Workplace
Feb. 4, 2013
高成長が生んだ矛盾を解き現場の意志を引き出す
総合雑貨店「無印良品」の運営会社
[良品計画]豊島区, 東京, 日本
- 拡大路線による「粗製濫造」で揺らいだブランド価値の回復
- 地域店舗との信頼関係強化および企業カルチャーの改善
- 自発的な企画が活発化し、独創的なヒット商品が誕生
1980年に西友のプライベートブランドとしてスタートした無印良品。「わけあって安い」をキャッチフレーズに誕生し、当時の流行とは逆にある無駄を省いたシンプルなデザインと品質の良さが受け入れられ、西友の枠を越えて成長した。
1989年には株式会社良品計画として独立。現在は国内外に535店舗、約7500品目を扱うブランドとなっている。創業から30年が過ぎても、その思想・製品は古びることなく、世代・性別・国を問わない安定したファンを持つ。
しかし、これまで順風満帆だったわけではない。
独立してしばらくはセゾングループの優良子会社という期待を受け、大型店を作るなど、拡大路線を展開。それは「粗製濫造」も招いていく。
ブランドの信頼は揺らぎ、2000年を境に経営が苦しくなる。店舗を閉め、給与体系に手を入れ、リストラをしながら、あらためて企業カルチャーを見直していった。
創業当初からのピュアな思想を取り戻し、顧客が求めるマーケティングをいかに進めていくか。それが急務だった。
利益重視路線を見直し企画・販売の応用力を強化
90年代に利益重視路線に偏ったことの失敗から、それまで表面化していなかった問題も見えてきた。「無印良品に憧れてはいるけれど家具や洋服、食器の専門知識に乏しい社員が多く、企画や販売の応用力がなかった」と代表取締役社長の金井政明氏は当時を振り返る。
そこで「短期の売り上げが下がってもいいから、顧客に認めてもらえる製品を作ろう」と決意して始めたのが2007年の「なるほど無印良品」キャンペーンだ。「しるしのつけられる傘」や、「首のチクチクを抑えたタートルネック」などの独創的なヒット商品が生まれた。
初心に返り、顧客のニーズと丁寧に向き合い、自分たちがいいと思うものを作れば「売れる」という手応えを得る。
創業:1980年(西友のプライベートブランドとして誕生)
売上高:1509億円(2012年2月期)
従業員数: 5197人(2012年2月末、パートタイム社員含む)
無印良品は、「生活の基本となる本当に必要なものを、本当に必要なかたちでつくる」をコンセプトに、西友のプライベートブランドとして生まれた。90年に西友から営業権を譲り受け、98年に東証二部に上場を果たした。
http://www.muji.net/
金井政明(かない・まさあき)
株式会社良品計画 代表取締役社長
1957年生まれ。76年西友ストアー長野(現・西友)に入社。93年良品計画に入社、生活雑貨部長として商品開発を主導。その後、取締役営業本部生活雑貨部長、常務取締役営業本部長、代表取締役専務などを歴任後、2008年より現職。
地域社員と信頼関係の構築で
「エンジンを持った人材」が育つ
この頃から金井氏は全国の店舗の行脚を始める。1回30人、数日間で1500人ほどの社員を前に「無印良品の成り立ちと、これから目指すこと」を説いて回った。夜はその地域の店長を集めてミーティングも開いた。
「私から話すことの、売り上げとか利益とか、そういうリアルな部分だけが伝わっていくのはよくないと思った。コスト意識は大事だけれど、無印良品をどうしていこうと考えているか、直に会って伝えたかった」。
全国を一巡すると、今度は役員たちに行脚を任せる。地域の社員と対話することで役員たちにも組織への理解が深まっていった。社長や役員たちが裏表なく社員と向き合い、信頼感が育まれてくると、次第に店舗にいる社員たちが「じゃあ、こんなふうにやってもいいんだ」と確信を持って自発的に企画を考え出すようになる。「エンジンを持った人材」にどんどん任せることで社内に動きが出てきた。
従来は商品企画と販売部門はキャリアルートが分かれていたこともあったが、「販売ができる人は開発にも秀でる」という視点から、優秀な人材を全国からピックアップすることも始めた。アルバイトで採用された人も、社員になりたいと希望すれば可能な限り登用する機会を増やした。一方で、地域に密着してそこで生活しながら無印良品に関わりたいという社員に対しては「地域限定の社員制度」という制度も設けた。
企画デザイン室の隣にある工作ルームでは、毎日様々なモックや試作品が作られている。
部屋の一角にある資料室。過去の試作品や資料、素材などが積み上げられている。
地域社員と信頼関係の構築で
「エンジンを持った人材」が育つ
もう一つ見直したものがある。企業カルチャーだ。「もともと西友というスーパーの中にあった事業だから、勤怠管理とか社内ルールとか、なんとなく固い言葉もいくつか社内に残っていた。
外に向けて打ち出す『無印良品』のモダンな感じと、それを手がける『良品計画』の旧態依然とした感じのギャップがあり、新卒の社員などは入社してから驚いていた」。
イスやデスクを見ても、社員たちが普段使っているものは古い日本企業を感じさせるものばかりだった。それを少しずつ変えるのと同時に、社員たちが自ら場を改善していく雰囲気を刺激した。「最初は身の回りのゴミを拾おう、という当たり前の話からはじめた。ゆくゆくは気づいたら誰かが花を飾っているようなオフィスが理想」。
社内では年2回、店舗スタッフに向けた商品展示会を開き、会社の様々な取り組みや情報も共有している。
「内戦の影響で消滅しかけていたカンボジアの伝統的な絹織物を使った商品を企画したり、エジプトで農薬や化学肥料の影響から健康被害が出ている実態を知り、オーガニック・コットンを使用した商品を企画して無農薬生産を支持したり。海外での活動を知ることで『こういうものを自分たちは売っているんだな』と実感できれば、現場での顔が違ってくるはず。こういう積み重ねで、会社の大切ないろんなことがつながっていくんだろうと思う」。
WORKSIGHT 03(2012.11)より
社内のミーティングルームには、同社の理念が書かれたパネルが飾られている。「自然と。無名で。シンプルに。地球大。」は無印良品を根底から支えるテーマだ。
デスク奥の壁に掛けられているのは同社のヒット商品「壁に付けられる家具・箱」。資料が所狭しと並べられている。