Workplace
May. 16, 2016
革新されたカルチャーが社員の人生を充実させる
社員の健康増進を図るオーストラリアの大手保険会社
[Medibank]Melbourne, Australia
- 会社のカルチャーを未来に向けて一新したい
- 充実した人生を感じ取れる自律的な職場環境を作る
- 社員の満足度が高く、新しい文化醸成へ
顧客の健康増進を使命とする会社ならば、社員の健康をも考えて然るべき。オーストラリアの大手保険会社メディバンクの新オフィスは、この価値観の実践だ。
メルボルン内数カ所に点在していたオフィスを1カ所に集約したのが新オフィスビル構築のきっかけ。だが経営幹部はこれを単なるロケーションの移動ではなく、「組織文化的なチェンジ」の好機と捉えた。
すなわち、より柔軟な働き方を可能とし、なおかつ、社員の健康増進を果たすオフィスを作りあげること。そこにあるのは、会社を一歩先の段階へと進めるために建物を利用する、という視点だ。
ABWの導入によって働き方がより柔軟に
働く場所と時間、そして人を切り離すABW(アクティビティ・ベースト・ワーキング)導入も、同社においては健康増進の意図が背景にある。
座席数は社員の80%。1階から7階までの各フロアには、オープンなミーティングスペースに、円卓を囲むスペース、1人で集中できるブースと、様々なワークプレイスが混在する。社員たちは作業内容に応じてワークプレイスを選択。管理職を含めて、社員たちは1つのデスクに縛られることなく1日を過ごしている。
端的に言えば、ここは「社員がよく歩く」オフィスだ。プロジェクトごとにオフィスゾーンが「何となく」決まっているというが、彼らはラップトップとヘッドセットのみを手に、自由に移動する。資料はデジタル化されており、前オフィスに比べ紙の使用量を8割削減、環境配慮が一気に進んだ。
中層に位置する6階は、全社員の能率とコラボレーションを加速させる特殊フロアだ。同社ジェネラルマネジャーのイレーナ・アレン氏によれば、6階は「会社から社員への投資」という位置付けだ。
サザンクロス駅を出て徒歩1分の好立地。
創業:1976年 (政府の健康保険委員会として設立)
売上高:約65億7600万豪ドル(2015)
純利益:約2億8530万豪ドル(2015)
従業員数:3000人(2015)
https://www.medibank.com.au
オフィス中央の吹き抜け部と階段。ワーカーの動きが可視化され、活気が演出される。各フロアの床面が異なるカラーリングであるのも確認できる。
ワークプレイスの選択肢を増やすと
社員の考え方がより柔軟になった
ほかのフロアのセッティングは共通しているが、6階のみ、4つのエリアの設計を別々のデザイナーに依頼。各ゾーンは「ヘルス」「インスピレーション」「イノベーション」「コラボレーション」と名づけられ、社員たちのコラボや健康増進を促す独自空間となった。
空間の自由度の高さでいうなら「インスピレーション」ゾーンが頭1つ抜けている。ゾーン中央にはガスストーブとソファが置かれ、リラックスした雰囲気を醸し出している。
週末にはストーブを囲んでチームの成果を祝う社員の姿が見られるという。卓球台や「コネクトフォー」等のゲームに興じるのも自由だ。
「できる限り、すべてのスペースにおいて柔軟性を与えるようにしています。つまり、1つ以上の機能を持つモノやスペースが多いのです。このインスピレーションゾーンも、ミーティングスペースでありながら、1人用のワーキングスペースにも使える。ほかのフロアに比べて、リラックスした雰囲気になっているのも特徴的です。私たちは、社員を信頼しているので、リラックスの時間も特に制限していません。ワークプレイスの選択肢が増えたことで、社員たちの考え方はよりオープンに、柔軟になりました」
全員の人生やワークスタイルを
尊重できる会社へ
ABW導入に確かな手応えを感じている同社マネジャーのエミリー・フィアグック氏。「ABWがチームを殺すのでは?」との懸念も、同社では問題にならなかったようだ。メンバーどうし席がバラバラな状態で、連帯感や仲間意識は生まれるのか。何らかの強制が必要ではないのか。ABWを導入した企業は皆、多かれ少なかれ直面する課題である。
「もちろん、ネガティブなフィードバックがゼロだったわけではありません。チームのつながりを感じない、あるいは物を置いて1カ所に居座り続ける“キャンピング”と呼ばれる社員がいる、などです。でも、プロトタイプの時点で何度もテストをしていたので、大半のチームは問題なくABWに適応してくれました。現在も、社員がどのように感じ、行動しているのか、年1回のアンケートで調査しています。これで、社員が会社にちゃんとコネクションを感じているか、チェックできる。会社の健康診断のようなものですね」(フィアグック氏)
座って仕事をする社員とスタンディングで仕事をする社員が混在する。デスク類はほとんどが昇降可能。
社員が毎日来たくなるようなオフィスを作りたかった
ウェルビーイング向上を図る設備も、オフィスのそこここに見られる。 オフィス中央の吹き抜け脇には、各フロアをつなぐ階段が延びる。また地下の自転車置き場からエントランスフロアへはスロープが。どちらも、「1、2階程度の移動ならエレベーターを使わず、階段で」との習慣づけに効果を上げている。
「チェンジルーム」にはシャワーやロッカーを完備した。「社員が、徒歩やジョギング、自転車で出勤できるようにするためです。電車、車で出勤するより、環境にも優しいですしね。運動場も併設しているので、日中ここで運動することもできます」(フィアグック氏)
テラスには「edible garden(食べられる庭)」とキッチンを設置。菜園で収穫されたフルーツや野菜を無料で家に持ち帰ることが可能だ。キッチンでは時折講師を招いてクラスを開催し、「外食よりも家で食事を」と勧めている。
「社員の健康増進」との価値観で貫かれた新オフィス。そのデザインコンセプトを尋ねると、フィアグック氏はこう答えた。
「私たちは社員のことをとても大切に思っています。ですから、彼らが毎日来たくなるようなオフィスをつくりたかったのです。とはいえ、私たちは常に進化する新しい方法を探しています。今も2、3年後を見すえながら、社員の健康のためこの建物をいかに改良できるか、考えているところです」(フィアグック氏)
コンサルティング(ワークスタイル):Veldhoen
インテリア設計:HASSELL
建築設計:HASSELL
WORKSIGHT 08(2015.10)より
text: Yusuke Higashi
photo: Masahiro Sanbe
ロッカーエリア。荷物を取り出す社員が集まる貴重なマグネットスペース。ドリンクサーバーやソファ類が置かれ、コミュニケーションスペースとしてデザインされている。
「チェンジルーム」と呼ばれる空間。汗をかいた社員はここでシャワーを浴び、着替えをする。