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ツールだけで情報は流通しないそれを促すトリガーを探し当てる

オープン化のデザインが社内外の交流を左右する

[諏訪光洋]株式会社ロフトワーク 代表取締役社長

チームを1つにまとめ上げ、質の高い成果物を生み出すためには、組織の中に隠れてしまいがちな「非効率」を徹底的に「見える化」できる体制が必要です。

これはバーチャルなクリエイティブチームに限らず、社内体制についても同じことがいえます。ロフトワークには現在プロジェクトスタッフを含め59人の従業員がいます。社員同士のコミュニケーションをデザインすることは、僕の大切な仕事の1つだと考えています。

2009年には社内SNSの「yammer」を導入しました。最初はメモやメーリングリストの代替としてテスト運用していましたが、今は勤怠連絡、クライアント対応指示、別フロアとの連絡手段、作業完了連絡から雑談まで、あらゆる連絡に用いられています。「遅刻しそうです」とか「お土産に饅頭買って来たから食べてね」とか、さまざまなつぶやきが飛び交っています。

「ありがとう」「おつかれさま」を積極的に返す

社内SNSを導入してもなかなか活性化しない、情報が流通しないという会社もあるようですが、どんなツールを導入しても、ただ放って置いただけでは機能しません。

社内SNSであれば、どんなときに書き込めばいいかがわかりやすく伝わるような「トリガー」を作る必要があります。「遅刻しそうなときはyammerで伝えてよ」というトリガーだったり、「お土産の饅頭が棚にあるけど、誰にお礼を言えばいいのかわからないまま食べるのは変だから、書き込んで!」とか。

納品が近づくと「納品したらつぶやいてね」と念押しすることもあります。制作セクションから納品の報告があると営業から「おつかれさま」の言葉が自然と出る。制作と営業って社内でもすこし距離があるんですが、一言つぶやくことで両者の間で情報が流通しはじめるんです。

情報の流通を促すトリガーは何か? 僕は、そういうことを考えるのがすごく好きなんです。情報共有をどうデザインするかは、僕の大切な仕事の1つですね。

あるトリガーで情報が活性化しなかったらまた別のトリガーを作ればいい。トリガーを作っても定着は簡単ではありません。習慣を変えることですから。でもあきらめずに根気よく働きかける。大切なのは「ありがとう」が生まれる瞬間をイメージすること。感謝の言葉はコミュニケーションの上で非常に重要だし、本当は皆がもっと言いたい言葉でもあります。社内の「ありがとう」をいかにデザインするのかが重要なポイントです。

相手の顔が見えると仕事への集中力が増す

スタッフには全員「iPod touch」を配布して内線電話として活用しています。「FaceTime(Mac OSX内蔵のビデオ通話ソフト)」で「顔を見て話す内線」を標準にしました。

「社員全員に携帯を渡せばそれでいいんじゃない?」、という人もいるでしょうが、顔が見えるのと見えないのとでは大きな違いがある。言葉ではなく表情で伝わることは沢山あります。顔が見えることを最初は恥ずかしがる人もいました。でも「恥ずかしい」っていうことはつまりそれだけ距離が近い、ということなんですよね。

例えば電話の取次ぎを考えてみてください。誰かに取り次ぎをしてもらったのに、それが誰だったか把握していないことってありませんか? でも顔が見えていれば誰だかはもちろん、マスクをしていれば「風邪?大丈夫?」の一声が自然と出る。「オフィスの当たり前」を疑ってコミュニケーションをデザインする。そうすると自分と距離のある仕事をしているスタッフとも会話が生まれます。(コンフリクトが生まれがちな)部署間にリスペクトの気持ちを芽生えさせること、そしてイノベーティブなサービスの誕生を望まない経営者やマネージャーはいないと思います。毎日同じ部署の数人とだけ話をしていたらイノベーションどころか問題解決すらままなりません。

去年の7月に京都の烏丸にオフィスをつくりました。東京・渋谷のオフィスと烏丸オフィスとはカメラで繋がっていて、24時間むこうの様子が見られるようになっています。

「うちだってテレビ会議システムがあるよ」、という会社もあるかもしれませんが、会議のときだけオンするのと常時接続とは違います。例えば画面の向こうに松葉杖をついた人が歩いてたら「どうしたの!?」と声がかけられます。あるいは「今日雪がふってるんだね」と何気なくいえるか。

常時接続であれば情報だけでなく感情まで共有できる。生産性に直接寄与しないように見えるかもしれません。でも縦割り組織や硬直化した組織を超えてもっとその先、クリエイティブな発想や前向きなモチベーションを生むにはそのためのプラットフォームを整えるべきでしょう。

世界中のクリエイターを組織し、「クリエティブのインフラ」として“あらゆる”制作を請け負う総合制作代理店。それがロフトワークが目指す企業像だ。
http://www.loftwork.jp/

京都・烏丸オフィスとは「FaceTime」で常時接続している。お互いにオフィスの様子を共有することで、渋谷と京都間で自然にコミュニケーションが産まれる。

床はフローリング、天井を取り払うことで室内に開放感をもたせた。オフィスには観葉植物などの緑を多く配置。コミュニケーションをとりやすくするため、間仕切りなども最低限に抑えている。

カメラを携帯している社員が多いのも同社の特徴。社内のちょっとした出来事をブログやFacebook、twitterに載せるためには、気軽に撮影できる環境が大切だという。

組織がオープンであれば
情報は自然にシェアされていく

社員のブログなどオフィスの写真を共有することが増えている今は、オフィスもメディアの1つと言えます。

まだまだ昔ながらの「ザ・事務所」も多いと思います。10年20年、手をいれていないオフィスとなるとどうしても雑然とし古びている。そういうオフィスだと、どう撮っても楽しそうに仕事をしているようには写らないんですね。

社員の人にも「写さないで」と拒否される。たぶんプライバシーが侵害されるのが嫌なのではなく、こんなオフィスで写真を撮られるのはごめんだと思ってるのかもしれない。素敵なオフィスで楽しそうに働いていれば「別に撮られてもいいか」と思うものです。プライバシー侵害というよりも、自分の「見られ方」の問題なのでは…というのが僕の考え方。

当社のオフィスもちょっと前まではカーペットがグレーで天井も抜けていなかった。今のオフィスになってから、社員がオフィスでの出来事をブログやフェイスブックに自主的にアップすることが増えましたね。

ツイッターでも社員同士がつながっていたりします。そういう情報発信が活発なのも組織がオープンだからこそだと思います。やっかいなことを抱えている人、後ろめたいことのある人、仕事ができない人ほどクローズドになりやすい。誰が何をやっているのか隠さない環境をつくる。仕事ができる人はオープンに「開いている」人が多い。自然と「報告・連絡・相談」が出来る、そういう環境をつくってあげる。

情報が行き来をすることやツイッターやフェイスブックを通じて社員が情報発信をすることに抵抗を感じリスクを考える企業も少なく無いと思います。しかし逆に禁止をすることのほうがリスクが高くなってきている時代です。企業は透明性の確保とリスクをコントロールするためにも「匿名」で「隠れた」コミュニケーションへ導くのではなく、ルールの元、オープンで率直な個人の情報発信を認めいかざるをえなくなってきています。

情報発信についてガイドラインは整えるべきです。しかし大切なのは発言に危ないことやネガティブなことがあったときに、「あんまりそういうことは書かないほうがいいよ」と自然と声がかかるといった対処法のほうが現実的には重要です。

新オープンのカフェは経営戦略の1つ

2012年の3月にはオフィスの1階に「FabCafe(ファブカフェ)」というカフェをオープンしました。レーザーカッターが店の真ん中に置いてあって、ほかにもいろんなデジタル工作機器がある。それらの機器を使ってものづくりが楽しめるカフェです。

今まではオンライン上のバーチャルなプロジェクト中心に走ってきましたが、このカフェがリアルなサービスの発信基地になれば、と思っています。いろんな分野で仕事をするクリエイターが集まって、一緒に仕事をするコ・ワーキングスペースとしても活用してもらえればうれしい。

数々のネット企業を設立してきた、MITメディアラボ所長でベンチャーキャピタリストの伊藤譲一さんは当社の株主の一人です。彼は最近、「ロフトワークのクリエイティブに関するノウハウって海外に持っていけるんじゃない?」、なんて言うようになりました。僕たちも烏丸オフィスがうまくいったら次は海外へ、と考えています。

でも、地盤のまったくないところで、僕らが今やっていることをやるのは時間がかりすぎる。その点、カフェは地盤をつくりやすいですね。実は「FabCafe」は当社の戦略兵器なんですよ。まずはアジアとヨーロッパにカフェをもっていって、地盤を作ってから、ロフトワークを本体もっていこうと。それは必ずやるつもりです。

WEB限定コンテンツ
(2012.3.13 渋谷区道玄坂の同社オフィスにて取材)

上の写真は2012年3月、渋谷オフィスの1FにオープンしたFabCafe。カフェ、コ・ワーキングスペース、ワークショップの会場など様々な役割を担う。店内にはレーザーカッターを常備、データを持ち込んでアイテムを作ることも可能だ。

デザインデータを持ち込み、Phoneカバー、グリーティングカード、アクセサリーなどを制作できるレーザーカッターと作品例。FabCafeのFabには、「FABrication(ものづくり)」と「FABulous(愉快な、素晴らしい)」の2つの意味が込められている。

諏訪光洋(すわ・みつひろ)

1971年米国サンディエゴ生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、JapanTimes社のFMラジオ局「InterFM(FMインターウェーブ株式会社)の立ち上げに参画。クリエイティブディレクターを経て97年に渡米。School of Visual ArtsでDigital Arts専攻、ニューヨークでデザイナーとして活動。2000年ロフトワークを設立、現職。
http://www.loftwork.jp/

 

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