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「コミュニティ」を形成し、
シンガポールの起業家文化を発展させる

シンガポールのインキュベーション施設

[Plug-In@Blk71]Singapore, Singapore

  • シンガポールの起業家コミュニティは各地に散在していた
  • コミュニティを統合するための施設を設置
  • インキュベーションから巣立ちまで手厚い支援を実現

シンガポールに、一風変わったオフィススペースがある。アイル=ラジャ地区にある「Blk71」だ。一棟まるごとスタートアップ企業が集まるオフィスビルである。その中核となっているのが「Plug-in@Blk71」だ。

Plug-in@Blk71は、シンガポール国立大学(National University of Singapore/NUS)が運営するNUSエンタープライズ、シングテル(シンガポール・テレコム)のベンチャーキャピタルの「Innov8(イノベイト)」、シンガポールのメディア開発庁の3者の連携によって、2012年に設立された組織だ。その目的は、アントレプレナーをこのブロックに集め、事業の創出を支援することにある。

NUSエンタープライズのCEO、リリー・チャン氏(以下、チャン氏)は次のように語る。「インキュベーション施設はシンガポールに多くありますが、特にPlug-In@Blk71が優れているのは、立地でしょう。スタートアップのコミュニティだけでなく、インキュベーター、ベンチャーキャピタル、各種業界関係者が近くに集まっているのです」

スタートアップ企業同士の「コミュニティ」を形成させる

実際、Blk71では、およそ250のスタートアップ企業と30のインキュベーター/投資家/ベンチャーキャピタルの受け皿として活動しており、スタートアップ企業のうち40社はPlug-in@Blk71に入居済みだ。

Plug-in@Blk71は建物のうち2フロアをスタートアップ企業向けのレジデンススペースとしており、共用ミーティングルームなど各種のサービス提供を行っている。

「単に入居者を増やすのではなく、『コミュニティ』を築きたいという発想が設立当初からありました。私たちも含めた、起業を目指すスタートアップ企業同士の密で刺激的なコミュニティです。それだけでなく、Plug-In@Blk71にはNUSエンタープライズ以外のインキュベーターや投資家、エンジェル投資家も同居させており、そこが他のインキュベーション施設とは大きく異なる点です」(チャン氏)

解体寸前だった工業団地をリノベーションしたPlug-In@BLK71の外観。

創設:2012年
http://www.blk71.com

NUSエンタープライズのCEO、リリー・チャン氏。

  • 「ホットデスク」の入居者。無償で利用できるため、スタートアップ企業にとっては非常にありがたいスペースだ。

  • Plug-In@Blk71のエントランス。スタートアップにふさわしい明るい若々しいカラーでまとめられている。

  • NUSエンタープライズとシングテルのInnov8が共同運営しているオフィス。大学と企業の連携によって新たな技術やサービスを探る場となっている。

  • エントランス近くのカフェテリアスペース。来客との打合せ、イベントのパーティなど多目的に利用される。

共同運営のパートナー企業と
Win-Winの関係を構築することに成功

産官学の様々な事業体が集まるPlug-In@Blk71は「多様性がもたらす可能性を探る大きな実験」だとチャン氏は語る。「NUS単体ではなかなか成し遂げられなかったことだったが、アジア最大規模の携帯電話事業者であるシングテルの協力があって初めて実現が可能になった」という。さらにチャン氏は続ける。

「シングテルにはInnov8というスタートアップ支援を行うセクションがあり、この組織はスタートアップ企業のコミュニティにとって欠かせない存在となっています。Innov8がPlug-In@Blk71に在籍していることで、他の投資家も引き寄せ、いい競争環境が形成されていると感じています」

一方のInnov8側からすると、Plug-In@Blk71にオフィスを構えることで、Plug-In@Blk71にともに入居するスタートアップ企業に接触し、素晴らしいビジネスモデルをいち早く発掘することができる。「Singtel Innov8とのコラボレーションはWin-Winの関係になっており、成功していると言えるでしょう。現在はこのコンセプトを国外に持ち込むことができるかどうかを検討しているところです」とチャン氏は語っている。

2〜3人規模のスタートアップ企業が無償で利用できる「ホットデスク」

Plug-In@Blk71に入居するスタートアップ企業はさまざまな恩恵を受けられるが、そのひとつが、「ホットデスク」と名付けられたシェアデスクだ。ここは2〜3人規模の企業向けのスペースで、最大8〜9カ月間、無償で利用できる場所。入居者はこのスペースを借りて仕事ができるだけでなく、メンターや投資家と話せる機会を得ることができる。またPlug-In@Blk71で実施されるイベントやセッションなどの案内を優先的に得られるため、それらの機会を各社のビジネスを発展させるきっかけにすることができるのだ。

「施設に入って歩くだけでさまざまなコミュニティにプラグインされる場所。『Plug-In@Blk71』という名前には、そうした意味を込めています。入居者がPlug-In@Blk71のコミュニティにプラグインしたいと思ってもらえるよう、私たちは成功しているスタートアップ企業のCEOによる講演会『CEO Night』など、定期的にイベントを開催しています。NUSエンタープライズのみならず、他のインキュベーターが企画してくれるイベントも開かれています」(チャン氏)

インキュベーション施設ではなくメルティングポットを目指す

ホットデスクを卒業した企業向けのスペースももちろん充実している。会社の成長に合わせてオフィスを広げられるよう、5〜6人向けのスペース、10人程度向けのオフィスなど、借りられるオフィススペースの広さはさまざまだ。ホットデスクとは異なり有償となるが、国からの補助金を受けているため、民間で借りるよりは、はるかに割安で借りられる。社員数が20名を超える、いわゆるスタートアップのラストステージに上がった企業には、1000平方メートルほどのスペースも用意されているから驚きだ。

「スペースを設計する際には、大勢の人に囲まれて仕事をするのを嫌がる人と歓迎する人の両方のタイプの人がいるということに気を配りました。Plug-In@Blk71には植物を多く使い、どことなくセミ・プライベートな空間に感じられるよう、工夫を凝らしました」(チャン氏)

そうして数多くのスタートアップ起業がPlug-In@Blk71を活用して成長を続ける一方で、運営開始から2年半を経て、最近ではスペース不足が悩みの種とのこと。入居者の事業内容によってはプライバシーが必要なケースもあるため、個室の増床も検討しているそうだ。

しかし、「我々が最も大切にしているのはあくまでコミュニティであり、スペースではありません。もしPlug-In@Blk71にコミュニティ形成に注力できる人が誰もいなかったら、現在のPlug-In@Blk71は成り立っていないでしょう。私たちが目指しているのは起業家を育てるインキュベーション施設ではなく、起業家のメルティングポット(るつぼ)なのです」とチャン氏は言う。目標はあくまで、未来のシンガポール経済を支える起業家を生み、育てられる文化の醸成だ。ただスペースを広げるのではなく、コミュニティが活発になるための空間作りを最優先に、チャン氏は次の一手を練っている。

コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計:自社およびOng & Ongグループ


廊下に貼られているPlug-In@Blk71のメディア掲載情報。


開催予定のイベント情報が館内に掲示されている。


Plug-In@Blk71の内部には、至る所に植物が飾られている。

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