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現場の主体性を引き出す良品計画流マネジメント

現場スタッフの成長こそが会社の成長をもたらす

[金井政明]株式会社良品計画 代表取締役社長

現場の人を大切にして、彼らが勉強し、スキルもつけられるように会社がサポートをする。これが今の課題です。社員やスタッフの成長こそがこの会社の成長なんだと僕は本気で思っています。そのことは、全国行脚するときもしっかり伝えています。

現場の社員やスタッフに本部業務の担当者についてもらうこともよくあります。例えば、僕はずっと商品開発をしていましたから、やっぱり商品開発の上手な人を担当にしたい。

では、どう見つけるか? 僕自身の基準は「店舗で商品を売ることがうまい人」、これが商品開発が上手な人です。というのも、彼らはどうしたらお客様に喜んでいただけるのかがわかる人だからです。そういう人は販売もうまいし、商品開発もできる。

自分で知恵を出して考えられる人を抜擢する

だから「現場でこそ勉強ができるんだ」とよく話します。今の若い人たちの中には、あまり考えることをしない人が多いと思います。もしかしたら、学生時代から答えのあることばかりを勉強してきているからなのかもしれません。でも店舗では毎日いろいろなことが起きる。それは自分で知恵を出して、何とか解決していくことが多い。

だから考えてほしい。正解は見つからないかもしれない。でも失敗しても大したことないと思って、恐れないでほしい。現場のアルバイトだろうが、部長だろうが役員だろうが、皆一緒なんです。

自分の頭で考えてアイデアを出せる人間じゃないと、これからの世の中では活躍ができない。その勉強をどこでするかといったら、やっぱり現場しかない。本当にそう思います。

現場には、新卒で入社した社員以外の人たちのほかに、アルバイトやパートナー社員なども大勢います。彼らにも活躍してほしい。例えば今、商品開発の部署には新卒で入った、つまり最初から正社員の人が担当者になっていることが多い。

でも僕は、アルバイトから入って一生懸命考えて工夫してお客様の気持ちがわかるようになった人たちも、もっともっと活躍できるような会社にしていきたいと思っています。

センスは普段から努力しているからこそ磨かれる

最近、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)の課長についた社員も、まさにそういうタイプです。

彼はアルバイトで入社して、店内を演出したり飾ることがとても好きで、でもまわりの同僚たちからは「あいつに算数やらしても絶対無理だろう」なんて思われていた(笑)。その彼に課長という責任ある職についてもらったのは、やはりセンスがあるから。センスってとても大事です。こう飾ったら美しい、お客様が買いやすいということがすぐにわかるのは、やはりセンス。サッカー選手が「いいパス出すなあ」というのもセンスですし。

センスといっても、持って生まれた才能、感覚だけじゃありません。普段から努力しているからこそセンスは磨かれる。VMDがうまいというのも、普段からいろいろなものを見て、「きれいだな」「かっこいいな」という様々な情報を頭に入れて現場で実践しているからだと思います。

そういう姿勢を持った人は、マネジメントを任せても、きちんとできるはずです。だから、彼を課長に抜擢したのです。

「生活の基本となる本当に必要なものを、本当に必要なかたちでつくる」。この理念のもと成長を続ける無印良品は、国内のみならず海外でも高い評価を受けている。海外店舗はヨーロッパ・アジアを中心に、21カ国180店に及ぶ。
http://www.muji.net/

「ふつうの日本人」の力を
会社の強みにしていく

良品計画という会社を外から眺めると、デザインがわかっていてラジカルな考え方をしている、というふうに見えるかもしれません。でも実際は、プロフェッショナルのデザイナーばかりではないのです。ただ無印良品が好きという、いわば普通の人たちが働いています。

でも、そんな彼らこそ素晴らしい力がある。私が現場にこだわる理由はそこにあります。

最近は海外からの学生も採用していますが、よく言われる通り彼らは非常に優秀です。飛び抜けた能力の有無という意味では、日本人の学生に比べて海外の学生のほうが力を持っているかもしれません。ところが、平均値で見ると、日本人の能力はすごく高い。

例えば、ある国で新店舗を出店する。商品を並べ終わって、じゃあゴミを片付けましょうとなったら、ただ足でゴミをお店の隅に寄せるだけ、という国もある。日本ではそんなこと考えられない。段ボールを畳んでサイズごとに積み重ねて。誰に言われることなく、日本のスタッフは自然とみんなそうします。

WorkerではなくPlayerの社員を増やす

「働く」という意味の英単語は3つあるといいます。labor、work、playです。でも「働く」の意味が少しずつ違う。laborは産業革命以前からあるような、肉体的にも精神的にもきつい「仕事」をする人たちのこと。workは工場の仕事、オフィスワークなど、もっとも広い意味での「仕事」についている人たち。

ではplayはどうか。本来は主に「遊ぶ」のような意味です。でも、世の中には精神的な喜びを十分に感じながら、しっかりお金を稼いでいる人がいる。例えばメジャーリーグのイチロー選手のように。彼は野球という「仕事」をするplayerです。

今、日本の若者が就職先がないといって困っている。モノ作りが海外に拠点を移しているので、国内の工場がどんどん閉まっている。これは、workが減っていることを意味しています。ITによって業務が効率化され、たくさんの人手がいらなくなったこともworkが減っている理由の1つでしょう。

でも僕は、「workerをどんどん減らして、playerの増やしていこう」と思っています。それは、現場の力をもっともっと上げて、お客様の想像を超えるようなソリューションを提供していくということ。

いま、日本人の暮らしは成長途中で、格好は良くない。だからこそ、無印良品が考える、簡素で、慎ましい、感じ良い暮らしの魅力を広めていかなくてはならない。その仕事は、もうworkerではできません。現場にいるplayerにしか、きっとできないことだと思います。

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(2012.6.22 東池袋の同社オフィスにて取材)

本社内にある企画デザイン室では、様々な商品開発が行われている。上の写真のように、室内にはモック(模型)が所狭しと並べられている。

金井政明(かない・まさあき)

1957年生まれ。76年西友ストアー長野(現・西友)に入社。93年良品計画に入社し、生活雑貨部長としてファミリー層向けの商品開発を主導。取締役営業本部生活雑貨部長、常務取締役営業本部長、代表取締役専務などを歴任後、2008年より現職。

 

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