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「ピュアな無印良品」を伝えるため 社長自ら全国を行脚

管理型経営が「無印良品」を壊しそうになった

[金井政明]株式会社良品計画 代表取締役社長

僕が社長になった2008年の2月から、全国行脚を始めました。九州から北海道まで各地域の店舗を訪ねて歩き、現場で働いている人たちと話をする。一度、そのエリアに入れば1回につき1時間半ぐらいの講演を、1日3回行います。そして、夜には地域の店長たちを集めてお酒を交えてのたわいもない馬鹿話とか、軽いミーティングなどをします。

講演で何を話したかといえば、無印良品の成り立ちや無印良品として大切にしていきたいこと、これから目指すこと。会社の売上げだとか利益だとか、そういう経営のリアルな部分ではない、僕のピュアな思いです。

去年からは同じように役員たちが全国行脚をしています。彼らは僕と毎週のようにミーティングをしているから僕の考え方をわかってくれている。だから「今度はみんなでやってよ」と(笑)。あらためて現場の人たちに説明するとなると、彼らも理解が進むでしょう。それに、自分の口で話すからには、嘘がつけません。嘘がないから、本気の思いが現場に伝わる。

無印良品が壊れる。その危機感から行脚を始めた

そもそもなんで僕が全国行脚を始めたのかと言いますと、危機感があったのです。このままでは無印良品が壊れてしまうのではないかという危機感。

1989年に設立されてから90年代にかけて、良品計画という会社は、大変順調に伸びていきました。でも親会社のセゾングループが苦しい状況に追い込まれると、無理をしてでも「親孝行」をする必要が出てきたのです。大型店をいくつも作って、拡大路線を取りました。それが「粗製濫造」を招きました。無印良品のブランド価値を傷つけてしまい、2000年を境にストーンと業績が悪くなった。いちから出直しです。

管理型経営でV字回復、しかし社員は不信感を募らせた

回復のためにいくつも店舗を閉めたり、給与体系にも見直しをかけたりして。その過程で社内にはそれまでなかったいろいろなルールもできました。例えば、毎朝エレベータの前で社員の遅刻をチェックするとか、電話はコール3回以内にとるとか。どれもあたりまえのことですが、きちんとできたかどうか自己チェックして、終礼のときにみんなの前で発表する、なんてことまでしていました。要は、管理型の会社になったのです。

2001年に松井(忠三、現会長)が社長になって、僕は営業本部長。そこから業績はV字回復していきました。でも、良品計画はもともと管理だけでやっていけるような会社じゃないと思っています。

良品計画は、消費社会や旧態依然とした商習慣に対するアンチテーゼとして創業しました。そこには経営者も社員も同じ人間だ、管理されるなんて嫌だというカルチャーも少なからずありました。でも、2000年を境にそのカルチャーが壊れてしまった。業績が回復したはいいものの「無印良品は好き、でも良品計画は嫌い」という空気が生まれてしまったのです。

無印良品は、1980年に西友のプライベートブランドとして誕生した。89年、株式会社良品計画として独立。国内外に535店舗、約7500品目以上を扱う大ブランドに成長した。
http://www.muji.net/

「無印良品」を大切にすると
信じてもらいたかった

社員もピュアな子が多い。無印良品が好きだ、その理念が好きだ、消費社会のある種の理想郷だということで、無印良品に惚れて入社してくる。へんな人たちなんです(笑)。彼らはあくまで無印良品が好きなのであって、とても家具が好きな人、洋服だけが好きな人、ということではないのです。世界的に有名な家電ブランドの製品名言っても「はい?」という調子。無印良品以外のものはあまり知らないし、興味もそれほどないというのです。

また一方で、僕も「よけいなものを売っちゃいけない」とよく説いていた。ムダを省くからこそモノ本来の魅力が輝く、そういう無印良品のピュアな理想を本気で目指していた。そこにお客様の支持が集まっていたからこそ、ビジネスも成り立っていたわけです。

ところが90年代、ビジネスばかりを優先した結果、経営が悪化。その後、業績回復を目指して管理型の経営を進めていました。例えば店舗にかけるコストはできるだけ抑えるのが正解、という話になるとします。でも、現場からは「ただ安いものをたくさん売るだけの量販店みたいな売場を作るのか」「経営は『無印良品』をどうする気なんだ」というような、疑心暗鬼の声が上がる。無理もありません。

現場と直接向き合うことで信頼関係を築く

だから現場の人たちと直接コミュニケーションしたいと思ったのです。経営陣は無印良品の思想もデザインの良さも理解した上でやっている。デザインがわからない人たちが闇雲にコストを下げようとしているわけじゃない。そういうことを信じてもらいたくて。

実際は社長になる前から同じことを話していました。課長のときも、部長のときも、取締役のときも、無印良品の創業当初から続くピュアな思想を。でも、だんだん責任のある立場になってくると、僕の言葉が現場にまで落ちていかなくなるのです。どうしても、売上げだ、利益だと、そういう部分だけが伝わってしまう。

だから、僕が直接、あらためて話をする必要がありました。僕が言っていることに裏表がないということをわかってもらいたかった。まだまだ道半ばですけど。普段から僕は、あんまり難しいことを言おうとは思わない。良品計画はどこへ向かおうとしているのか。それを経営陣がしっかりと示して、それを現場が信じること。会社というものは、そんな人間同士のコミュニケーションがあってこそ成り立つものだと思います。

WEB限定コンテンツ
(2012.6.22 東池袋の同社オフィスにて取材)

上の写真は、東池袋の本社にある企画デザイン室。十数名のデザイナーが、「究極のシンプル」をコンセプトに様々な商品開発を行っている。

金井政明(かない・まさあき)

1957年生まれ。76年西友ストアー長野(現・西友)に入社。93年良品計画に入社し、生活雑貨部長としてファミリー層向けの商品開発を主導。取締役営業本部生活雑貨部長、常務取締役営業本部長、代表取締役専務などを歴任後、2008年より現職。

 

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