このエントリーをはてなブックマークに追加

日本が誇るロングライフデザインはいま、どこにあるのか?

日本らしさを再発見するコミュニティ&ミュージアム・スペース

[ナガオカケンメイ]D&DEPARTMENT PROJECT 代表取締役会長 d design travel 編集長

ロングライフデザインをテーマに、東京・奥沢に『D&DEPARTMENT PROJECT』の第一号店を作ったのが2000年。

「デザイナーが発想したコミュニティショップ」として、デザインに優れた生活用品を紹介したり、リサイクル品を再評価したり、その土地の旬の素材を使った料理を出したり、企業の「らしさ」の原点ともいえる商品を復刻したり(=60VISION)、新しい観光をイメージしたガイドブックを作ったり(=d design travel)—-どれも単に「売る」だけでなく、「対話しながら売る」という姿勢にこだわって展開してきました。

原点にある問題意識は、「デザイナーという職業のあやしさを払拭したい」という思い。ちゃんとやっている人もいるけれど、デザイナーのなかには「コンセプトだけきれいに立てて、そのとおりにいかない」という仕事のやり方をする人がいるじゃないですか。「そういうのはよくないな」という気持ちが強かったから、少なくとも自分というデザイナーは、いつでもお客さんが訪ねて来られて、質問される環境に身を置くことを第一に考えてきました。

47都道府県のものづくりを俯瞰できる場所

『D&DEPARTMENT PROJECT』は現在5店舗(東京本店、大阪直営店、札幌店、静岡店、鹿児島店)。どの店もすこしだけ立地の悪いところにあります。

メリットは、家賃が安くて、目的意識を持って来店してくれるから、冷やかしのお客さんが少ないこと。でも、デメリットもあって、雨が降ったから行くのやめようとか、お店でパーティーを開いても遠いからキャンセルしたいという人が出てくる。どんなに面白いことを企画しても、「遠い」という理由で来てもらえないという、立地のジレンマがあります。

今回、渋谷ヒカリエ8階のお話をもらったとき、「来て欲しくない人がお店に来ちゃうかもしれない。けれど、立地の良さから可能になることをやってみたい」と思いました。

僕のなかでだんだんと「47都道府県」というテーマが鮮明になり、地方に行くたびに「その土地を心配している、絵心のある人たち」とつながることに注力してきました。そのなかで、彼らが東京に集まれる場所、東京を利用して何かを発表できるような「好立地でニュートラルな場所」がほしい、そんな思いが強くなっていたんです。

各県のものを並べるだけで「らしさ」が出る

もう15年以上も前から、「東京にいるデザイナーが地方にいって非常に迷惑をかけている。やらかしちゃっている」と感じていました。デザインプロデュースといいながら、東京の理論でその土地のものを活性化しようとする。地方の人は「東京の先生」の言うがままに我慢して大金をはたく。でも、効果は一時的で継続しない。デザインの使い方をちゃんと伝えずに東京に戻ってしまうから、コンセプトは理想のままに終わる。そんな一方通行の関わりをたくさん見て、「それはよくないな」と。

東京にいるデザイナーの一人として、「地方にいる感覚のいい人たちが、そこに大切に根付いているものを継続させるときの力になりたい」。そのために東京を利用してもらえる拠点を持ちたいと考えました。渋谷のど真ん中、人が集まる商業施設のテナントスペースに「ミュージアム」という名前をつけて、「僕らが事務局として店番をやるから、あなたたちは自分の県の一つ90センチ角のテーブルを陣地にして、そこで企画を投げ合ってやりましょう」と。それが260平米の広さを持つ『d47 MUSEUM』として実現しました。

第一回目の展示テーマは『NIPPON DESIGN TRAVEL -47都道府県のデザイン旅行-』(4/26~5/28)。各都道府県で息の長い活動をしているショップやカフェ、旅館などをとりあげて、「こういう展覧会なので、あなたたちのかけらを送ってくれませんか」と声をかけました。僕らが選んだ「その県らしいお店」の人たちが、「自分らしさって何だろう」と考えて送ってきたものが、かぶったり、共鳴し合って、その地域の何かを偶然でなく「必然」で表現しあう。

90センチ角のテーブルの上に並べたら、その県らしさが出ちゃう。北海道と沖縄を見ただけで明らかに違う。この展示で意図したのは「似ているけれど、すこしずつ違う」何かです。

D&DEPARTMENT PROJECTは2000年に、「ロングライフデザイン」をテーマにナガオカ氏の手で創設されたストアスタイルの活動体。日本のものづくりの原点を象徴する商品をリデザイン・再販売する「60VISION(ロクマルビジョン)」など、様々な活動を展開している。
http://www.d-department.com/

東京世田谷区奥沢にあるD&DEPARTMENT PROJECTの1号店の様子。家具から生活雑貨、ファッション、キッチンコーナー、ユーズド商品など、商品ラインナップが最も多い。

東京のデザインだけが正解ではない
地方には地方のデザインがある

『d47 MUSEUM』は、企画から展示まで1カ月ちょっとしかかかっていません。僕のフェイスブック・アカウントに友達申請してくれた人を47のグループに分けて、グループごとに一人一人、協力を呼びかけました。フェイスブックのつながりを使うことで時間と手間を短縮できます。

じつは、この展示に限らず、たとえば僕が「東京でこういう展覧会をやるから、デザイン的に創意工夫のある旅館を紹介してください」と協力を求めると、たいていの場合、僕が正しいと思うデザイン、「いいデザイン」の感覚を共有できないんです。リストを作ってもらってその人に案内されると全部「外している」。もちろん、僕が正しいと仮定しての感覚ですよ。自信満々に「あそこは絶対いい。外さないから」と言われたものが、ことごとく外れている。

デザインは東京と地方ではまったく違うんです。すこし前までは、東京の「いいデザイン」に対して、地方が15~20年くらい時間をかけて「こっちに向かって来ている」と思っていました。

日本には最低でも47種類のデザインがある

でも、最近思うのは「東京のデザインは東京のデザイン」でしかない。「愛媛のデザインは愛媛のデザイン」というのが正解だなと。47種類のデザインがあるということです。

東京的なデザインからみたら、「はずれ」だと思っていたのが「正解」に変わった。この発想が『d47 MUSEUM』を企画するきっかけになっています。愛媛のデザインが東京のデザインになる必要はないことを、すごくわかりやすく感じられる状況を作りたかった。

今回の展示でいえば、地方から「かけら」が箱に入れて送られてきて、それを展示台の下に置いて、スタッフが箱から開ける。プチプチを敷いて、きれいにならべて、さて台の上に何をあげるか。ここに編集が入るんです。

なかには台に上がらないものがある。「気持ちはわかるけれど、格好悪すぎじゃん」と。僕がここに上げたら、この県をよく知らない人に、「ダサいな」という印象が強く焼き付いてしまう。そんな気遣いが起こるんです。

なぜ今、地方のデザインなのか?

けれど、そうやって僕らが取捨選択した展示は、実は地方の人にとっては「いやいや、それはおして欲しいわけじゃないよ、こっちが正解なのに」というものなのかもしれない。そんな葛藤を抱える場所です。今は迷いながらやっているけれど、いつか、僕らがすごく「ダサい」と感じたものばかりを集める展示をやってみたいと考えています。

「かっこいい」が一種類じゃなくなる。そういう時代の兆しを感じています。金沢の21世紀美術館の地下で、ガラス作家の辻和美さんが企画した『生活工藝展』という展覧会のオープニングに参加したとき、ものすごいおしゃれで「なんだろうこれ」と驚きました。「この人たちはどこから来たんだろう」と。

彼らは日本中の田舎からきている。そのほとんどが、かつて東京で「コムデギャルソンのパタンナーを15年していた」とか、「イッセイミヤケにいた」とか、そうしたキャリアを持つ人が田舎に帰って、昔は観光のおみやげでしか売れなかった伝統工芸を、その磨き上げた感覚で新しくしているんです。

地方の人が「東京を利用する」ための拠点を作る

あれを見て、「クリエイティブの中心は東京でなくなりつつあるな」と。その実態を知りたくなりました。まだわからないことがいっぱいありますが、今、地方で活躍している感覚のいい人は、たいがい東京で働いた経験がある。ある共通の感覚だけ、東京で学んで田舎に帰って、それを通用させる土壌を作りながら、自分たちの土地を盛り上げようとしている。

でも、そういう人が住む場所は人口が少ないから、かっこいい小冊子をつくってもあっという間に廃刊になる。そういう厳しい現状はあります。

彼らにとって「つかえる場所」にしたいというのが、僕の挑戦。ヒカリエ8階に出店するとき、D&DEPARTMENT PROJECTの屋号を名乗るかどうか迷ったけれど、公共性を持たせて、より多くの人たちが使える場所にするために、あまり目立たないかたちで「d47」という記号を使うことにしました。

47都道府県それぞれの地方のデザイン、という意味を込めた記号。地方にいる感覚のいい人が、「この皿、試しに売ってもらえませんか」というのを受け入れる、彼らが東京で実験できる場所を目指しています。

WEB限定コンテンツ
(2012.5.8 渋谷ヒカリエ8階にて取材/取材協力: Creative Lounge MOV)

渋谷ヒカリエの8階にあるd47 MUSEUM。四角いテーブルの上に、47都道府県に住む人たちが選んだ「自分たちの県らしいもの」が置かれている。写真は島根県のテーブル。特産のワインなどが飾られている。

同じフロアにあるd47食堂では、全国から集めた素材を使った「○○県定食」を食べることができる。食事のほか、日本酒や焼酎、地ビールなどのドリンクも充実している。

ナガオカ・ケンメイ

1965年北海道生まれ。日本デザインセンター原デザイン研究所を経て、drawing and manualを設立。2000年、東京・世田谷にデザインとリサイクルを融合させた「D&DEPARTMENT PROJECT」を設立。2002年には、大阪の南堀江に2号店を開設。また、同年に60年代の商品をリブランディングした「60VISION」にも着手。現在は47都道府県の伝統工芸や地場産業を見直す「NIPPON PROJECT」を展開している。
http://www.facebook.com/kenmei.nagaoka

 

RECOMMENDEDおすすめの記事

「超短時間雇用」の成功のカギは、厳密な職務定義と障害者との協働

[近藤武夫]東京大学 先端科学技術研究センター 人間支援工学分野 准教授

作り手・語り手の体温が伝わる職場の条件とは?

[ナガオカケンメイ]D&DEPARTMENT PROJECT 代表取締役会長 d design travel 編集長

TOPPAGE
2022年7月、「WORKSIGHT[ワークサイト]」は
「自律協働社会のゆくえ」を考えるメディアへと生まれ変わりました。
ニュースレターを中心に、書籍、SNS、イベント、ポッドキャストなど、
さまざまなチャンネルを通じてコンテンツを配信します。

ニュースレターに登録する