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社内外の自己実現欲を取り込む公共性の高い場づくり

フリー百科事典Wikipediaを運営するNPO

[WIKIMEDIA FOUNDATION]San Francisco, California, USA

  • 急速なユーザー拡大に応じた事業環境の確立
  • Wikipediaと同じく民主的プロセスを重視したオープンオフィスへ
  • 理念に共感するワールドワイドな人材が自律的にコミット

世界285言語で展開され、ネットを使う誰もが日々接するWikipedia。だが、それを運営するウィキメディア財団を知る人は少ない。

2001年にWikipediaが始まったとき、当初は草の根運動だった。「じつはWikipediaとは違ったプロジェクトが進んでいて、そのプロジェクトを早く動かすために『みんなで編集できるシステム』として作られたことがきっかけ」と広報責任者のジェイ・ウォルシュ氏は語る。「Wikipediaはみるみる大きくなり、3年後には数百万人の利用者がいた。創業者が私財でまかなえる規模を超え、継続のために資金調達の面からもNPOを作ろうという話になった」。

人材発掘と支援企業開拓のためサンフランシスコを拠点に選択

当初はフロリダにオフィスを持った。だが、組織としては簡易なもので、世界中からの期待に応える機能は持っていなかった。ユーザー数の拡大を受け、2年後の2005年、サンフランシスコの現オフィスに移転。少し前からサンフランシスコはニューシリコンバレーと呼ばれるほど、技術系の人材や企業が集まる場所になっている。

この地を選んだのも、若くて優れた人材を見つけやすいことが狙いだ。寄付を募る支援企業を見つけやすいという側面もある。「ウィキメディア財団は普通の組織と違い、少ない職員数でアクセス数の世界トップ5に入る巨大なインフラを提供している。世界8万人のボランティアが支えてくれていることで可能になっている。だからオフィスもコミュニティ(ボランティアの)と共に働くために普通とは違った作りになっている」(ウォルシュ氏)。

創業:2003年
収入: 2753万9207ドル
(寄付による収入・2012)
職員数:約120名

ウィキメディア財団は免税資格を持つ非営利団体であり、現状、運用費の大部分を寄付金でまかなっている。オフィスはサンフランシスコ中心部の古いビルを改装したもの。スタッフはワールドワイドで120人おり、このオフィスにはそのうち90人が在籍している。

ジェイ・ウォルシュ
Jay Walsh
広報責任者

カナダ放送協会(CBC)局のPR担当やトロントのNPOのボードメンバー、ノバスコシア美術デザイン大学のコミュケーション・コーディネーターなどを経て現職。広報責任者としてウィキメディア財団の運営に携わっている。

  • このオフィスには、エンジニアやディベロッパーなどが在籍している。サーバはフロリダやヴァージニア、アムステルダムなどに740台用意されている。

  • メインのミーティングスペースは、組織内ミーティングのほか、外部の識者や団体を招くイベント、説明会にも使われる。

  • アクセス数世界5位を誇るWebサービスだが、組織内はアナログな価値観が大切にされている。利用者からのお礼や職員へのメッセージはプリントアウトされて貼り出すことが多い。

  • 青いポスターはWikipedia10周年のときに作ったもの。世界中から送られてきたロゴを使ってデザインした。

Wikipediaコミュニティを支える場として
オープンかつ多国籍なオフィスをデザイン

Wikipediaはこのオフィスで作られてはいない。職員たちは直接、編集したり書き込んだりしないが、世界のWikipediaコミュニティによる285言語の書き込みをサポートしており、国際的に協力しあっている。そうした点からも、職員のための場というより、Wikipediaを動かす全員の場としてオープンかつ多国籍にデザインされている。

外部の人がオフィスに入るときも、守秘義務契約にサインする必要はない。コミュニティのメンバーがぶらりとやってきて編集作業ができるデスクも用意されている。毎月彼らとのブラウンバッグ・ランチ(ランチを買うと茶色の袋に入れてもらえて、それを持ち寄って集まるから)と題されたランチミーティングも開かれ、プロジェクトのことなどを話している。

実際、ほとんどのプロジェクトがコミュニティのメンバーによって進められている。ウィキメディア財団主導で決定を下すことは少ない。民主的なプロセスを重視し、すべてを共同で決定しているのだ。

活動の価値を伝えるために、たくさんのノベルティグッズや広報媒体(マルチリンガル対応)が作られている。

エンジニアリングやディベロッパーなどITチームの作業スペース。各チームは平均5~6人程度の最小限に抑えている。大きなオペレーションの場合、外注することもあるという。

360°View

エンジニアリングやディベロッパーなどITチームの作業スペース。各チームは平均5~6人程度の最小限に抑えている。大きなオペレーションの場合、外注することもあるという

※画像をタップすると360°スライド表示が見られます

理念に惹かれるメンバーが
自律的にコラボレーションを実践

職員たちは、編集してくれるボランティアが減っていれば、それを増やすための企画を考えたり、システムの改善などをはかったりする。現在、職員数は約120人で、中途採用がほとんどだ。

高いキャリアを有する者も多い。広告代理店にいた人、他の財団で資金調達をしていた人……誰もが前職までの仕事で満たせなかった何らかの社会的使命をここで実現させようとしている。

仕事の量は膨大で、終わりがないほどだし、給与報酬だけをみれば決して高くはない。しかし、職員たちは知的財産をオープンソースで民主的に広める、という理念にコミットしている。「仕事で何かを達成したらとにかくお互いに祝う、という習慣を大事にしている。共同で決めたことを一緒に達成する喜びがある」。

あえて強力なマネジメントを作らず、公共性の高いコラボレーションを推し進める。それによって十分に職員たちの自律性を引き出せることをウィキメディア財団は証明している。

WORKSIGHT 03(2012.11)より

15~20人用ミーティングルームの様子。デスクや椅子の多くは寄付などで集められている。こうした部屋には『博物誌』を書いたプリニウスなど、古今東西の百科事典の著者名が付けられている。

 

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