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“放課後”のもの作りコミュニティで
消費者との共創を実現

企業変革でソーシャルインパクトを生む

[濱松誠×田中章愛]One Panasonic代表(パナソニック株式会社 所属)/品モノラボ代表(大手電機メーカー 所属)

新規事業創出や組織改革など、日本の大企業を変革する若手が台頭してきている。企業の活性化、ひいては日本経済の再生につながるか。それぞれの企業の現場で躍動する若手の対談をシリーズで紹介する。

パナソニックグループの有志の会「One Panasonic」代表の濱松氏と、品川に縁のある人々ともの作りをする「品川ものづくりラボ」(以下、品モノラボ)代表の田中氏。前編から話が続く。

田中

2013年に品モノラボを立ち上げて、最初こそメンバーをまとめるようなことをしていましたけど、最近は運営している感覚がなくなってきました。思いを共有しているコミュニティなので、メンバーがやりたいことを見つけたら自律的に運営されていくんです。

濱松

理想的な形じゃないですか。

田中

自分でもいい状態だと思います。もともと仕事っぽい雰囲気にならないように気をつけてきました。仕事の感覚が出てくると言われたことをやる感じでつらくなる。自分で考えたことを自分でやる方がやる気も出るし、楽しいですしね。
運営メンバーのFacebookもありますけど、最近は「いいね!」のクリックで意思疎通が図れてしまう(笑)。時々熱い議論があったりするけど、ほとんどは飲み会の会話みたいだし、やりたくないこともできるだけ回避します。出席名簿を作るのが大変ならオンラインのサービスを使って効率化するとか、苦手なことが出てきたらそれが得意な人を呼んでくるとか。肩の力を抜いた、ゆるい雰囲気を重視しているんです。
品モノラボ内でできたチームは「もの作りバンド」と呼んでいます。私自身ジャズをやっていたんですけど、気の合うメンバーが作ったバンドは長く続くし、いい曲も生まれて、自然とレベルが上がっていきます。同じことをもの作りでやりたいんです。「バンド」なら「プロジェクト」よりゆるさもあるし、やりたいことをやっている実感を得られます。いかに運営せずにいるか、それが自分なりの運営のコツといえるかもしれません。

濱松

ゆるくても、いいものを作るには緊張感も必要ですよね。さじ加減はどうしているんですか。

田中

例えば、国内外の展示会に出展するといった目標設定は有効です。でもそれも絶対厳守の目標ではないんです。今年はサンフランシスコの展示会(Maker Fair Bay Area 2014)に出展しましたけど、その展示会自体ゆるいんですよ(笑)。モノづくりコミュニティとしての場合、出展料なしで出したいものを出せるし、審査もそれほど厳しくなく、いかに展示内容が面白そうか・インパクトがありそうか、程度です。
コミュニティで多くの人の作品をまとめて出展すれば、誰か製作が間に合わなければその人はまあ諦めてもなんとかなるし、やる気のある人は気合を入れます。逆に、個人出展すると展示中は説明員としてトイレや食事に行く暇もないのが普通ですが、コミュニティで出展すれば助け合ってほかの展示をじっくり見られます。それぞれのやる気や都合で進められるのが、コミュニティで出展することの良さですね。
品モノラボのメインの活動となる、隔月の「ミートアップ」と呼ばれる勉強会と飲み会の中間のようなイベント自体、前半が専門家や起業家に話を聞いて「学ぶ時間」、後半が作ったものを見せ合ったり、メンバーを募集したりする「シェアの時間」で半々です。熱い話だけだと暑苦しいし、ゆるいだけだとまとまらない。ある程度の幅を設けて、メンバーそれぞれに居心地のいい位置を探ってもらう感じです。

多彩な選択肢を用意して、自分に合うものを見つけてもらう

濱松

One Panasonicの場合、参加者は今のところ1600名ほどですけど、グループの従業員は世界全体で約27万人に上ります。何を重視するかが運営の難しさになりますが、つながりを作りたいという設立の原点に忠実に、今でもこれを一番大事にしています。
先ほどの田中さんの話と重なりますけど、One Panasonicも大阪の交流会は担当者が仕切るようになってきました。福岡と東京も頑張ってくれています。代表の自分が全部切り盛りするのではなくて、任せられるところはメンバーに任せて、それぞれの知恵を生かしてもらえたらいいですよね。私から伝えているのは、つながりを広げるために人だけは頑張って集めてくれよということくらいです。

田中

コミュニティの目的が違うので当たり前なんですが、品モノラボはそこが少し違っていて、あまり広げようとしていないんです。やりたい人だけ集まればいいと、若干ドライなところがある。でもそうすることで自然と人が集まってきたのも事実です。
最近の悩みは、参加者を100名、200名と増やすと、それぞれの顔が見えなくなってしまうんじゃないかということ。それであえて今は参加者を60~70人に絞っていて、予約サイトでは毎回キャンセル待ちが出てしまうのですが、それでも多いと感じます。断りたくもないけど、多すぎると薄まってしまうような気がするんですよね。One Panasonicではそこはどうしているんですか。

濱松

場の多様性を確保するようにしています。One Panasonicで最も人が集まるのは経営層や各界のリーダーをゲストスピーカーに招く全体交流会で、これは数百名が参加します。これほどの規模になると確かに参加者個人の顔は見えにくくなりますけど、ゲストスピーカーの声、思いはちゃんと届いているのを実感します。
全体交流会は拡大が目的で、これとは別に個別の交流の場として、定員30~40名程度の分科会を設けています。志を共有、強化する共創ベースや女子会、テーマごとの勉強会など、密度の濃いコミュニケーションは分科会で行うわけです。

田中

目的に合わせてそれぞれの場を用意しているわけですね。

濱松

そうです。大企業だからこそのしがらみや調整の複雑さってありますよね。それでモチベーションが低くなっている人がいるけれども、入社時はみんな大企業の一員として仲間と何かを成し遂げたいと思っていたはずなんですよ。そこにもう一度帰っておいでよ、何かあるよここにはと、そういう思いを持って運営を続けています。
最終的な課題は社内の意識改革で、それはOne Panasonicという有志の会だけでは解決できないかもしれませんけど、有志の熱い思いが、会社の制度にうまくつながることが大事だと思うので、少しでも多くの人が、その熱さに触れる機会を作れたらと思うんですね。何がその人の心にもう一度火をつけるか分からない。だからこそ選択肢をいろいろ用意して、自分に合うものを見つけてほしいと思っています。

One Panasonicはパナソニックグループの若手を中心とした有志団体。グループ社員の「志・モチベーションの向上」「知識・見識の拡大」「組織・年代・国籍を超えた人的ネットワークの構築」を目的としている。
https://ja-jp.facebook.com/OnePanasonic/

品川ものづくりラボ、通称「品モノラボ」は「品川に縁のあるメイカーとメーカーで、作る文化を作ろう!」をキャッチフレーズに、もの作りについて語り合ったり、学んだり、実際に作ったりするコミュニティ。
http://shinamonolab.strikingly.com/

エンジニアやデザイナーに必要な
プレゼンでの「ウケた」体験

田中

品モノラボの場合、特にゴールは決めていなくて、良質な体験ができればそれでいいかなと思っています。
もの作りはお客さんが求めているものと自分が作りたいものをすり合わせることが大事だと思うんですけど、そのとき必要なのが芸を磨くこと。技術を追求するだけでなく、アイデアを発表して「ウケた」体験をする人が増えたら、それでいいと思っています。そういう機会がエンジニアもデザイナーも少ないんですよね。

濱松

確かに企業活動では、コンシューマーと接点を持てる人は限られますね。

田中

実際、自分でも品モノラボでの反響から開発に至った製品があります。「8pino」** というもので、これはアイデア段階で品モノラボのFacebookでプレゼンしたらすごくウケたんです。コストゼロでマーケティングリサーチのようなものができたわけですね。じゃあということで実作して、アメリカの展示会で発表したらそこでも好評で、マスコミでも取り上げてもらいました。実はまさに今日が発売日です。お客さんと一緒に作る共創が実現する、その場ができたことが、自分にとって品モノラボの一番の成果かなあと思います。

濱松

すごいなあ。田中さんのような挑戦する個人を増やすと、組織も変わると思うんですよ。それをOne Panasonicでも実現したいんです。アンケートでは参加者の95パーセントがモチベーションが上がったと回答しています。One Panasonicに来たことで、思いを駆り立てられた技術者もいますし、課題を解決するための人脈を得た若手もいます。社員のモチベーションを上げられたことは現時点での成果の1つかなと感じでいます。
また、1600人という集まりが現にできたこと、幹事が増えていることからも、共感の広がりを実感しています。さらに、トップを含めたゲストスピーカーの闘魂注入ですね(笑)。高い視座の視点からダイレクトに語っていただくことで得られる刺激は計り知れません。経営幹部からもこういう交流は非常に大事だと評価されていて、若手だけでなくミドルもトップも含めて、何か変えたいという空気感が醸成されつつあるのを感じます。

企業コミュニティの一員としていいものを作りたい

田中

メンバーの数が多いと運営側は大変ですけど、その分、それぞれが自発的に動き始めたらインパクトは大きいですよね。

濱松

そこは自分でも狙っているところです。パナソニックは人数の規模では日本有数の大きさなので、僕らの挑戦が他の大企業とそこにいる有志の希望になってくれたらと願っています。実際、世間の注目をいただいて、一定のソーシャルインパクトは生まれています***。それも1つの成果かなあと。
日本企業の閉塞感はずっと前からいろんなところで指摘され続けて、変えられるのはベンチャーか外資系企業、NPOという風潮がありますけど、現に大企業に所属している身としてそう言われるのが悔しくて。大企業の意識改革なんて一介の社員には無理かもしれませんけど、自分のいる場所をより良くしなければ自分の存在意義がありません。死ぬときに「俺、何ができたかな」と思ってしまう。だから今できることをしたいと思っていて、それが他の大企業にも広がっていけばうれしいです。

田中

私も会社に何かしら貢献したいですし、品モノラボで得たものを還元していきたいと思っています。
今年4月から始めた社内の新規事業創出プログラムでは、社内起業家候補に対して放課後プロジェクトに予算や時間を裁量してもらえるチャンスを提供します。チーム内に社外の人も参加できる自由度の高いプログラムで、そういう形で還元を始めています。

濱松

田中さんにとって会社の価値はどのあたりにあるんですか?

田中

会社組織はコミュニティとしてとても大きな価値があると思っています。そして会社は人々が生み出したものを世界中に広めるプラットフォームとしての役割もあります。コミュニティの中の人々が作りたくて作ったものを世界中に届ける機能をもったプラットフォームとして、会社組織をどんどん活用させてもらえるようにしていきたい。そこに乗せるコンテンツや製品については、お客さんに対する深い理解と想いを共有する人たちがバンドのような形で生み出した方がウケる製品になると思います。

濱松

会社は自己実現の手段でもあるでしょうし、会社をより良くする活動自体に充実感を覚える私のような人間もいます。そこはエンジニアである田中さんと、事務方である私との立ち位置の違いかもしれませんけど、いずれにしろ日本の企業は動いていると感じるし、開かれていきそうな予感はありますね。

WEB限定コンテンツ
(2014.8.8 コクヨ エコライブオフィス品川にて取材)

** 8pino
マイコン基板Arduinoの世界最小の互換基板「8pino」。田中氏とデザイナー高橋良爾氏のクリエイティブユニット「VITRO」名義で2014年8月8日に8ドル/800円で発売、初回8セットは完売した。横幅8ミリ、8MHzなど、8にこだわった遊び心のあるプロダクト。MicroUSBでPC接続も可能。2014年グッドデザイン賞(グッドデザイン・未来づくりデザイン賞)受賞。

*** One Panasonicは『ソーシャルインパクト――価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える』(玉村雅敏ほか共著、産学社)でCSV事例の1つとして紹介されている。また、オープンイノベーション情報メディア「コタス」にて、「日本のコ・クリエーション アワード2013」ベストケーススタディに選ばれた。

濱松誠(はままつ・まこと)

パナソニック株式会社 コーポレート戦略本部 人事戦略グループ 主事。有志の会「One Panasonic」代表。1982年生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒。2006年パナソニック入社。2012年、One Panasonicを設立。

田中章愛(たなか・あきちか)

品モノラボ代表。1981年生まれ。2006年筑波大学大学院修了。同年大手電機メーカーに入社。エンジニアとして経験を積み、現在はビジネスデザインやイノベーションを担当する部署で新規事業開発にも取り組む。2013年、品モノラボを設立。2013年スタンフォード大学客員研究員。

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