Management
Nov. 4, 2014
自由でスピーディ、だから他を凌駕できる
大企業の中と外に生まれる有志の集まり
[濱松誠×田中章愛]One Panasonic代表(パナソニック株式会社 所属)/品モノラボ代表(大手電機メーカー 所属)
新規事業創出や組織改革など、日本の大企業を変革する若手が台頭してきている。企業の活性化、ひいては日本経済の再生につながるか。それぞれの企業の現場で躍動する若手の対談をシリーズで紹介する。
田中
本業は電機メーカーのエンジニアで、ロボットなどの設計をしています。そのかたわら、2011年から友だちのデザイナーと一緒にデザインプロジェクトを立ち上げました。業務後を「放課後」と位置付けて、そこで独自に製品開発をするというものです。
濱松
面白そうですね。
田中
社内でいろいろ企画を提案するんですが、なかなか採算性や実現性の面で説得力のある提案に至らず、これまで事業化にたどりつけませんでした。当然ながら事業化のためにはお客さんのニーズや商品化のプロセスを知る必要があります。自分自身の手で事業を生み出して製品化を行いたかったのですが、力不足で研究段階を抜けられず限界を感じていました。
会社の中で事業化の経験をしようとすると、部署をいくつか回るという手もありますが、時間がかかります。そこで、手の届く範囲でいいから企画から設計、製造、販売まで、全体を経験して勉強したいと思ったのが、放課後にもの作りをしようと思ったそもそもの動機です。
世間的にもメイカームーブメント* の影響で、会社の方針や戦略から離れて自分が作りたいものを作ろうという人が増えています。展示会や知人の紹介を通じて、そういう人たちとのつながりが広がっていきました。みんなで盛り上がるうちに展示会をやろうという話になって、2012年に勤務先のショールームで「放課後イノベーション展」を開いたんです。
みんなの熱意がとにかくすごくて、開発は低予算で短期間なのに作品のクオリティが高い。しかも展示会のお客さんの反応もいい。これは本業の製品開発にも生かせると思って、情報交換の場として2013年に「品川ものづくりラボ」、通称「品モノラボ」を立ち上げました。品川に関係する人、縁のある人が放課後に集まってもの作り談義をしたり、一緒にプロジェクトを立ち上げたりする、サークル感覚のもの作りコミュニティです。
濱松
僕も参加したいです。あ、でも、品川と関係がないな……。
田中
大丈夫ですよ、今日この場で関係ができたから(笑)、ぜひ。集まる人も、フリーランスの人から会社員の人まで幅広いです。20~30代を中心に、中には50代の方もいます。
本業と関係ないものを作っている人も多いですね。僕の本業はロボットですけど友だちとの共同作品には照明もありますし、本業でイヤフォンを作っている方は放課後に椅子や時計を作っています。
大企業で規模の大きいプロジェクトに携わっていると、製品の一部の専門領域を担当することになります。その経験はとても重要ですが、プロジェクトの全体像を把握し、価値を自分で生み出して自分で届ける機会はなかなかありません。品モノラボのような放課後活動で製品を丸ごと作って、しかもそれをお客さんが喜んでくれると、もの作りの意欲をいっそうかきたてられます。
会社の名前じゃなくて自分たちの名前でやっているので思いが強いし、特に今はFacebookやSNSの力も借りて、つながりが太くなりやすい状況です。加えて、自分の思いを込めた製品で独立した人たちは小さなチームなので、他の人とのつながりが重要になる。共有しようという意識はより高まっています。
そういうメンバー同士でものを作ると、早く安く、ちゃんとお客さんに届けられる質の高いものができます。ここで学んだことを会社の活動にも取り込もうと、2014年4月から本業で新規事業創出プログラムも始めました。
関係の質が向上しなければ、思考・行動の質が上がらない
田中
濱松さんはどんな活動をされているんですか?
濱松
パナソニック社内で「One Panasonic」という有志団体を創設し、運営しています。目的はパナソニックのグループ社員のモチベーションの向上、知識拡大、人脈形成です。
創設のきっかけの1つは、就職活動でリクルーターとしか話せなかったことにあります。それも貴重な機会ではあったんですけど、入社してみたら職場には面白い人間がたくさんいまして。内定時からそういう幅広い出会いがあった方がいいスタートが切れるだろうと、入社1年目から内定者20名、社員20名の交流会を始めたんです。
これを毎年続けて6年経った2012年1月、パナソニックとパナソニック電工と三洋電機が合併しました。経営層は「One Panasonic」というフレーズを掲げて、社員の心を1つにしようと言っていたけれども、大企業で縦割り組織ということもあって、なかなか現場に浸透しませんでした。何か自分に役立てることはないかと考えたとき、思いついたのがこの交流会です。それまでの参加者が400~500人になっていたので、これを母体に社内のつながりを強められるんじゃないかと思ったんです。
田中
400~500人となると、結構なボリュームですね。
濱松
グループ全体の社員数が国内で11万5000人、世界で27万人であることを考えると、微々たるものなんですけどね。ともあれ、カンパニーや事業部を横断する横のつながり、世代や立場を超えた縦のつながり、それから部門も年齢もクロスした斜めのつながり、そういう多様なつながりを作れたらと考えました。
せっかくなので当時の大坪(文雄)社長(現特別顧問) にもゲストスピーカーとして参加を打診すると快諾してくださり、200名の社員が集まりました。これを契機として、One Panasonicの名前で交流会がスタートしたわけです。2012年3月のことです。
One Panasonicの活動のメインは2〜3か月ごとに開催する全体交流会です。これは、数百名が参加する大規模なもので、縦・横・斜めのつながりを作ることを主な目的としています。役員とのダイレクトコミュニケーションによる縦のつながりが一つ。2つ目が、カンパニー単位や関係会社を超えた横のつながり。3つ目が、「ようこそ先輩」というミドルを招くプログラムを通じた斜めのつながり。対話セッションを通じてロールモデルと出会おうというものです。交流会は本社のある大阪で始まって東京、福岡にも広がっています。
田中
ずいぶん注力されてるんですね。もうずっと濱松さんは人事畑で?
濱松
いえ、もともとは海外営業で、北米のプラズマテレビ事業やインドのデジカメ事業推進などを6年半担当しました。2012年に組織改革の一環として人事の社内公募があって、それに応募して2012年秋から人事に移ってきたんです。
学生時代から海外営業志望でしたし、そろそろ海外赴任もできそうな雰囲気だったので迷いましたけど、自分の付加価値は人と人のつながりを作りだすことにあるのかなと思いまして。人は他の人からの刺激を受けて、頑張ろうってなると思うんですよね。切磋琢磨して、もっと成長できる。だから、つながりって大事。でも、今のパナソニックでは、規模の大きさもあって、それが希薄になっている気がするんですね。 つながりがないために関係の質が向上せず、したがって思考の質、行動の質が上がらないんじゃないかと、おぼろげながら仮説を立てていました。
自分が運営していた交流会は、こういう状況を打破する1つの足掛かりになれるかもしれないと感じました。思い切ったチャレンジでしたけど、自分のオリジナリティを見つけたかったというのと、会社の思いがマッチングしてのキャリアチェンジだったんです。
One Panasonicはパナソニックグループの若手を中心とした有志団体。グループ社員の「志・モチベーションの向上」「知識・見識の拡大」「組織・年代・国籍を超えた人的ネットワークの構築」を目的としている。
https://ja-jp.facebook.com/OnePanasonic/
品川ものづくりラボ、通称「品モノラボ」は「品川に縁のあるメイカーとメーカーで、作る文化を作ろう!」をキャッチフレーズに、もの作りについて語り合ったり、学んだり、実際に作ったりするコミュニティ。
http://shinamonolab.strikingly.com/
*メイカームーブメント
デジタル機器を活用してもの作りに励む人々(メイカー)が増え、製造業(メーカー)の復活を後押しするという世界規模の動き。クリス・アンダーソンの著書『MAKERS――21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版)に詳しい。
会社の業務で1カ月かかるものが
放課後の活動なら1週間でできる
濱松
企業内の活動の方が設備や資金、人材などを活用できそうですけど、田中さんはなぜあえて外で活動するんでしょうか。
田中
大企業だとどうやったら世の中にまだないものを本当に製品化できるのか、十分に理解できていなかったことが1つ。ただ、この点は最近は非常に整理されてきたと思います。
もう1つは、個人でできることの幅が広がったから、ということもあります。手ごろな価格の3Dプリンタなどの道具が出てきたし、海外への製品の量産発注も個人でできます。お金もクラウンドファンディングで集められるようになりました。起業・独立しなくてもやりたいことがやれるケースは増えたという印象です。
とはいえ、世界に向けた製品化やサポートとなると企業が構築してきたシステムやプラットフォームには本当に大きな価値があります。昼間は会社で働いてプラットフォームを支え、週末に商品化までのプロセスを実践的に勉強するというのは効率よく新しい事業を生み出すことにつながるプロセスなのではと感じています。
濱松
One Panasonicでも業務外活動で独自にもの作りをする社員を応援する「共創ベース」を設けています。スタートアップのコンサルタントを講師に招いてセミナーを開催したり、仲間から刺激を得ながらマインドセットしたりといった場ですね。社内で新規事業が興せるかもしれないし、あるいはアントレプレナーが生まれるかもしれません。いずれにしろ、会社に入ったときのわくわくする気持ち、やりたいことをやろうと思って入ってきた気持ちを思い出して、もの作りの原点に返ろうよという試みです。田中さんの話を聞いて、同じような取り組みをしている人がいるんだなと心強く感じます。
会社がらみだと、確かに手続きが複雑ですよね。他社との接点を作るにしても競合だと牽制したり、依頼状を正式に送らなきゃとか、いろいろある。それももちろん重要ですけど、自由な部分が何かを生むのりしろになるし、スピードがあればこそ凌駕できるものもあります。その意味で有志の集まりは強みがあるんじゃないでしょうか。
田中
そう思います。放課後のメンバー同士だと、Facebookでやりとりしながら、夜中にも開発できるんですよ。会社の業務なら1カ月かかりそうなものが1週間でできたりする。しかも安く上がりますしね。
濱松
ビジョンをしっかり共有しているからできることですよね。
根っこが共有できていると強い
田中
「かっこよく」とチャットで1行書いただけで、ちゃんとかっこいいデザインが出てくる。メンバー間で根っこの思いを共有しているから方向がぶれないし、スピードも速い。それは放課後の活動に自発的に集まった、つながりの強い仲間だから可能なんです。
社内で承認を取って、アサインかけて、ワーキンググループを作って、なんてしていると、だんだん脱線して白けてきちゃう。とにかく根っこが共有できていると強いし、効率が断然いい。それを濱松さんは社内でやろうとされているわけですよね。
濱松
そうです。いつもOne Panasonic交流会の初めのあいさつで、志・スキル・社内外の人脈が大事だと話すんですけど、一番大事なのは志、思いの部分だと思います。自分のやりたいこと、好きなことというのは、キャリア形成でも技術開発でも1つの軸になります。その思い、志を共有する人が集まれば関係性は強くなる。One Panasonicもそういう場にしたいです。
田中
シリコンバレーに留学したとき、向こうでも志を同じくする仲間がつながってもの作りをしていることに驚きました。授業で出会った人たちがもの作り談義に花を咲かせるうちに盛り上がって、製品開発をしたりベンチャーを立ち上げたりするんです。
濱松
品モノラボや共創ベースの活動と同じですね。シリコンバレーでもやっぱり根っこの共有が大事なんですね。
One Panasonicは総参加者が1600名** となって、最初は志の強い人が多かったけれども、回を重ねるにつれて、熱い語りはいらないよという人も出てきました。それでも構わないけれども、少し触れてみてよ、この熱湯にと(笑)、そういう思いでいます。
いや、それにしても田中さんの話をOne Panasonicの若手メンバーに聞かせたい。20~30代の連中は、同世代でこんなに頑張っている人がいるのかと知って、やる気を起こすと思いますよ。
田中
そんな大そうなものじゃないです(笑)。僕はただやりたいことをやっているだけで。
濱松
若手社員に火をつけることはテーマの1つなんです。対策としては、同世代の人に刺激をもらうこと、それから年齢や経験を重ねたスケールの大きいロールモデルやメンターを得ることだと思っています。
以前、One Panasonicの全体交流会で、パナソニックOBでもある、日本マイクロソフトの樋口泰行社長にゲストスピーカーとして来ていただきました。樋口社長の話を聞いたOne Panasonicの若手幹事は、海外へ赴任していっそう仕事に打ち込んでいます。樋口社長と自分で年齢やキャリアを重ね合わせて、自分は今何をすべきか、一流のリーダーになるにはどうすればいいのか、ある種の帝王学を学んだわけです。
さまざまな人から刺激を得て、成長の糧にできる。それもコミュニティの利点でしょうね。
WEB限定コンテンツ
(2014.8.8 コクヨ エコライブオフィス品川にて取材)
** 取材時の2014年8月の数字。
濱松誠(はままつ・まこと)
パナソニック株式会社 コーポレート戦略本部 人事戦略グループ 主事。有志の会「One Panasonic」代表。1982年生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒。2006年パナソニック入社。2012年、One Panasonicを設立。
田中章愛(たなか・あきちか)
品モノラボ代表。1981年生まれ。2006年筑波大学大学院修了。同年大手電機メーカーに入社。エンジニアとして経験を積み、現在はビジネスデザインやイノベーションを担当する部署で新規事業開発にも取り組む。2013年、品モノラボを設立。2013年スタンフォード大学客員研究員。