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現場主義で最先端の表現を極めたい

R&Dの強化から始まった一気通貫のモノづくり

[齋藤精一]株式会社ライゾマティクス 代表取締役

ライゾマティクスを設立したのは2006年です。アートと広告を両立させるモノづくり、企画から提案してクライアントの期待を超えるような創作活動をしたいと思ったのがきっかけでした。

ただ、奇抜な提案をするとプレゼンがなかなか通らず、設立当初は苦労の連続でしたね。例えばプロジェクターを10台連携して巨大な映像コンテンツを作りましょうと提案すると、「本当に10台も連携できるの?」「成功する確証は?」としり込みされてしまう。実証実験をしようとしても、予算をいただいてから準備、実施、検証となると効率が悪いし、そもそも実験費用が捻出されないこともありました。

R&Dの取り組みをYoutubeにアップし、プレゼン素材に

これでは創作どころか提案も満足にできないということで、2007年に「4nchor5 La6(アンカーズラボ)」* というR&D 機能を立ち上げました。自分たちで実験してみたいと思ったものや、機材を購入してもやる価値があると思ったものを実際に形にしてみるんです。その結果はYouTubeにアップして、プレゼンの材料にしようと考えました。

これなら実験的な取り組みも自分たちの作品づくりも、研究費用として事業予算に取り込むことができますし、検証結果はフィジビリティスタディとしてクライアントへのプレゼンに活用することもできます。

この取り組みが功を奏して、説得力のあるプレゼンが可能となり、自分たちとしても満足できる創作活動ができるようになりました。企画、コンセプトの立案から、グラフィックやウェブのデザイン、システム開発、美術作品の制作、アートスペースの演出、さらにマーケットへのコミュニケーションまで、全体を一気通貫するライゾマティクスの基盤はここで作られたといえます。

現場の発想の方が面白いし価値がある

企画書に沿って仕事をするだけのプロダクション業務では、本当に新しいものを生み出すのは難しいと思います。企画書は企画書でもちろん大事ですけど、実際に現場で作り込む中で企画書だけでは出てこないジャンプがある。僕はそれが一番大事だと思っています。

だからうちは完全現場主義です。マネジメントも半数以上がモノづくりの経験があるので、それなりのアイデアは出しますけど、現場のプログラマーやエンジニアが試行錯誤する中で湧き上がるイノベーティブな発想の方が断然面白いし価値があります。

例えば、「グラフィックデザインの死角」という展覧会** では、日本を代表するグラフィックデザイナーの作品をデジタル解析して、そのDNAを探りました。「グラフィックデザインの死角」というキャッチこそ僕が出しましたけど、会場で何をどのように展示するかはプログラマーやエンジニアが主体となって固めていきました。

体験モジュールを作ろうかとか、展示は全てデジタルがいいのではといったディスカッションを経て、グラフィックギャラリーだからやはりプリント物があったほうがいいとか、プログラム的に解析はこういうレベルまでできるとか、その解析もデジタルだけでなくアナログも交えた方が深掘りできるとか、現場から出てくるいろいろなアイデアを取り入れて出来上がったものなんです。

JINSと共同でメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ミーム)」*** を開発したときもそう。僕らはインターフェイスのデザインから使用シーンの検討、マーケティングまでコミットしましたが、やはりデザイナーやプログラマーのアイデアから、開発者の意向をユーザーコミュニケーションに濃密に反映させることができました。結果的にアジャイル的な、柔軟でスピーディー、かつマーケット志向の商品開発が実現できたと思います。

株式会社ライゾマティクスはウェブデザイン、インタラクティブデザイン、グラフィックデザイン、内装・建築をコア事業として展開するクリエイティブチーム。企業のマーケットコミュニケーションや製品開発のほか、コンサートやイベントの演出なども幅広く手掛けている。設立は2006年。
http://rhizomatiks.com

* DGNとライゾマティクスの共同出資で設立された研究・制作スペース。

** 2015年6月5日~27日、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催。田中一光氏、永井一正氏、福田繁雄氏、横尾忠則氏の3000点に及ぶ作品について色や構成を解析し、それを元に新たなグラフィック作品を構成した。

*** センサーで眼電位(角膜と網膜の間に生じる電位差)を測定、その変化から集中度、眠気のほか、さまざまなデータを割り出すことができる。

「算数になりやすい国語」で
クライアントと現場をつなぐ

組織の規模が大きくなって硬直化すると、社内でわだかまりが生まれたり、上流にいる人の下流の人たちに対するリスペクトの低下を招きもするでしょう。それでは現場の集中力を削ぐし、士気も下げてしまいます。

マネジャーは予算や進行に関するスーパーバイズに徹して、現場の作り手が集中できる環境を整えることに力を注ぐべきだと僕は考えています。クライアントからの要望を咀嚼して、いかに自分たちの方法で解決していくか、そのつなぎの役目を果たすのがマネジャーではないかと。

例えば、クライアントの方は一般に「もっとやわらかく」とか「ここは重厚に」とか、国語的な表現で話をすることが多いんですね。一方で、現場は緻密にプログラムや機構を作り上げるので感覚としては算数的です。両者の間に立つ僕は、算数になりやすい国語、あるいは国語変換できる算数で表現するようにしています。

信頼関係を作ることが重要な初期設定

もちろん、アウトプットがちゃんとしたものになるかどうか、名言できない部分もありますよ。特に僕らは常に新しいことに挑戦していたい、今の時点でできる最先端、一番突端にいなきゃいけないという思いが強いので、未知の世界にどんどん進んでいくわけです。突端を攻める以上、できるかできないかは、やってみないと分からないこともある。でもチーム内、社内、さらには協力会社に対して信頼関係があれば踏ん張れるんですよ。

バスケットボールコート一面にLEDを敷き詰めて、プレイヤーの軌跡を光らせるという作品を作ったときのことです****。発想自体は斬新で魅力的だけど、「それ本当にできるの?」とクライアントは疑問に思うわけですね。僕は、「いやいや、絶対できます!」と。無数のセンサーを設置してプレイヤーの位置をコート上でトラッキングするなんて、それまで誰もやっていないことなのでクライアントの方が不安に思うのは当然でしょうけれども、そこはトライ・アンド・エラーも想定して、プランBと万が一のバックアップ策まで用意しました。そのあたりの担保はマネジメントの仕事です。

なので、僕のしているマネジメントとしては企画書も作るし、チームマネジメントもするし、お金もスーパーバイズする。そういう人間がクライアント、そして現場の面々とかっちり信頼関係を持って、自分たちがやろうとしていることがいかに革新的で難しいことなのかを説得するわけです。社内、社外で信頼関係を構築することは、どんな仕事であっても重要な初期設定なんですね。

その表現はクライアントに実利をもたらすか

そうやって実績を1つひとつ積み上げてきたことで、ここ3~4年はクライアントから任せてもらえるシーンが増えてきました。ありがたい変化ですし、同時に責任が増しているのも感じます。

宣伝や広告に対するクライアントの投資に対して、しっかりとペイバックできる表現になっているかどうかは常に気を配っています。例えばウェブならビュー数、CMならGRP(延べ視聴率)といった指標がありますけど、イベントでインタラクティブな作品を披露しても投資に見合った効果が出ているかは測定が難しいんですね。KPI(重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)にしても、実際にどれだけの実利をクライアントにもたらすことができたかを明確化するのは難しい。

そこで僕が今、目指しているのは、もちろん目を引く突出した表現は維持しつつ、それにプラスして消費者に導線を作ることなんです。消費者のインサイトを分析して、購買行動まで最終的に落としてあげられる表現とはどういうものかを考えます。

例えばインタラクティブなイベントを企画した場合、そこにいる人がインスタグラムにアップしてくれるような決定的なシーンがほしい。そしてみんなでシェアして波及していったとき、次に必要になるのはブランドや商品に対するニーズを汲み取るウェブサイトです。その中にECサイトへの入口を作って販売まで結び付けるとか、そういう発想で取り組んでいます。

取り組みたいと思わせる知恵の輪を提供する

社内でのマネジャーの仕事としては、新しいビジネスに挑戦し続けて、メンバーに課題を作ってあげることも重要です。やったことのないことに取り組んで、最終のアウトプットまでキープするとなると、現場のモチベーションは上がります。見たことのない知恵の輪に取り組むようなものですよね。だから仕事にハードルを設けてあげる、それも明らかにジャンプできないハードルではなく、何かしらのことを考えれば超えられるハードルをどうデザインするかも大事です。

契約スタッフやアルバイト、インターンも含めると、いまスタッフは50名くらいになっています。拡大する気は個人的にあまりなくて、もう少し小さいチームでも1つのクリエイティブ分野に集中するには良いのかも。でもみんな辞めないんですよね(笑)。それはやっぱりライゾマティクスじゃなければできないことが増えてきたからだと思います。

試行錯誤もありますけど、僕は現場主義を貫いていきたい。寒い中の撮影だったら豚汁くらい温めようよとか、そんなことまで口に出しています。少しのことでみんなのモチベーションが上がるなら、その手間は絶対惜しんじゃいけないと思う。それはちょいちょい言っているかもしれません。ウザイと思われている節もありますけど、それも社内がうまくいっている1つの要素なのかな。

全員野球でなければ作れないものを作っていきたいんです。考えて、提案して、プログラムを作ったけれども、現場で設営ができなければ意味がないわけですよ。1人だとどうしても提案する内容が限られるし、そのうちに飽きが来るはず。先鋭的な創作をしていくには、ナレッジの蓄積がある人たちが集まっている必要があると思うし、そのためにマネジャーがやるべきこと、できることはたくさんあると思います。

WEB限定コンテンツ
(2015.6.15 渋谷区のライゾマティクス本社にて取材)

**** NIKE「House of Mamba」キャンペーンの一環。


設営の模様を記録した動画。(Youtube/作者:AKQA)※音量注意

齋藤精一(さいとう・せいいち)

1975年神奈川県生まれ。ライゾマティクス代表取締役。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。フリーランスのクリエーティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アートやコマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を制作している。国内外の広告賞を多数受賞。2013年D&ADデジタルデザイン部門審査員、2014年カンヌライオンズ・ブランデッドコンテンツ&エンターテインメント部門審査員。東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師も務める。

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