Workplace
Feb. 16, 2015
社員が自由に行き交う
“重厚長大”企業の“フレキシブル”なオフィス
オランダ鉄道の「駅」を管轄するグループ企業
[NS Stations]Utrecht, Nederland
- 社屋の老朽化と、時代にそぐわない組織文化
- 固定席をなくし、柔軟な働き方ととオープンスペースを拡充
- コミュニケーションを取る機会が増え、組織が活性化
旧オランダ国鉄を継承したオランダ鉄道(NS/Nederlandse Spoorwegen)は、約2800km(営業キロ)の鉄道網を誇る、オランダ最大の鉄道会社である。そのオランダ鉄道のグループ会社のひとつであり、主に駅の開発や運営を行う会社がNSステーションズだ。オランダで最も利用客と発着電車の多いユトレヒト駅の真上に、その本社はある。
それまでの建物が古くなり、改装が必要になったということで生まれ変わった本社。完成は約2年前、2012年秋のことだ。「せっかくなので、デザインもこれまでとは全く違うものにしようと思っていました。1〜2年使ってみてダメだったら変えればいい、くらいの感じです。実際、新オフィスは雰囲気がいいし、明るいし、コーヒーもおいしいし(笑)。会社のトップも気に入っていて、社員全員が希望するものができたと思っています」と語るのは、オフィス改装のプロジェクト・マネージャーを務めたディック・ヴァン・ヴェルセン氏(以下、ディック氏)である。
鉄道会社、しかも旧国鉄の流れを汲む会社となると、どうしてもそのカルチャーは保守的なものになりがちだ。「イメージが古い」とも言えるだろう。しかしNSステーションズの新オフィスは、そうした考え方が単なる固定概念だったのだと思い知らされるものだった。
2段階のアンケートから生まれた「10の定義」
オフィスのデザインを担当した建築事務所「NL Architects」のデザイナー、ウォルター・ヴァン・ダイク氏(以下、ウォルター氏)は言う。「私たちデザインチームとNSステーションズのチームとで何度も話し合いを重ね、企業カルチャーの大きな方向転換をしたんです」
今回の改装にあたっては、実に慎重に事が進められた。「2段階に分けて社員のニーズを掘り起こしました。1段階目は、昔ながらのアンケートの手法です」(ディック氏)。新しいオフィスとしてどういう環境が欲しいかといったことをアンケートで社員に尋ねたのだが、新しいアイデアは出なかったという。「人間、自分の知らないことは提案できませんからね。そこで2段階目、別のアンケートを採ったんです」(ディック氏)
そのアンケートは、オフィスの色や雰囲気など、新オフィスへの希望を10の言葉で表現してほしいという一風変わったもの。すると「それなら書きやすい」と、社員からさまざまな希望が書き込まれた。そして、それをNSステーションズのプロジェクト・チームが取りまとめて「新オフィスに求める10の定義」を作った。「この10の定義をさまざまな建築事務所に持ち込み、デザインを依頼したんです。すると、ウォルターのデザインが一番魅力的に見えました」(ディック氏)
ユトレヒト駅から直結、駅の真上に位置するNSステーションズ本社。向かいにはオランダ鉄道本社もある。
創設:1938年
従業員数: 約5,000人(2014)
http://www.nsstations.nl
左がNSステーションズのディック氏、右がデザイナーのウォルター氏。
オフィスの変化が
社員もマネジメントも変えた
「デザインの基本的なコンセプトは、余計なファニチャーを一切排除し、収納スペースだけをしっかり確保するということから始めました。すべてが可動式になっています」とウォルター氏。機密情報を取り扱う部署の社員にしか固定席が与えられていないため、それ以外の部署の社員は、朝出勤したらロッカーに私物を入れ、空いているスペースで仕事をし、仕事が終わったら片づけをして帰るということになる。
グループで集まって作業をする必要がある場合は、その人数分、席を取る。席の予約はできないため、4人で作業したい時に4人が座れる席が空いていない場合は、その席にいる別の社員とその場で交渉することになるのだそうだ。ミーティングルームが充実しているため、そこを活用することも多い。
しかし、固定席がないということは、仕事に必要な大量の資料はどうすればいいのか。「オフィスの改装を機に、ラップトップやデスクトップ、タブレット、携帯電話など、社員に希望のデバイスを支給しました。資料はどんどんデジタル化して、クラウドも活用し、どこにいても誰でも必要な資料にアクセスできるようにしたんです。完全にゼロにするのは無理ですが、現在では2年前の1割しか、紙を使っていません」(ディック氏)。急激な変化に対応できない社員のためには紙の資料をデジタル化する方法やタブレットの使い方といった実務的なトレーニング・プログラムも完備し、ITに不慣れな社員をフォローする工夫もなされた。鉄道会社には古くからトレーニング・プログラムが得意だという土壌がある。それが功を奏したようだ。
トップダウンで行われた、マネジメントの意識改革
業務のIT化が進み、社員の働き方にも変化が起き始めている。自宅での勤務が可能になり、それを会社が認められるようになったため、2週間に1〜2回ほどのペースで自宅勤務をする社員が多いそうだ。しかし、一般社員はそれでいいのかもしれないが、「マネジメント・チームがその状況に慣れるには時間がかかりました」(ディック氏)。何と言っても、固定席がないため部下がオフィスのどこにいるかわからないし、自宅勤務をしていたらそもそも出社していない可能性だってあるからだ。
すると、しばらく時間が経ち、マネジメントは社員がオフィスに来ているかどうかを見るのではなく、完全に仕事の成果で社員の評価を行うようになった。マネジメントのシステムが従来と大きく変わったのだ。「我々NSステーションズのトップには、『変わらないといけない』という強い意志がありました。会社として変化が必要な時期に来ていて、そのために必要なことの一部としてマネジメントの意識改革があったのです。個室をなくしたのもその一環ですよね。そうしてマネジメント向けのトレーニング・プログラムも複数作り、一人ひとりの意識改革を進めていきました」(ディック氏)
NSステーションズのオフィス改革は止まらない
オフィスを新しくしてから2年。社員からの声は上々のようだ。ディック氏も「オープンスペースができて、仕事ではなくプライベートなこともいろいろと話せるようになりました」と言う。社員間の気軽なコミュニケーションが心地良いようだ。
「会議など、人と会う用事がある時にオフィスに来て、自分の仕事は自宅などオフィス外の場所で行うのが主流になってくるでしょうから、将来的にはもっとミーティングルームが増えて、ワークスペースが減るようになると思います」とウォルター氏。現在のオフィスはユトレヒト駅の真上という便利なロケーションにあるため、いずれは会社のカンファレンスセンターやミーティングセンターのような位置付けになるだろうとの見方もしている。
ウォルター氏は、現在のカフェテリアについて「いかにも“カンティーン(社食)”なデザインなので、もっとレストラン風にしたいですね。実際、デザイン案はできていて、会社の承認も降りているんですよ」と言う。オランダの交通インフラを支えるNSグループの先端を走るNSステーションズは、これからもフレキシブルに会社を変えていくつもりのようだ。
コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計:NLアーキテクト
建築設計:Van schijndel, Van der Gaast
充実の収納スペース。紙の資料が減ったこともあり、社員から「収納スペースが狭すぎる」という声が上がることはないのだそう。
集中して作業ができるように設けられたコンセントレーション・スペース。
各階のエレベーターホールは、フロアごとにデザインが異なる。駅舎関連の業務を行うフロアはコンコース風に(写真上)、リテール業務を行うフロアは提携企業のロゴで彩られている(写真下)