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アムステルダムのクリエイティブを支える
学生主体のデザインラボ

企業、団体にデザインを用いたソリューションを提供

[MediaLAB Amsterdam]Amsterdam, Nederland

  • 大学や企業、団体がラボという存在への必要性を感じていた
  • 世界各国から優秀な学生を留学させ、プロジェクトに加える
  • 現在ではプロジェクトが事業化するなど、広がりを見せる

およそ10年前の2004年、アムステルダム応用科学大学デジタルメディア・クリエイティブ産業学部の一部として誕生したメディアラボ アムステルダム(以下、メディアラボ)。企業が抱える諸問題に対し、創造性と技術をもってソリューションを提供するラボである。現在、アムステルダムのデジタルメディア業界やクリエイティブ業界はエネルギーや医療などさまざまな分野と共同でプロジェクトを行っており、その中でメディアラボは非常に重要な存在となっているのだという。

プロジェクトは、オーナーからの依頼で始まるケースもあれば、メディアラボ側から企業に働きかけてスポンサーを募るケースもある。「たいていは企業からの提案があって始まることが多いですね。ただし、いずれにしても我々メディアラボのポリシーである『市民の啓発』に関連するテーマでなくてはなりません」と語るのはメディアラボのコーディネーターを務めるハイス・ホーチェス氏だ。

ゲームからクロスメディア、情報科学、ヘルスケア、ファッションなど、さまざまな分野においてメディアラボは市民の教育に関する研究を行っており、、メディアラボはそれを「市民の啓発(Citizen Empowerment)」と呼んでいる。アカデミックな研究だけでなく、あくまで実践的な研究を行っている点が大きな特徴であろう。

優秀な学生を、さまざまな分野の専門スタッフがフォロー

メディアラボでは、世界中のあらゆる大学の最終学年の学生が半期を費やし、企業や団体との各種プロジェクトに参加している。3Dヘッドアップディスプレイ「オキュラス・リフト(Oculus Rift)」を活用したインタラクティブな映画を制作するプロジェクト、建設業界での仕事にグーグルグラスを取り入れるというプロジェクトなど、半期に5つ、1年間で10ものプロジェクトが進められるのだ。

「全員が常駐しているわけではありませんが、教員としては、デザインからジャーナリズム、テクノロジー、ビジネスなどさまざまな分野の専門スタッフが所属しています。学生はプロジェクトを通じてモノづくりを行い、その過程で多くのことを学びます。その学習成果を教員と話し合いながら、最終結果をスポンサーへ届けるのです。私自身は、教員スタッフ陣と協力しながら企業とメディアラボを結びつける役割を担っています」

アムステルダム応用科学大学のキャンパスの一部にメディアラボのスペースが設けられている。
創立:2004年
http://medialab.hva.nl

ハイス・ホーチェス氏。主に研究プロジェクトの新規開発に従事する。

  • 学生が集まってランチをしたりミーティングをしたりと自由に使えるオープンスペース。

  • 「モノづくりの現場」らしく、フロア内には至るところにプロトタイプの痕跡が残されていた。

  • 別棟にある「クリエーションラボ」と呼ばれるスペース。3Dプリンターやレーザーカッターなど、プロトタイプの制作に必要な機材が備えつけられている。

  • 並行して進められているプロジェクトごとに学生が円卓を囲む。

学内に留まる「研究」から
社会に広げる「プロジェクト」へ

そもそもメディアラボは、大学内のニーズと各種業界からのニーズを受けて、現在のような複合領域に渡るプロジェクトを行うようになったという経緯がある。「デザインやデジタルメディアの世界は急速に進化しているため、教育システムやカリキュラムも常にアップデートしていかなくてはなりません。そうしないと、学生が4年間勉強して卒業する頃には、学んだ知識とは別のまったく新しいテクノロジーが広まっている……ということもあり得ますから。ただ、学生が卒業する4年後に必要なことを予測するのは大変なことですよね。そういう意味では、学内に研究施設を持つということは非常に理に適った考え方でした」

企業側としても、いまはイノベーションを起こしにくい状況であるということは言えるだろう。時間や予算が限られていたりと、社内にさまざまな制約があるからだ。「そんな時に我々のような場所があれば、外部委託が可能になりますよね。クリエイティブで高い適応性を持った学際的チーム。業界からのニーズを感じています」とホーチェス氏は言う。

いずれは「起業」という形に持っていきたい

そのように多くのプロジェクトが進行するメディアラボだが、2014年秋には、一部の学生が起業に成功した。「Oglowというサービスです。もともとはアムステルダムの職業訓練大学校とスマートフォンのスクリーン開発を手がける企業との共同プロジェクトで、『ブレスレット型のデバイスからスマートフォンに情報を転送する技術を応用して何かできないか』というところから始まっています。メディアラボの学生がデザインを担当しており、事業化の見込みが立ったので会社組織にしました」。

メディアラボは実験や研究の場ではあるが、そこに集まった才能を活かすために、現在は起業支援にも力を入れ始めている。「我々が現在取り組んでいるプロジェクトにはさまざまな業界が関心を抱いていて、社内にリサーチやデザイン、イノベーションのセクションを作ろうという動きも出てきています」とホーチェス氏。

グローバル企業も注目するメディアラボという存在

グローバル企業であるシスコは長期間にわたるリサーチプログラムを行っていることでも知られているが、そのシスコからも共同プロジェクトの話が来ているそうだ。アムステルダムのクリエイティブ業界には小規模の会社やフリーランスが非常に多く、そうした人材も巻き込んでの製品開発プロジェクトを検討しているとのこと。「現在関わりのあるインドや日本、ブラジルといった国々との連携を強めるのはもちろんですが、同じようなテーマに同じようなメソッドで取り組んでいるその他の海外企業、団体とのコラボレーションも強化したいですね」と、その目は海外まで見据える。

「研究」という枠に閉じこもるのではなく、社会と強く結びつき、社会へ強いインパクトを与える。近年アムステルダムにおいてメディアラボの存在感が増しているのも、頷ける話だ。

コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計: Olll Architects
建築設計: Anouk Dekker OIII


テレビやラジオの収録ができるスタジオも完備。


屋外のスペースもたくさんの学生で賑わっていた。


メディアラボのホームページでは、Oglowのサービスの概要を、イラストを用いた動画で見ることができる。
medialab.hva.nl/blog/project/future-of-tv


農業に関するプロジェクトを実施する小さな農園もラボに併設されている。

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