Management
Jun. 6, 2016
「一物一価」で遊休スペースを収入源に変える
シェアリングエコノミーの最前線
[重松大輔]株式会社スペースマーケット 代表取締役/CEO
野球場、お寺、古民家、映画館、無人島――そんなユニークなスペースを借りられたら面白いと思いませんか? しかもそこでパーティや会社のイベントができたら、今までと全く違う刺激的なものになりそうですよね。
そんなニーズを満たすのが「スペースマーケット」です。世界中のさまざまなスペースを簡単に貸し借りできるマッチングサイトで、物件数は国内外で約6,000件に上ります。
法人・個人が所有するバラエティ豊かなスペース
スペースのオーナーは、映画館や結婚式場、会議室などの場合は法人ですが、個人が自宅の一部や手持ちの不動産を貸していることもあります。それがスペースマーケットの1つの特徴でしょう。だからサイズもデザインも機能も幅広い、多種多様なスペースを取り揃えることができるのです。
膨大なスペースの中から、借り手は利用の目的や人数、エリア、金額といった検索項目で希望に合ったものを探して、物件のオーナーに予約リクエストを送ります。オーナーが承認すれば予約が成立。一連のやりとりや決済は全てオンライン上で行うことができます。条件にマッチしたスペースを当社で提案するコンシェルジュサービスもあります。
スペースを貸すにも借りるにもシステムへの登録が必要ですが、登録料やスペースの掲載料は無料です。レンタル料金は基本的に貸し手が決めますし、物件を借りるには貸し手の承認が必要ということでリスクが低い。しかも遊休スペースを時間単位で切り売りできるということで、貸す側にも喜んでもらえるサービスと思います。
貸し借りの際の金銭の授受は当社が代行し、我々は手数料としてレンタル料金の20~35%をいただいています。
場所が自由になると、いろいろなニーズが出てくる
最近増えているのはCtoC、つまり貸し手も借り手も個人というものです。気持ちよく使ってもらうにはどうすればいいか考えて工夫を凝らして、その結果がお金になる。自力で稼ぐって最高に楽しいですよ。スペースマーケットはその楽しみを作り出す仕組みでもあり、このプラットフォームを通じてマイクロアントレプレナーがどんどん育ってきているのを感じます。
例えば、横浜で二世帯住宅の1階を貸し出している方がいます。もともと1階は別の家族に貸していたけれども、お子さんの足音がうるさいからという理由で退居されてしまったそうです。そのまま1年ほど空いていたのを有効活用したいとスペースマーケットに登録したところ、地元の方々がちょっとした集まりで利用する人気のスペースになり、今では月10万円くらいの収入になっているそうです。
子ども連れで気軽に行けて、公民館や図書館といった公共スペースより上質な空間というのは実はそう多くないんですね。そういう潜在的なニーズを掘り起こした事例と言えるでしょう。場所が自由になると、いろんなニーズが出てくるものなんですね。
もちろん掃除やメンテナンス、利用者とのやりとりといった手間は生じますが、その過程で、最初は素人だったオーナーがいつの間にかプロになっていく。結果的に家賃収入より高い収益を上げるようになるといったケースは珍しくありません。
今の世の中で求められているのはオリジナル感
もちろんBtoBやBtoCもあります。Bは大きいBからスモールBまでありますが、より可能性を感じるのは個人に近いスモールBの方でしょうか。居酒屋だった建物にある会社が入居してオープンキッチンを貸し出したところ、結婚パーティや同窓会の利用で人気を得ているという例もあります*。
フランチャイズのような企業サービスでは、どこへ行っても同じサービスが同じ値段で受けられます。でも今の世の中で求められているのは、「ここにしかない」「ここでしか味わえない」というオリジナル感でしょう。クラフトビールの流行や、個人経営のレストラン、バーが人気を得ているのはその証ではないでしょうか。大量生産に対するアンチテーゼですよね。
スペースマーケットはまさにそういうニーズに応えるもので、スペースごとに個性が違う一物一価の感覚が受けているのだと思います。シェアリングビジネスがもっといろいろなところに普及すれば、一物一価の価値観はもっと広がっていくでしょう。
株式会社スペースマーケットは世界中のさまざまなスペースを簡単に貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」を展開。取り扱い物件数は約6,000に上る。他にイベントプロデュース事業やプロモーション支援事業も手掛けている。2014年1月設立。
https://spacemarket.com/
* 他のスモールBの事例としては、昼間空いている飲食店をスペースマーケットに登録したところ、中学生と父兄の懇親会や企業の打ち合わせで使われるようになったというケースもあるという。
場所の違いが感動を押し上げる。
そこで明らかになるのは「場所の価値」
私は新卒でNTT東日本に入社しました。新しい事業やインフラを生み出すことに興味があったからです。でも大企業の安定した環境が私にとっては先が見えてしまう味気なさに感じられ、6年後にNTT東日本にいた元同僚が立ち上げたベンチャー企業・フォトクリエイトに転職しました。ここでウェディング写真の販売サービスを立ち上げまして、その営業で結婚式場に足を運ぶうち、多くの式場が平日はほとんど稼働していないことに気づいたんです。
平日の式場で企業がミーティングをすれば非日常感が味わえて面白いだろうし、実際に貸し出している式場もいくつかありました。会議室のレンタルビジネスでは自前の会議室を調達しないといけないけれども、既存の式場を使えばすぐ始められて元手がかからないのも魅力でした。
式場の方にアイデアを披露してみると、「それはいい、すぐやってください」と口々におっしゃるんですね。遊休スペースがあるなら貸し出して収入源にしたいというのは誰しも考えることで、これはビジネスになると感じました。
もう1つ、フォトクリエイトではイベントの写真を販売するビジネスも展開していたのですが、場所が変わると写真の売れ行きが全然違うんですよ。例えば社会人の野球大会があったとして、地元の野球場でやったときより甲子園でやったときの方がものすごく売れる。場所が違うだけで、感動の度合いが格段に高まるということですね。場所が感動を作る、いってみれば「場所の価値」を実感していたことも、スペースマーケットというビジネスを発想するきっかけになっていると思います。
海外のスタートアップ事例を徹底的に研究
フォトクリエイトの仕事を通じて事業の種となりそうなものを何となくつかみとってはいましたが、どういう形で独立するかはまだ見えていませんでした。2013年7月、フォトクリエイトがマザーズへ上場したのを機に起業を決め、フォトクリエイトを退職。どういうビジネスで起業するか、海外のスタートアップ事例を徹底的に研究していきました。
100件くらい調べる中で、トレンドとして浮かび上がってきたのがシェアリングエコノミーです。AirbnbやUberなどが注目を集めていて興味を引かれました。「所有」ではなく「シェア」という思想はそれまでのマーケットにないもので、新しい潮流だと感じたんです。
ただ、Airbnbのような民泊ビジネスは日本では旅館業法などの規制があるので、即時参入は難しい。その点、結婚式場、イベントスペース、映画館などは法人が持っている既存スペースを貸すわけで規制もないし、シェアリングエコノミーの文脈で実現できるのではないかと思って、さらに調べてみました。すると似たようなことをやっている人たちがアメリカに結構いたんです**。これだけプレイヤーがいるなら見込みがありそうだと期待が持てました。
世の中が変わるタイミングは絶好のビジネスチャンス
事例研究と並行して、周りの信頼できる人や付き合いのある経営者にアイデアを相談して積極的に助言を仰ぐことも続けました。中でも心強かったのが、ベンチャーキャピタルで投資家として働く妻の意見です。専門家としていろいろなビジネスを見ているので、すごくいい相談相手になりました。
例えば、旅行ガイドのマッチングサービスのビジネスが浮上したこともあったんです。インバウンドはこれから増えるでしょうから、プロやセミプロのガイドとユーザーをつなぐCtoCのマッチングプラットフォームはニーズがあると思ったんですね。しかし「ガイドを揃えるのに時間がかかりそう」という妻の指摘に、確かにそうだと納得して却下しました。
保育園や幼稚園での課金や情報伝達を合理化できるオンラインのプラットフォームを発案したときは、園の予算や先生方のITリテラシーから「営業のハードルが高い」とダメ出しされました。これもやっぱり的を射た意見ですよね。
こんなふうにアイデアを出しては妻にぶつけるという“壁打ち”を続けるうち、スペースマーケットの具体的なアイデアがひらめいたわけです。
在庫も抱えないし、世の中にはスペースが膨大にあるわけですからボリュームが出れば出るほど先行者利益も出せる。シェアというマインドもいいと思いました。世の中が変わるタイミングは絶好のビジネスチャンスです。シェアの流れは日本にも波及するはずで、そのタイミングに乗るスキームだと直感しました。
技術のスペシャリストを共同創業者に
妻もスペースマーケットのアイデアについては「悪くない」と言ってくれました。しかもリアルな営業が問われるので、私のこれまでの経験が生かせるとの見立てでした。やっとゴーサインが出たわけです(笑)。
妻は人材の確保でも力を発揮してくれて、優秀なエンジニアを紹介してくれました。それが共同創業者でCTOの鈴木真一郎です。何回か会って、一緒にやりたいと言ってくれたので共同創業の形をとりました。
彼は技術のスペシャリストで、こういうものを作りたいといえばすぐに形にしてくれます。システムに関してこちらは口出しせず、すっかり任せることができる貴重なパートナーです。
資金調達については、前職でスタートアップを経験した際に培った人脈を活用しつつ、妻の協力も得ました。事前の入念な下調べが功を奏したこともあって、前職を辞めて半年後の2014年1月にはスペースマーケットを創立できました。
アメリカの野球場を呼び入れた型破りな手法
創立はスムーズでしたが、サービスの本格稼働まではいろいろと苦労もありました。例えば、まだ現物のサイトが出来上がっていない段階でも、企画書で提案して物件を掘り起こしていかないといけません。特に有名どころ、ユニークなところ、「こんなところが借りられるの!?」というような意外性のあるスペースを最初から集めておくことは重要だと考えていたので、営業には力を入れましたね。
サイトの1つの目玉として、どうしても野球場は1つ掲載しておきたかったんです。つてのある野球場にアプローチしたところ、担当者レベルでは色よい返事がもらえたのですが、上司の承認が下りないというんです。大企業は最終的な意思決定に時間がかかるので仕方ないことなんですが、こちらの都合としては1日でも早く掲載したいわけですよ。
困っていたら、アメリカの球団で働いている友人が講演の仕事で社長と一緒に日本に来たんです。これはチャンスだと食事に誘って球場を登録してもらえないかと直談判し、了承を得ることができました。
それがアメリカのCoca-Cola Parkスタジアムです。残念ながらまだ一度も借りられたことがありませんが、でもこんなところも借りられるんだというインパクトはもたらしているはず。ここぞというときには型破りなやり方で道を切り拓く度胸も必要だと思います。
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(2016.2.23 新宿区のスペースマーケット オフィスにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo: Takafumi Matsumura
** CtoCでイベントスペースを貸し借りできる「Eventup」や、オフィスを貸し借りできる「Breather」などのオンラインプラットフォームがある。
重松大輔(しげまつ・だいすけ)
株式会社スペースマーケット 代表取締役/CEO。1976年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画。新規事業、広報、採用などに従事したほか、社長付特命担当部長として、2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。2016年1月シェアリングエコノミー協会 代表理事に就任。