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「公園のようなオフィス」で遊ぶように働く

中間領域の拡大がコミュニケーションを活性化する

[馬場正尊]株式会社オープン・エー 代表取締役

僕が代表を務める「オープン・エー」は、2016年11月をめどに浅草橋にオフィスを移転します。今いるのは日本橋で、ここには変化を求めて2003年に中目黒から引っ越してきたんですけど、今度の移転ではよりダイナミックな変化を目指して「公園のようなオフィス」を実現したいと思っています。

僕は『RePUBLIC――公共空間のリノベーション』という本の中で、公園とオフィスの親和性について言及しました。すべり台や砂場のような遊びのきっかけは発想やコミュニケーションの元になりますし、人が集まるベンチやパーゴラはミーティングの場にもなるでしょう。行動のトリガーとなるものがエリア内に散らばっていて、その間を自由に行き来することで、想像の幅が豊かに広がっていくわけです。

こうしたコミュニケーションの活性や発想の豊かさをもたらす空間が、今の仕事環境に求められているのではないかと思うんですね。公園とオフィスは対極のものと思われがちだけれども、実は親和性が高いのではないか。本を書きながらそれに気づいたとき、自分もそういう空間で仕事がしたいと思い立ったんです。

外部とコネクトしやすいオープンなリソースになるために

会社というものは働くための組織的な箱ですが、外部と遮断されたクローズドな体系ではなく、外部とコネクトしやすいオープンなリソースになった方が、僕らのような小さな企業は価値をより発揮できると思います。

あたかも子どもたちが公園で想像力を膨らませながらいろいろな遊び方を発明するように、さまざまな組織や個人が境界のないところで入り乱れつつ、新しいものを発明するようにプロジェクトに取り組んでいく。そこに次の新しい働き方があるのではないかという漠然としたイメージを抱いていて、それが実現できそうな空間を探していて出合ったのが浅草橋の物件でした。

元は問屋の建物で倉庫として使われていたのか、天井高は4メートル、広さは100坪で、仕切りの壁はなく柱が少しあるくらい。巨大なワンフロアがガラーンと開けています。この空間を見て、ああ、ここだと。壁やパーテーションのない見通しのいい空間で、個々人が思い思いの場所で仕事に取り組む光景がイメージできました。

オープン・エーのメンバーだけでなく、公共R不動産の案件で活動する個人事業主や施工会社の人なども含めて、プロジェクトに関係する社内外のさまざまな人が一緒に働くシェアオフィスとして、ここを使おうと決めたんです。

オフィスだけでなく、そこにあるプロダクトもパブリック化

そういう意味で、浅草橋の新オフィスはプロジェクト型のオフィスなんですね。プロジェクトがつい生まれてしまうオフィスというべきか。プロジェクトを共有できそうな人や組織をそのオフィスの中に解き放ち、互いの間に壁を設けない。考え方も立場もリソースもさまざまな、多種多様な人が入り乱れる公共空間のような働く場所に仕上げるつもりです。

デスクは固定席もフリーアドレスの席も用意して、それぞれ好きなところで仕事ができるようにします。デスクやチェアをあえてランダムに並べて、いつの間にかミーティングが始まるような仕掛けにしたいですね。大きなキッチンもあるので簡単な料理もできるし、みんなが共有できる本棚を置いて空間全体の共有財産にしてもいい。オフィスだけでなく、そこにあるプロダクトもパブリック化するわけです。

組織を極めて不安定な状況に落とし込むということで、自分でもどう転ぶかわからない、ある種の賭けのような試みではあります。でも、そもそもオープン・エーという社名はオープン・アーキテクチャの略ですからね。組織自体をオープン・アーキテクチャ化する試みでもあるわけです。


株式会社オープン・エー(Open A Ltd.)は一級建築士事務所として建築設計・監理、インテリアデザイン、プロダクトデザイン、都市計画などを手掛ける他、編集・執筆など、幅広い事業を展開している。設立は2003年6月。
http://www.open-a.co.jp/

  • 新オフィスの見取り図。プロジェクトをシェアする複数の組織や個人がパーティションのない空間に、フラットに共存している。(写真はいずれもオープン・エー提供)

  • 新オフィスの様子。屋根のある公園の中で働いているような感覚で、家具やツールが遊具のように散在している。

  • 新オフィスのスケルトン。天井の高さが約4メートル。開放的なガランとした空間。

新しいことを思いつき、チームを組み、実行していく

クライアントから指示されたことを形にしたり、ルーティンワークをこなしたりといった「作業」をするには今までの業務空間でいいんです。でも、僕らにより強く求められることは、今までにないアイデアや課題解決策を「思いつくこと」であり、それを実行するために「チームアップすること」であり、さらにそれを「実行すること」です。

“働く”ことを意味する英語は時代によって移り変わり、19世紀以前はlabor、20世紀はwork、次はplayとなるのではないかという指摘がありますけど、まさにうなずける話です。

workは業務という雰囲気で、playの方が次の時代の働く感覚に近い。公園で遊ぶような、よりパブリックな状況の中でこそ、新しい仕事や新しい発想が生まれるんじゃないか。だからこそオフィスを単なる業務空間ではなく、パブリックドメイン化する必要があると考えています。

実際、面白いことを思いつくときって、会議室で堅苦しい議論をしているときじゃなくて、街を歩きながら風景を眺めていたりファミレスで雑談したりしているときなんですよね。つまり適度なノイズがあるパブリックな空気が刺激になっている。その空気感を意図的に演出できればいいなあと。

そういうノイズを生産・維持するには、多種多様な人間が入り込んでくることも重要です。コミットしやすい環境をつくって、異業種、異発想の創発で何かが起こってほしい。その意味でもオフィスにパブリックな空気をまとわせることの意味は大きいと思います。

所有や共有の概念を明確に分ける姿勢が
都市の風景が息苦しくしてきた

オフィスの公園化、パブリックドメイン化の背景にあるものを別の角度からとらえてみると、そこには外部と内部をつなぐ中間領域の変化があると思います。

例えばオフィスビルだったらエントランスロビーやそこにつながるアプローチのような、パブリックな外部空間とプライベートな内部空間の中間に位置する部分ですね。パブリックな雰囲気はあるけれども、何かしらの企業カルチャーのにじみ出しもある。誰のものと一概に言い切れない空間です。企業の人と外部の人のアクティブなコミュニケーションを促すには、あのスペースこそ押し広げていかなければなりません。

近代はパブリックとプライベートを、すなわち所有や共有という概念を明確に区別してきました。境界を強く主張する時代背景があったからこそ、日本の風景は塀だらけになり、都市の風景が息苦しくなったような気がします。10センチの壁一枚で敷地を隔てていたりしますからね。

過度な所有欲の先に幸せはあるのか?

この状況は物理的な壁だけでなく、人々の間に心理的な壁も築き、ひいては社会的な問題を引き起こしているのではないでしょうか。

例えば、リーマンショックは過剰な所有欲の集積が引き起こしたものといえるでしょう。東日本大震災では津波で自宅や店舗があっという間に流されてしまい、敷地境界だらけだった街が一面の野原になりました。所有と共有の境界があいまいになり、そうして人々は新たな街づくりへ向けて手を携えることができたともいえます。

過度な所有欲の先に幸せはあるのかと、こうした出来事は僕らに突き付けているんじゃないだろうか。そこでパブリックという概念が違う見え方を始めたのではないかとも思うんです。

パブリックな空間は、たくさんの「個人」が共有するもの

中間領域を広げるということは、所有と共有の隙間を大きく豊かにするということ。それが都市やオフィスの景色を面白く変えていくんじゃないかという予感が、おぼろげながら僕の中にあります。

たぶん僕はそのバッファゾーン自体をオフィスにしようとしているんでしょうね。オープン・エーのオフィスではあるけれどもオープン・エーの空間じゃない。みんなが自分のものと思える空間こそ、そこに関わる全ての人が当事者性を持って快適に空間を使いこなそうとします。したがってその空間はさらに面白く美しいものに変化していくはずなんです。

そういう意味で、パブリックな空間は抽象的な「みんな」のものではなくて、たくさんの「個人」が共有しているものかもしれません。そう思った方が幸せな空間が出来上がるような気がしてならない。そして、その構造は仕事の空間にも援用できるのではないでしょうか。

時代を切り取るような出来事と仕事の概念は呼応するものであり、その価値観の変化に対応したオフィスをつくってみたいという探求心が、浅草橋への引っ越しの原動力になっています。新しいオフィスには「より面白いことをやりたい」「workよりplayに興味がある」という人たちが集まってくるだろうし、そういう人に来てほしい。公園で遊ぶように仕事をした結果、次の時代に響くような新しい何かを創造できたら痛快ですね。

WEB限定コンテンツ
(2016.7.28 中央区日本橋のオープン・エー オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri


『RePUBLIC――公共空間のリノベーション』(馬場正尊+Open A 著、学芸出版社)では公園や役所、水辺などの公共空間のあり方を問い直している。

所有と共有の中間のパブリックデザインについては、『PUBLIC DESIGN――新しい公共空間のつくりかた』(馬場正尊+Open A 編著、ほか共著、学芸出版社)でも論考されている。

馬場正尊(ばば・まさたか)

1968年佐賀県生まれ。1994年早稲田大学大学院理工学部建築学科修了。1994~97年博報堂勤務。1998~2000年早稲田大学大学院理工学部建築学科博士課程。1998~2002年雑誌『A』編集長。2003年株式会社オープン・エー、東京R不動産設立。現在、オープン・エー代表、東京R不動産ディレクター、東北芸術工科大学教授。‎

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