このエントリーをはてなブックマークに追加

社会問題の解決を目指す
カナダ・トロントのNGO

社会問題に関心を抱く若者をつなぐSNSを運営

[TakingITGlobal]Toronto, Canada

  • 若者が社会問題に興味を持つプラットフォームを作りたい
  • 共感者を増やすためにビジョンを全方位的に表現する
  • カナダを代表するソーシャルベンチャーに

グローバルな社会問題に対して強い関心を抱く若者たちをつなぐウェブサイトを展開するNGOをご存じだろうか。カナダ、トロントに拠点を置く、TakingITGlobal(以下、TIG)という団体だ。TIGは、1999年に当時20代だったマイケル・ファーディック氏(以下、マイケル氏)がジェニファー・コリエロ氏とともに運営をスタートさせた。マイケル氏は2歳の時にすでに手元にコンピューターがあった、いわゆるデジタルネイティブ。幼少の頃からテクノロジーに興味があったという。

「高校生の頃に友人と『MyDesktop.com』というサイトを立ち上げたところ、テクノロジーに関するオンラインマガジンが特に人気になり、1999年の時点で1カ月に100万人以上のユーザーが訪れるサイトに成長しました(その後、ニューヨークの企業に売却)。そして、そのサイトのおかげで私自身がメディアから注目を集めることになりました」(マイケル氏)。

マイケル氏は、アメリカの雑誌『People』のティーン版、『Teen People』の「世界を変える20人のティーンエージャー」という記事でビヨンセなどの有名人と肩を並べる形で紹介されたという。そして当時、世界中の学生からメンターシップの依頼を受けていたマイケル氏は、学生のアイデアをサポートする組織の必要性を感じ、新たなサイトの構築に向けて取り組み始めた。「より平和で、誰もを受け入れるサスティナブルな世界を作るために、世界中の若者が活発に関わり、つながり合うことを助ける」——。これがマイケル氏の到達した、TIGのビジョンである。

累計ユーザー数5000万人を超えるサイトに成長

そうしてサイトが立ち上がったのは2000年秋のこと。Facebookの立ち上がる約4年前の話だ。それから毎年、多い時には400〜500万人のユーザーが増えていき、現在の累計ユーザー数は5000万人を超えるという。

TIGが提供するプログラムは、大きく分けて3つある。1つは、「デジタルによる若者の取り込み(Disital Youth Engagement)」だ。ウェブサイトやモバイルアプリなどを活用し、若者が社会的問題に取り組めるようにしたいという考えである。2つ目は「グローバル教育(Global Education)」。学校や先生とパートナーシップを取り合いながら、よりよい教育システムを考えていくというものだ。そして3つ目は「社会的変革(Social Innovation)」である。社会問題の解決のために取り組む若者たちやイノベーター、組織に対して50万ドル以上の資金提供を行っている。


TakingITGlobalオフィスの外観。

創立: 1999年
社員数:15人

http://www.tigweb.org


TIGを立ち上げたマイケル・ファーディック氏。

  • 執務エリアの様子。スタッフ各人のミッションごと、あるいはチームによってクラスターに分けられている。

  • TIGの大切にする3つの考え方を名付けた部屋。インスパイア(Inspire)し、情報を与え(Inform)、関わってもらう(Involve)という考え方でここは「Inspire」と名付けられている。

  • ここは「Involve」だ。ビデオ会議などみ用いる機材などは、パートナーシップを結ぶ企業からの寄付でまかなっている。

  • 社員それぞれの強みをカードにまとめた「ストレングス・ファインダー」。各社員はこのカードを自らのデスクに置いている。

多岐にわたる活動、ユニークな評価制度で
TIGは世界中から注目を集める

社会問題解決に向けてのTIGの活動は多岐にわたっている。たとえば、「教育的ゲーム」というものがある。食べ物の安全性や健康、貧困などといったテーマについて、ゲームを通じて学べる仕組みだ。このゲームには年間約30万人が訪れるという。「特に人気のあるゲームは、“Ayiti”という貧困のある国で4年間暮らすというシミュレーションゲームでした。貧困を抱える中、子どもは学校に行けるのか、親は仕事に就けるか、病気になった際に病院に行けるのか……といった複雑な問題を、ゲームを通じて理解するのに役立つのです」(マイケル氏)

ほかにも、およそ5万点ものアート作品を集めた「グローバルギャラリー」というページも大人気。100カ国以上の学生による写真やペインティングなどの作品を見ることで、ほかの国の文化や歴史などについて知ることができる。さまざまな国際記念日を載せた「国際記念日」というページもユニークだ。今日は献血の日、この日はホッキョクグマの日と、365日、毎日がいろいろな国際記念日にあたるので、多くの事柄への問題意識を高めるのに一役買っている。

カナダという特異な国だからこそ、TIGという組織が生まれた

驚きなのが、こうした活動をたった15人のメンバーだけで行っているということだ。オンラインのボランティアが世界中に100人以上いるとのことだが、このエネルギーは計り知れない。TIGのような活動がカナダから生まれたことに、何か背景はあるのだろうか。

「カナダには多様な文化が入り交じっています。カナダ最大の都市であるトロントも移民が多いので、多様性(diversity)や世界的包容力(global iclusion)という考え方が一般的であることは、ある意味特徴的であるかもしれません。私たちのスタッフや過去のボランティアも含めると、その出身地は20カ国以上になります」(マイケル氏)。カナダは包摂的(inclusive)であり、多様な文化があり(multiclutural)、そうした面が世界中でのコラボレーションに大きく寄与しているのであろう。「カナダには責任感があり(responsible)、フレンドリーで信頼性があり(authentic)、裏がない(hidden agenda)という評判がありますからね」とマイケル氏はつけ加える。

社員を評価する「クドス」と「ヒップス」

さらに、TIGには一風変わった制度がある。そのひとつが、クドス(Kudos)と呼ばれるものだ。これは、スタッフ間で何かをしてもらった時に感謝の意味を込めてあげ合うポイントのようなもの。ヒップス(HIPS/Highs, Issues, Plans)という制度もユニークだ。前週に自分がやった仕事のなかで最も誇りに思ったこと(Highs)、現在の自分の課題(Issues)、そして次週のプラン(Plans)をスタッフそれぞれが書き込むという制度である。クドスもヒップスも、ウェブサイトからすべて入力でき、毎週行われるスタッフミーティングでそれらの数字を見ることになっている。

そして、クドスとヒップスのポイント数に加え、社員による投票を経て、最もポイントが高かった社員が、毎月表彰される。これがアバブ・アンド・ビヨンド(above and beyond)、つまり「想像以上の活躍をありがとう」といった意味の制度だ。勝者には、TIGが用意する“祝勝会”の会場や、翌月の「スタッフ向けランチ会」のレストランを選ぶ権利が与えられる。

このようなユニークな活動を行うTIGは、いま世界から注目を集めている。2007年には、シリコンバレーのTech Museumの賞を受けた。「人間に寄与するテクノロジー(Technology Benefitting Humanity)」について評価されるもので、TIGは教育部門で最優秀賞を受賞した。加えて2015年にはBMWと国連からIntercultural Innovation Awardという賞を受賞。何百もの応募があった中から、5位に選ばれたのだ。「いままでいただいた賞はローカルなものもあれば国際的なものもありますが、この2つが最も重要なものですね。文化を超えた交流(Intercultural exchange)を行うことによって国を超えて学生と教育を結びつけるという私たちの活動が評価されたものだと思っています」とマイケル氏。テクノロジーを使って教育や学習をサポートするTIGの活動を、世界中が見守っているのである。

WEB限定コンテンツ
(2015.10.1 トロントのオフィスで取材)

text: Yuki Miyamoto
photo: Kazuhiro Shiraishi


「Inform」の部屋。壁の絵画はTIGのビジョンを形にしたもの。TIG設立時のメンバー30人で協力して作ったという。



社員はフルールなどさまざまなオーガニックフードを自由に食べられる。ヘルシーとは言いがたいお菓子もあるが、それは有料での提供。


NGOで働く社員がワークプレースのデモクラシーの度合いを調べる「Democratic Workplace」を8年連続で受賞している。

2016年8月には数ブロック先のピーター・ストリート117にある、新しいオフィスに移転予定。インテリアデザインはPOIビジネスインテリアと、スチールケースと共同で行い、Cisco CanadaやCaTECH Systems、Panduitから寄贈されたテレプレゼンス・コラボレーション・テクノロジーなどを導入した最新のオフィスになっている。

RECOMMENDEDおすすめの記事

TOPPAGE
2022年7月、「WORKSIGHT[ワークサイト]」は
「自律協働社会のゆくえ」を考えるメディアへと生まれ変わりました。
ニュースレターを中心に、書籍、SNS、イベント、ポッドキャストなど、
さまざまなチャンネルを通じてコンテンツを配信します。

ニュースレターに登録する