Workplace
Oct. 27, 2014
アジアに進出した北欧発デジタル・クリエイティブ・スクール
デジタル・クリエイティブ人材を輩出する社会人向け教育研修機関
[Hyper Island]Singapore, Singapore
- クライアントのグローバル化が進み、アジアに拠点を設けるニーズが高まる
- 手篤いサポートもあるシンガポールにキャンパスを設ける
- 拠点としてはもちろん、新たな気づきも得ることができた
スウェーデンで設立されたハイパーアイランドは、デジタル分野の社会人向けの教育研修機関である。1995年の開校以来、多くの卒業生をグローバルカンパニーに送り込んでおり、そのユニークな研修内容、取り組みは以前にも当サイトで紹介している通りだ。
さまざまな国籍の学生を集めるハイパーアイランドが、満を持して開校したアジアキャンパス。場所は、ここシンガポールだ。ハイパーアイランドのキャンパスは、スウェーデンのストックホルムとカールスクルーナに2校、イギリスのマンチェスターに1校、そしてアメリカのニューヨークに1校。アジアの拠点として選ばれたのは、なぜシンガポールだったのだろう。
ハイパーアイランドの共同創立者の一人であるジョナサン・ブリッグス氏は、このように語る。「私たちは5年ほど前からアディダスやネスレ、グーグル、イケアなど、多くのグローバルカンパニーとのパートナープログラムを進めています。彼らは世界中、もちろんアジアでもさまざまなプロジェクトを展開させているのですが、ハイパーアイランドにもそのプロジェクトに関わってほしいというニーズがあることを知ったのです」
シンガポール政府からの招待を受ける
ハイパーアイランド自身、日本や中国、韓国において多くのプロジェクトに関わっていることもあり、その拠点としてアジアにキャンパスを置くことの必要性を感じるようになったのだと言う。「アジアキャンパスの開校に向けて場所を探していたところ、シンガポール政府の経済開発庁(Economic Development Board:EDB)から直接、シンガポールでの事業展開の打診を受けました」(ジョナサン氏)
アジアに拠点を置くことを考えた時、金融や貿易、交通のハブを目指すシンガポールという選択が実に理に適っていることは、ご承知の通りだろう。政府からの招待ということもあり、EDPからさまざまなサポートを受けられるという点も、シンガポールを選んだきっかけの一つになった。
「私たちがシンガポールで連携を取る必要のある機関との橋渡しをしてくれたことも大きかったです。EDPは私たちが新しい環境で事業を運営することの下準備をしてくれました。開発補助金もいただけましたが、決して大きな額ではありません。それ以外の、こうしたファシリテーションに関わるサポートが新規事業を始める上で非常に重要だったと考えています」(ジョナサン氏)
アジアで初めての拠点シンガポール。2014年夏に南米発の拠点をブラジル・サンパウロに設立。
開校:1995年
授業時間:40〜90週
キャンパス:スウェーデン1校、UK1校、アメリカ1校、シンガポール1校
https://www.hyperisland.com
ハイパーアイランド共同創立者の一人ジョナサン・ブリッグス氏。現在はシンガポール校の校長を務めている。
スウェーデンで培った教育方法は
シンガポールでも受け入れられた
こうして2012年に誕生したシンガポールキャンパス。デザインや設計は基本的にスウェーデンなどその他のキャンパスと同じく、オープンスペースの多い設計になっている。ジョナサン氏曰く「シンガポールにはいくつか建物を新築する上での独特な法規制があり……。例えば『ガラスがないと教室とは認められない』という法があれば、ガラスを使って教室をデザインする必要があります。こうした法規制による調整はいくつか行いました。ただ、ほぼ私たちが作りたい通りに作れたとは言えます」
清潔感のある広々としたスペースに学生が集まり、おのおのが課題に取り組む様子は、その他のキャンパスと比べてもまったく同じようにしか見えない。学生に提供されているメニューも、他のキャンパスと基本的には変わらないようだ。
「ここでは、大きく分けると『長期コース』、『短期コース』、『企業別の特別コース』の3タイプのプログラムを提供しています。長期コースは修了すると修士が与えられるもので、全日制の『フルタイム』、仕事を持つ学生が受講できる『パートタイム』の2種類があります。前者のプログラムはスウェーデンで提供しているものよりもややレベルを高めに設定しています。短期コースは、特定のテーマに関して1週間集中的に学ぶコースです。三つ目、企業別の特別コースは、その企業に合わせて研修内容をデザインし、提供しているコースです」(ジョナサン氏)
「Learning from doing(やりながら学ぶ)」というコンセプト
三つのタイプのコースすべてに共通したコンセプトがある。それが、「Learning from doing(やりながら学ぶ)」という考え方である。「何かを作り、自分が何を作ったのかを見て、そして作ったものから学ぶ。これはさまざまな論文でも実証されているアプローチです。単に講義を聴講して学ぶのとは異なり、実践を重視しているのです」とジョナサン氏は言う。
そして、この明確なコンセプトがあるからこそ、三つのタイプのコースはプログラム同士が重なり合って横展開が可能になる。短期コースの内容は長期コースの準備段階になる内容であり、短期コースの受講者が自分の勤める会社に戻って企業別の特別コースを受けることも推奨している。
加えて、ハイパーアイランドでは、学生がより効果的に学習を進めるため、各学生に「メンター」がつく。「メンターは学生一人ひとりの学び方をデザインします。具体的には、学習過程の途中で一旦学習を中段させ、学生が何をこれまでに行い、何をそこから学び、感じたのかを学生本人に考えさせます。これは『Reflection』という教育手法です」(ジョナサン氏)
学生たちには、自分のしていることを徹底的に考えさせる
一見複雑に見える考え方だが、つまりは「これから学ぶために、自分がこれまで何を学んだのかを考えるための時間を確保する」ということ。ハイパーアイランドの学生は今日この1日、この1週間、この1カ月間、そしてこの1年間、自分が何をどうやってきたのか、徹底的に考えさせるのだ。非常にユニークなアプローチだが、スウェーデンやイギリス、アメリカと異なり、ここシンガポールはアジアの国である。シンガポールでもこうした手法は受け入れられるのだろうか。
「当初は私たちも心配していました。しかし、少し時間が経つと、その心配は必要なかったと感じました。教育に関しては特にトラディショナルな考え方を持つシンガポールにおいて、ただ受け入れていただくだけでなく、むしろ好んでいただいています。私たちの手法がクリエイティブなものとしてアジアでも通用するんだとわかり、非常にうれしく思っています」(ジョナサン氏)。
さらに、シンガポールにキャンパスを設けたことで、思いも寄らなかった効果もあったそうだ。ジョナサン氏は続ける。「ヨーロッパに暮らす人々の中で、アジアの国々それぞれがどのくらい違っているのかをきちんと認識している人はあまりいません。私たちも、こちらに来てからフィリピンと韓国の違いに気がつきましたし、中国と日本がいかに違う国なのかも知りました。私たちはグローバルカンパニーとのプロジェクトにも関わっているため、世界をもっと知る必要がある。シンガポールは小さな国ですが、多様な文化に溢れた場所です。アジア各国の文化の違いを認識させてくれたという点で、非常にいい場所だと思っています」
コンサルティング(ワークスタイル):自社
WEB限定コンテンツ
(2014.4.15 シンガポール校を取材)
レクチャーは講師が2人一組で実施。掛け合いをしながら進めるスタイルは、さながら漫才のよう。
随所に植物や花で空間が彩られている。北欧的な文化はこうしたところからも感じとられる。
ポストイットに書かれたアイデアにコメントする講師。フィードバックには丁寧に時間を使う。