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月間38億PVを支える“チームの力”とは

付加価値を生み出して勝てる組織を作る

[片桐孝憲]ピクシブ株式会社 代表取締役社長

起業を思い立ったのは高校生のときなんですよ。親元を離れて一人暮らしをしていたせいか、いつも友だちが家に遊びに来てくれました。みんなで将来のことを考えたり、他愛もない話で盛り上がったり。それが無性に楽しかったんですね。こういう状態をずっと続けるにはどうすればいいだろうと考えて、思いついたのが会社を作ることでした。

23歳で起業して、最初はホームページ制作や企業システムの受諾開発をしていたんですが、営業力や技術力も実績もなかったので、しんどい割に儲からない。このままだと一緒に働いている人が辞めてしまうのではないかと心配になりました。どうせやるなら人気があるモノを作りたかったし、すごいチームを作りたかった。すごいチームを作るためには、すごいプロダクトが必要だと思いました。それでできたのが「pixiv(ピクシブ)」だったんです。

コミュニティが少しずつでも着実に成長していくことが重要

pixivはユーザー数1000万人*を超えました。この1年は3カ月に100万人のペースでユーザーが増え、PV(ページビュー)は月間38億、月間ユニークユーザーは4500万にのぼっています。海外のユーザーも多いですね。最近は1日あたりの登録ユーザーは海外、特にアジアのユーザーが半分以上を占めています。

といっても、広告は打っていないんですよ。ユーザーを増やす特効薬なんてないし、それよりコミュニティが少しずつでも着実に成長していくことのほうが重要だと思っています。

例えば、pixivのユーザーにはアニメや漫画の好きな人が多いんですけど、アニメや漫画好きのためだけには作っていません。マニアック過ぎない雰囲気にして、普段からアニメや漫画を見てなくても「面白い」って思えるように。誰でも入ってきやすいように間口を大きくして、裾野を広げることを意識しています。

一方で、既存ユーザーに満足してもらえる仕組みも必要です。ユーザーが作品を投稿したときに一番嫌なことは、何も反応がないことなんですね。だからユーザー同士でも批評しあったり褒めあったり、率直なコミュニケーションが許される場を作っていかないといけない。じゃないと、コミュニティって盛り上がらないんですよ。

場を盛り立てるのって神経を使うし、微妙なさじ加減も問われたりするんですけど、そこはサービス業だし、ビジネス的に損してもユーザーがテンションが上がることを優先するようにしています。そもそも僕の起業の出発点が、みんなでわいわい楽しくやりたいというところにありましたからね。そこはpixivのあり方とつながっているかもしれません。

個人でできる仕事では競争に勝てない

これだけの規模のwebサイトを運営するとき、必要になるのがチームの力です。

今って、人気があるサービスやアプリを一人で作ることはかなり難しくなっていると思っていて、開発や運営でもエキスパートがチームになってモノ作りをしていかないと、人が使ってくれるようなものは作れないと思うんです。

インターネットが普及して、個人でアウトプットすることはすごく容易になりましたよね。パフォーマンスも飛躍的に向上したし、発表の機会もインターネット以前より格段に増えた。個人にとって最高の時代になりました。つまり、個人でできるような仕事では企業は生存できない時代になっているんです。

チームでの仕事はスケールも大きくできるからバリューも出しやすい。インターネットのサービスとかアプリも、昔は個人が作ったものがあったけど、今はみんな会社とかチームが作ってますよね。会社として組織の力をどう発揮するか。そこに勝負がかかっていると思います。

pixivは「お絵かきがもっと楽しくなる場所」を理念としたイラストコミュニケーションサービス。イラストの投稿に特化したソーシャル・ネットワーキング・サービスだ。運用開始は2007年。
http://www.pixiv.net/

ピクシブ株式会社では他にもイラスト漫画文化を主軸としたwebサービス事業やイベント事業を展開している。
http://www.pixiv.co.jp/

*ユーザー数1000万人
2014年2月現在。

的外れな意見を自由に言える雰囲気が
議論やアイデアを形にしていく

だからピクシブでは、チームの力を最大限に引き出すことを重視してます。意見やアイデアを出し合いながら、みんなで作り上げていく感じ。一人で時間をかけて作っていくのではなく、チーム内でどんどんコミュニケーションしてほしい。そうやってチームとして付加価値を作ること、生産性を高めることの方が大事です。

リクルーティングの段階から、チームワークできる人かどうかは見ていますよ。特定分野にものすごく詳しい、博士号を持っているようなエキスパートでも、チームで仕事ができなければ採りません。

「マクドナルド理論」**て知ってます? みんなでランチの行き先を考えているとき、「マクドナルドに行こう」と誰かが言うと、みんなが一斉に否決して、別の案が次々に出てくるというセオリーなんですが(笑)。つまり的外れな意見とか最悪のアイデアが自由に言える雰囲気が重要ってこと。それによって議論やアイデアが形になっていくわけです。

そうなると重要なのは優しさ、寛容性なんですね。学識とか経験がなくてもいいけど、そこだけは採用段階からチェックしています。すぐ怒る人とか怖い人は、ピクシブでは絶対無理。やっていけないです。

人事評価の観点は、チームを活性化できるかどうか

こういう職場だと、人事評価って意味がないんですよ。人事評価のもっとも重要な点は、社員に納得性があることだと思う。「360度評価」***とかいろいろありますけど、そういう体系はうちの会社には馴染まないし、そこにコストをかけても仕方ないと思っています。

ピクシブの評価の観点は、個人の技術力や開発成果だけじゃなくて、チームを活性化できたかどうかも大きいですね。例えば一発芸で場を盛り上げる社員がいるんですけど、そういう面白い人がいることでみんなのテンションが上がってチームが盛り上がるなら、それはそれで重要な能力だと思う。そこはちゃんと見ていかないと。

チームでものを作るときって、機械的に出来高制で評価するとつまらなくなっちゃう。本当にやりたいことから遠ざかってしまうと思います。

WEB限定コンテンツ
(2013.12.17 渋谷区のオフィスにて取材)

**マクドナルド理論
提唱者はJon Bell氏。

***360度評価
上司や部下、同僚など複数の関係者による多面的な人事評価の手法。

片桐孝憲(かたぎり・たかのり)

ピクシブ株式会社代表取締役社長。1982年静岡県生まれ。2005年Webシステム開発会社を創業。2007年イラスト・コミュニケーションサービス「pixiv」をリリース。2013年からコスプレコミュニティサイト「cure(キュア)」の開発・運営も手掛ける。http://www.pixiv.co.jp/‎

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