Innovator
Feb. 18, 2013
少人数、少コスト、短期間でトライできる環境づくり
ベンチャーならではの美意識で「らしさ」を追求
[岩佐琢磨]株式会社Cerevo 代表取締役CEO
僕らみたいに小さな会社は、トライするのはすごく簡単です。イノベーションとは「結果的に」イノベーションに育ったアイデアのことであって、その裏には山のような失敗が必要です。失敗は経営資源を食いつぶしますが、それでもトライを重ねないといけない。僕たちが有利なのはここなんです。少人数、少コスト、短い期間でトライできて、失敗したら「次は何やりますか」とすぐ切り替えられるので、ダメージは最小限に食い止められる。だから何度もトライできる。
でも大きな会社がトライするには大きなコストと長い期間が必要です。それこそ数百人のチームを作って何年もかけて試作品をつくり、さらには何億のお金でプロモーションをかける。物流構造、販売構造をイチから見直す必要も出てくるかもしれない。これではトライを繰り返すことができないし、失敗だとわかったときも後に引けず、大きな損を被ることになります。結果、トライ自体を敬遠するようになり、イノベーションも生み出せないというわけです。
「きわどいところを攻める」企業カルチャー
加えて僕たちは商品企画の段階で「きわどい商品企画で攻めようよ」と方針を決めています。始めからエッジの効いたアイデアを求めているし、実際にそれをどんどん採用してどんどん形にしている。
マスを相手にする大手企業が同じことをできるかといったら難しいですよね。例えばトヨタ自動車がフェラーリのような車を作ることは、技術的には可能だと思います。実際、レクサスLFAという3500万円もするスーパーカーを作ったこともある。でも普通のトヨタ車は随所にトヨタらしさがあって、フェラーリのように攻めたデザインにはならない。「なんか丸っこいよね」みたいな。それは企画会議でゴーを出す人たちのセンスが悪いわけではないんです。企業カルチャーとして「トヨタのロゴを付ける普通の車はこうあるべし」という判断が下されるだけで。
でも僕たちはそこで「ガンダムの角みたいなのが生えてたほうがかっこよくない?」とか言えるわけです(笑)。最初からそういうアイデアを吸い上げようとしているから。そういう方針が結果的にチーム全体の発想を活性化しているんです。
今あるものの組み合わせがイノベーションを生む
具体的な開発過程においては「組み合わせ」が1つのポイントかなと思っています。今ある製品、今あるアイデアを組み合わせて、新しいプロダクトを生み出す。まったく新しいものをゼロから生み出すのではなくて、組み合わせによってイノベーションを起こしていく。
典型的なのは、「LiveShell Pro」。これは最大10Mbpsでライブ映像が配信可能なプロ仕様のライブ配信機器です。「無線LANを使った商品を作りたい」というアイデアが出た時、無線LANモジュールをゼロから開発する手間とコストがネックになりました。電波法の制約で国ごとに違う規格を取得しないといけないし、開発設備にも何千万円もかかる。だからといって僕たちは「有線だけにしようか」とは言いたくない。”ガンダムの角”をつけたいわけですよ。
そこで「無線LANモジュールを他のメーカーから買ってくる」という選択をしました。製品に差さっている無線LANはプラネックスというメーカーのもので、実売800円ぐらいで売られているものなんです。要はそれを買ってきてカメラに差しただけ。プラネックスのロゴが見えていますが、それでいい。これが売れたら彼らにも利益が入りますし、僕らも無線LANの開発にかかる手間とコストを思い切り圧縮できました。
あるいは「OTTO」というテーブルタップもセレボならではだと思います。テーブルタップ周りって基本「かっこわるいもの」「人には見せたくないもの」じゃないですか。でもOTTOなら、ごちゃごちゃした配線を隠すことができるし、インテリアのように美しいデザインです。ネットにも繋がっていてスマホから電源のオン・オフができる。調光機能も付いています。
1つ1つの機能はもう世の中にあるものです。外から電源をオン・オフできるタップ、配線を隠せるタップ、調光できるタップ、全部すでにある。でも値段は高いし、1つずつだと「それで何がうれしいの?」という感じで、ユーザーにアピールできない。でもそれらを組み合わせると新しいものが生まれる。OTTOとスマホがあればライフスタイルが変わるんだとユーザーにも伝わる。こういうことができるのは僕らの強みかなと思います。
Cerevo(セレボ)の製品の面白さは、家電にインターネットを組み合わせることで、小さな手間が省き、大きな便利さを生み出すところ。主力製品は少ないながら、着眼点が的を得ており、「ありそうでなかったもの」ばかりだ。
http://www.cerevo.com/
スマートフォンでオン・オフを自宅の外からでも制御できる電源タップ「OTTO」。8個口のAC100ボルト差し込み口を内蔵し、2つの差し込み口が照明器 具の調光操作に対応する。
5人のチームが
トライを繰り返す
今は社員10名ですが、製品を増やしていくためにどんどん数を増やしていくつもりです。ただし1つ1つのチームは小さく5人程度にとどめたい。今もそうなんです。1つのチームが1つの商品について企画から商品を世に出すところまでを全部担う。社員数数千人の組織になるとまた違いますが、数十人、数百人までならその方針でいきます。「小さなトライを繰り返して失敗したらまた次へ」というスタイルを守るには、これが最適なチーム構成だと思うので。
社員10名のうち8人がエンジニアで、そのうち家電側のエンジニアとネット側のエンジニアが半々です。チャットワークでいつも繋がっているので、会社に来る来ないは自由です。僕も海外出張がたびたびありますが、チャットで随時情報は共有しています。おかげでパナソニック時代に比べてずいぶん会議やメールが減りました。チーム自体が小さいですから、普段から議論していればそれ以上のコミュニケーションは最小限で済むという面もありますね。
秋葉原を家電ベンチャーの集積地に
チャットワークを駆使してどこでも仕事ができるとはいっても、僕らの仕事には開発環境が必要です。自宅には試作機がない、商品サンプルがない、オシロスコープがないと話にならないということで、オフィスに出勤してくるんです。
それに秋葉原という立地にはこだわっています。何しろ電気街なので必要な電子部品がすぐ買える。秋月電子に走ってこい、若松に行ってこいでいいわけです。電子部品の商社も多くて、電話1つで「15分で行きます」と言ってくれます。ベンチャーはやっぱりスピード勝負。ここに乗せる小さな部品が1つ足りないというとき「明日にならないと手に入らない」では辛いんですね。
それから最新の電化製品、あやしい輸入品も含めて、実機をすぐ手に取れるのもいい。「ソニーのデジカメってボタン押したらどんな感じだっけ?」と疑問が湧いたらヨドバシカメラにいって触ってみる。「なるほどソニーはカチっと軽いんだけどシャープはガチっと重いんだ、じゃあうちはその中間にしよう」みたいな話がすぐにできます。場合によっては1台買って分解する。どれも秋葉原の地の利です。
きっとこれから、家電ベンチャーが秋葉原に集まってくるでしょうね。今は、ぜひ集まってくださいと僕らが旗を振っている感じです。
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(2012.12.25 秋葉原の同社オフィスにて取材)
「僕が欲しい人材は、出身学部とかに関係なく、趣味で日々、僕らがしているような電子工作やプログラミンをしている人。好きでしている人って、どんな勉強もするし、懐も広いですから」
5人のチームが企画から販売まで1商品のすべての面倒をみる。商品の多様性を維持するためにも、なるべくチームに任せる方針をとっているという。具の調光操作に対応する。
岩佐琢磨(いわさ・たくま)
1978年生まれ。立命館大学理工学研究科を卒業し、2003年から松下電器産業株式会社(現・パナソニック)にてネット家電の商品企画に5年ほど従事。2008年、ネットと家電を融合した製品を開発・企画するスタートアップ企業として株式会社Cerevoを立ち上げ、代表取締役CEOに就任。