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「若者の自立性」を引き出し
韓国を変革させる人材を育てる

韓国の若者への支援事業を行う機関

[SEOUL Youth Hub]Seoul, Korea

  • 経済危機や急速な発展により働く機会のない若者が増加
  • 若者に長期間の就業体験を積ませる
  • 就業体験を通して新たな関係性を構築できるようになった

「バブル世代」や「ゆとり世代」など、特定の時代に生まれ育った人を括る言葉が日本にあるように、お隣の韓国には「IMF世代」という言葉がある。

IMFはご存じの通り「国際通貨基金(International Monetary Fund)」のことだ。1997年にアジア全域を襲ったアジア通貨危機をきっかけに韓国経済も悪化。IMFからの支援を受けたものの、数多くの企業が倒産の憂き目に遭った。街には、大量の失業者が溢れた。そうした時代に大学を卒業し、就職難にあえいだ世代が「IMF世代」である。

「このIMF世代を筆頭に、小学生や中学生の頃にIMF危機を経験した若者たちの間には『いくら実力を積み重ねても、いくら資格を取っても社会で成功できるかどうかはわからない』という、社会に対する諦めに似た気持ちが蔓延しているんです」

そう語るのは、チョン・ヒョグァン氏(以下、チョン氏)。こうした、韓国の未来を背負う世代の若者の仕事や生活支援を行うために2013年4月に誕生したソウル市「青年ハブ」(SEOUL Youth Hub)のセンター長を務める人物である。

長期間の就業体験を与える「ニューディール職場」

「韓国では、法的に18歳から満34歳までを『青年』と呼びます。ただ、私たちはIMF危機を経験した世代も入れ、満39歳までを青年と考えています。就業率と雇用率がどんどん下がり、就職を諦める青年も増えましたし、就職できてもあまり企業に定着できず離職するケースも多いです。そうした深刻な状況の中、資本を入れてこの青年たちに価値のある活動をしてもらえば、それが韓国社会を変える『社会革新のエンジン』になるのではないか、そう考えて青年ハブの事業を始めました」(チョン氏)

青年ハブの進めるプログラムは多岐にわたっているが、特にユニークなのは「ニューディール職場」だろう。「地域活性化のための協同組合や託児所のような社会サービス事業での労働を青年に体験してもらうというプログラムです。就職を検討する際に大企業しか頭になかった青年たちがこういうところで働くことによって、ここでも十分に経済的な生活ができるということを理解してもらうためのものです」(チョン氏)

従来、韓国で行われてきた青年向けの支援事業は「公共勤労」といい、ごく短期間だけ職を与え、この間に別の仕事を探しなさいという性格のものだった。ただ、この政策ではその期間が終わればまた職がなくなるため、失業者の増加に歯止めをかけることはできない。そこで「ニューディール職場」では、9カ月〜1年という長い期間、職業体験を積ませている。結果、青年ハブが生まれて最初の1年間にこのプログラムに参加した約100名の青年のうち、約半数がプログラム終了後もそのままそれぞれの職場で働き続けているそうだ。「中には、労働を通じて学んだことを活かして事業を興した青年もいました。今年も約150人の青年が参加しているので、今後が楽しみですね」(チョン氏)

青年ハブ内の至るところでセミナーが開かれており、参加者は熱心に話を聞いていた。

創設:2013年
http://youthhub.kr/international

中には、卓球に興じる利用者の姿も。卓球台は青年ハブ内の卓球同好会の会長も務めるチョン氏が寄贈したものだ。

  • 「休」と名付けられた、腰をかがめないと利用できないスペース。休憩や議論など多目的に使えるスペース。利用者同士の自発的なコミュニーションを生む場として機能している。

  • 共有本棚。利用者それぞれが本を持ち寄り、収納している。個人ごとに棚が分かれており各自の興味を他社が知れる仕組み。

  • さまざまな目的に使われる多目的ホール。

  • 「工作室」と呼ばれるスペース。利用者の自発的な創造活動を支える。

社会的に自らの存在価値を
維持できるような土台でありたい

青年ハブの中を歩いてみると、壁一面に広がる大きな本棚が見える。これは「共有本棚」と呼ばれているもので、チョン氏曰く「別名『手垢のついた本棚』です(笑)」とのこと。利用者は、この本棚の中で自分だけの空間を決めて、自分の本を置く。その本は他の誰が読んでもいい、そういう仕組みの本棚だ。個人の本棚であり、共有の本棚でもある。「当初は寄付を受けて蔵書を増やそうと思っていたのですが、個々人の本棚にすることで利用者それぞれの本への愛着が生まれているようですね」(チョン氏)

一見すると「?」と思ってしまうスペースが「休」という場所。「ここはセンター長室の下に位置するスペースですね。利用者に自由に休んでもらおうとして、このような奥まったスペースをつくりました。昼寝をする人もいますし、遊んだり話したりする人もいます」(チョン氏)。まるで屋根裏部屋のようで、精神的にリラックスできそうな場所である。

青年ハブには、多目的ホールも完備されている。講演や映画上映会、討論会、コンサートなど、さまざまな催し物に使われているそうだ。商用以外の目的であれば、外部の人間でも利用することができる。

オープンスペースのカフェは青年たちが運営

オープンスペースにはカフェも設置されている。オープンスペースとカフェという取り合わせは特に珍しいものではないが、実はこのカフェ、青年ハブの利用者が運営を委託されている。「青年ハブ内で生まれた協同組合が運営しています。生活の厳しい青年を助けるために行っていますが、青年たち自らが積極的に経済活動に参加するため、労働をリアルに体験できるという利点もあります」(チョン氏)。カフェの名は、「窓扉カフェ」という。特別な行事がない限りは、訪問客でも自由に使える空間で、インターネット環境も整備されている。

青年ハブの中では既に起業した青年に提供しているスペースもある。「引き戸事務室」といい、文字通り、引き戸で仕切られたスペースだ。「我々は小規模コミュニティへの支援に力を入れているので、利用者から家賃はもらうことはありません。ただ、その代わり、『1カ月に1回は自分たちとは異なるコミュニティの人と会いなさい』などとアドバイスをしています。これも、異なるコミュニティ同士が会うことでのシナジー効果を体感してもらうためのことです」(チョン氏)

急速な発展が引き起こしたシステムの歪みを解決する

韓国は日本以上に短期間で急速に発展を遂げた国だ。日本でも知られている通り、韓国の受験戦争は加熱する一方。入試の時期から先はずっと競争システムの中で生きることになる。

自身も学生時代にIMF危機を経験した、青年ハブの運営に関わるハン・スンキョン氏は「いまの若者は、いくら誠実にしていても自分の未来を切り開くことができないということを幼い頃から実感している世代です。これは私が聞いた話ですが、最近の中高生の中では、学校を休むなど何らかの理由があってノートを取ることのできなかったクラスメートにノートを見せることを嫌がる子もいるそうです。自分がどんな授業を受けたのかを他人と共有したくないのですね。社会への防御が強すぎるあまり、極端な個人化が進んでいると言えます」と語る。

チョン氏も続ける。「韓国という国の経済構造も、ある意味、競争を前提としています。何%かの青年はそのシステムに適応してうまくやっていけていますが、このシステムから一度脱落してしまうと、もうおしまいなんです。社会的に自らの存在価値を維持できるような土台を作りたいと思って私たちは青年ハブを運営しています」

ただ、この言葉の通り、誕生から1年が経ち、少しずつではあるが、青年ハブは自らの存在価値を認識できる青年を世に送り出すことができている。

「現在はソウル市の予算で運営されていますが、いずれは民間の協力も得て、多くの青年が出会って多様なアイデアを出し合う、そうした開けた空間をもっと広げていきたいと思っています」(チョン氏)。

折りしも2014年6月には、青年の雇用問題に力を入れているパク・ウォンスン氏がソウル市長に再選された。ソウル市の全面的なバックアップのもと、青年ハブは青年の支援事業に全力を傾けていく。

コンサルティング(ワークスタイル):ユ・ヒュンジュン建築事務所
インテリア設計:ユ・ヒュンジュン建築事務所


「休」の中はこのように広い空間になっている。


青年たちに委託された「窓扉カフェ」


青年ハブのセンター長を務めるチョン・ヒョグァン氏(2014年4月時点。現在はソウル市革新企画官を務める。現センター長はソ・ミンジョン氏)


フリーランスの立場で青年ハブの運営を支えるハン・スンキョン氏

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