半期ごとに場所を入れ替えているという。

フロアやエリアごとにカラーリングや素材感が異なっており、変化に富んでいる。社員は、そのときの気分に合った色に囲まれて作業ができる。

  • カウンター形式の打ち合わせスペース。奥の階段が樹木の「幹」に見立てた中央階段。人事部などが入っている6階以外は、すべてこの階段で行き来できる。

  • 部署ごとに区画分けされたデスクにはパーティションもあるが、座っていても顔が見える高さ。パーティションを挟んですぐにコミュニケーションが始まる。

  • オープンスペースに用意されたデスク。プロジェクトに関わっているフリーランスは、このような場所に入って作業できるようになっている。

  • 社外秘のミーティングなどが行われる完全防音の会議室「カテドラル(Cathedral:大聖堂)」。隣には「デッキ(Deck)」という名の会議室もある。

流れ作業に終わらない
クリエイティブな制作工程

このようなオフィス空間に移行したことで、各チームの仕事は、より柔軟に変化に対応できるようになった。「かつての仕事は、すべて直線的でした」と、ワイスバーグ氏は振り返る。クリエーターがアイデアを出したら、それをストラテジー部門の担当者が預かってクライアントにプレゼンをする。OKがでれば、プロダクションに制作を委託し、それをまた受け取ってトラフィック担当者が納品をする、といった具合だ。しかし、現在、こうした直線的な仕事のやり方では、変化のスピードに対応できない。テクノロジー、メディア、コンテンツを扱う場合、それらに精通するメンバーを最初から巻き込んだ方がいい。そのほうがアイデアを出す過程でコラボレーションが活かせる、というのだ。

「現在は、アイデアは市場に合わせて、すぐに変化をしていかなければ、ニーズに応える仕事ができません。制作に着手しても、その過程で変化をしながら締め切りを迎えるため、すべての工程が流動的である必要があります」(ワイスバーグ氏)。ソリューションとして提供すること自体にクリエイティビティを求められるのが現代であり、それぞれの市場に合わせてどのように違う形で届けるのかも、重要な課題となっているのだ。

そのためにも、多様な人材一人ひとりが、自分をインスパイアできる場所が見つけられるようにカウンター席あり、ソファ席あり、デスクあり、テントありと、変化に富んだスペースが用意されている。“世界的な大企業”という言葉からイメージされる重厚感とは正反対のオープンでフリーでカジュアルな空間だ。「特に広告会社で働きたいという人材は、自分も何らかの創造に参加したいと思ってるわけで、オフィスに威厳や貫禄を求めているわけではありませんから」(ワイスバーグ氏)。

JWTでは、好奇心が旺盛で、世の中の問題を解決したい、そのメッセージをストーリーで語りたいという情熱のある人材がほしい、とワイスバーグ氏。Twitterやゲームから詩作まで、いまや情熱を表現する方法は、実に多様化している。そのどれもを受け止められる空間として、新しいオフィスが生まれたのだ。

「キャンプファイヤー」がインスピレーションを呼ぶ

ゼネラル・マネジャーのアンジェラ・バートン(Angela Burton)氏は、「改装の際に目指したものは、キャンプファイヤーでした」と補足する。以前のオフィスは、あちこちに仕切りがあり、どの階に行くにもエレベーターが必要だった。内部で繋がっている感覚がなかった点を改善し、キャンプファイヤーの周りに人が座って、それぞれが好きな話をするという雰囲気にしたかったのだという。

「キーワードは、ストーリー・テリング。物語が自然に生まれる空間を作りたいと思いました。中央階段は樹の幹で、それぞれのフロアが枝。それぞれのフロアには、テントがあり、草があり、葉が茂っている。これはCEOボブ・ジェフェリー(Bob Jeffery)のアイデアです。私たちは、オープンでどこにでもアクセスできる、まるでアウトドアのようなこうした場所で、スタッフ同士のコミュニケーションが基本に戻ることを期待しました。コミュニケーションをしながら、ストーリーを皆で考える。まさにキャンプファイヤーです」(バートン氏)。

オフィスの改装が進むにつれて、スタッフは空間の変化に徐々に適応していった。最初のステップとしては、700もあった個室のドアを全て撤去した。これは、本格的な工事が始まる前段階として、来たるべきオープンな(ドアのない)仕事空間に慣れてもらうための準備期間だ。すると、それだけで社員はお互いの部屋を覗き合い、意見交換をしてコラボレーションするようになったという。「工事中も、社員を隣同士に座るような大部屋に集めて、お互いの間に壁のない状態に慣れてもらうようにしました。それぞれのフロアを工事する度に、社員には別のフロアに動いてもらいました」(バートン氏)。

やや実験的な側面もあり、すぐに適応して変化を気に入る社員も入れば、戸惑う社員もいたという。しかし、そこでトップダウンの押し付けをすると、社員には「従わなければいけない」という義務感が生まれてしまう。「まず、リーダー達が、他の社員と同じデスクやソファーで仕事をすることで、誰もが同じように扱われることを示しました。このおかげで、他の社員も新しい環境に適応しやすくなりました」(バートン氏)。

定期的な配置換えで社員の交流を活発化

部署のフロアは決まっていて、配置も経理、プロダクション、クリエイティブなどと分かれているが、フロア内でどう座るかは、必要に応じて流動的に変化する。プロジェクトを共有するクリエイティブ部門とストラテジー部門の社員は隣同士に座ったり、プロジェクトが完了したら、そのストラテジストは別のクリエイティブ部門の人の隣に移る、といった具合だ。「新しいクライアント、プロジェクトに合わせてスペースと人の配置をすぐに換えられるのが、このオフィスの素晴らしいところ」と、バートン氏。新しい空間に作り直すには、6日間もあれば十分という。実際、異なる部署の新しい人とのコミュニケーションを促すため、配置換えは1年半に1度、定期的に行っている。

JWTの新しいオフィスは、それ自身が自己紹介の役割を果たしている。クライアントが入れば、すぐにどんなタイプのエージェンシーかすぐにわかるし、彼らが何者であるのかも容易に想像できる。広々として、カラフルで活動的なオフィスは、高いクリエイティビティを期待させる。オリジナルな感覚を刺激し、より基本的なコミュニケーションを喚起する空間が、人間から「新しい何か」を引き出すのだ。

WEB限定コンテンツ
(2013.7.9 アメリカ ニューヨークのオフィスにて取材)

ランチや朝食を食べられるカフェテリア。水、木はバーテンダーが立つバーにもなる。木曜の夜はビールが飲み放題。様々なイベントを行うときにも使われる。

打ち合わせに使われるテント。グリム兄弟(Grimm Brothers)、ミシマ(Mishima)など、作家の名が付けられいる。光が漏れているのは、その作家の作品の文章で布がくり抜かれているため。

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