Workplace
Apr. 22, 2013
新たなビジネスの潜在価値を社員にリマインドする
エンジニアリング分野でトップシェアを占める設計ソフトウェア企業
[AUTODESK]San Francisco, California, USA
- 事業のステップアップに伴う上層部・社員の意識改革
- 新オフィスのゾーニングを改革し、オープンスペースを大幅に拡大
- アウトプットが変化し、積極性の向上やビジョン共有に成功
製造業、建築設計、土木向けの設計ソフトウェアを提供していることで知られるオートデスクの設立は1982年。主力ソフトの「AutoCAD」でトップシェアを築いた後、3D(3次元)CGソフト市場に進出。現在、「アバター」などハリウッド映画の多くの3DCGが、同社のソフトウェアを使って作られている。
有数のソフトウェアメーカーとなったオートデスクだが、2006年にカール・バス氏が新しいCEOに就いたのを機に、「設計ソフトウェアメーカー」から「デザインソリューションカンパニー」へとビジネスモデルの拡充を目指した。優れた設計ツールを提供することは大切だが、それに甘んじていることでマンネリが生じてしまう。自社ソフトを使って顧客の抱える経営課題も解決できる会社にステップアップしようと考えたのだ。
それ以来、会社はあらゆる角度からチェンジマネジメントを進める。なかでも社員に直接的な影響を与えてきたのが、新オフィス構築プロジェクトだ。
90%をオープンスペースにあてた大胆なゾーニング改革
「以前のオフィスは型にはまっていて、世界中どこの支店も代わり映えがなく、まるで保険会社のようだった」─そう語るのは不動産・施設部長のジョセフ・チェン氏。世界中で使われている高度な設計ソフトを開発し、グローバルに38カ国100カ所の支店を持っている会社なのに、どこも似たようなデザインの空間で働いていた、と振り返る。
象徴的なのが、ワークスペースのゾーニングだ。2012年5月に改装したサンフランシスコのオフィスの場合、以前は「20%が社員個別のスペース、80%がオープンスペース」の割合だった。中には壁に囲われたデスクで、パソコンと向き合い続ける社員もいた。
もちろん、プログラミング作業だけを考えるならば、それも間違ってはいない。しかし、デザインソリューションカンパニーの看板を掲げるとき、求められるアウトプットは違ってくる。クライアントが相談してくる複雑な経営課題に対して、衆知を結集する力が問われるのだ。
「改装後は90%がオープンスペース、10%が社員個別のスペースになった。コラボレーションスペースや即席のミーティングスペースなどを増やしたほか、異なる場所で働くパートナーと意見交換しやすいように遠隔コミュニケーションやモバイルワークのインフラも整えた。社員が自由なモビリティを保ちつつ、必要に応じて確実にコラボレーションできる状態を目指している」と語るのは施設運用部シニアディレクターのステファン・フクハラ氏。たとえば、従来の電話の代わりにカンファレンスコールを使ってビデオで会話すれば、ボディランゲージも伝わり、意思疎通の精度が上がるからだ。
創業:1982年
売上高:22億1560万ドル(2012)
売上総利益:19億8650万ドル(2012)
従業員数:7500人
1982年の創業から30年、オートデスク社は世界38カ国に100カ所近い支社を持つグローバル企業にまで成長した。サンフランシスコ支社は、港に面した歴史的建造物を改装したビルの中にある。建物は1950年代に造られた歴史的な建造物で、内部は大きな梁で支えられ丈夫な造りになっている。
ジョセフ・チェン
Joseph Chen/左
不動産・施設部長
ステファン・フクハラ
Stephen Fukuhara/右
施設運用部シニアディレクター
自然なアイデア交換の機会が増し
社員の積極性や臨機応変さが向上
新しいオフィスになってから社員の行動は大きく変わった。キッチンで気軽にアイデアを交換する光景が当たり前になり、会議も以前は確認ベースだったものが、積極的に自分の考えを提案する社員が増えた。
こうした変化は従来の主力事業であるソフトウェア開発においても顕著だ。ニーズが高度化する設計ソフトでは、最終形を決め込んで分業を推し進めるのではなく、関わるメンバー同士が一緒に検討しながら形を見いだすアジャイル開発が主流になっている。新しいオフィスのスクラムルームにエンジニアたちが集まって、図を描いたり、テーブルを動かして発想を練る作業も浸透してきた。
このオフィスを作るにあたり、社員の意識調査・行動調査を行った。エンジニアチーム、セールスチームなどあらゆる社員が効率的に働けるかを調べ、フィードバックした。
「空間はエネルギーを生み出す。色使い、素材使いが社員に楽しみやコラボレーションの雰囲気、そしてやる気を与える」とチェン氏。ビジネスモデルの転換という会社の一大転機を乗り越えるためには、高い意識でオフィス戦略を見直すことが不可欠だと考えた。
ソフトウェアの開発は、アジャイルを推奨しているため、社内にはスクラムルームを多数用意している。この日も付箋を使ったアイデア出しが行われていた。
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オフィスの変革を通して意識改革を進め
将来ビジョンを浸透させる
具体的には2つの面からの意識改革だ。一つは、社員たちを対象としたもので、事前のトレーニングや議論を徹底的に行い、実際にオフィスの完成後も手厚くサポートする。「オープンスペースが多く光を遮るものがないので明るすぎる場所がある」や「電話ブースで話していたら隣のブースの声が聞こえてしまう」などのクレームは必ず出る。問題はそれに対してのフォローアップにある。
もう一つの意識改革は上層部に対してのものだ。「壁をほとんど取り払うことにリスクはないか」「社員のマネジメントをどのように行うか」など具体的な質問に対して、一つひとつ説得していくプロセスに力を入れた。
さらに、会社が打ち出したオフィス戦略はギャラリーオフィスにも象徴されている。サンフランシスコのオフィスに併設し、オートデスクが手がける製品を使ってどんなことができるのか、実際に目で見て触れられる空間になっている。ソフトウェアという形で見せにくいものを理解してもらうためにはリアルの場がどうしても必要だと考えた。
同時にここは、社員たちに対して、これから会社がどんなビジネスを手がけていくのか、ビジョンの大きさを感じてもらうための空間でもある。
「ここに家族や友人を連れてくる社員をよく見かける。CADやCGだけでなく、車、橋、超高層ビル群、映画、ゲーム……あらゆる造形に関わっているオートデスクの技術を知ることは、社員たちの社会貢献欲を刺激し、いい動機付けになる」(チェン氏)。
WORKSIGHT 03(2012.11)より
個人デスクの様子。新オフィスには約170席のデスクがあり、その多くはプロダクト・エンジニア用だ。出社時間などに決まりはなく、個々に委ねられている。
1人で集中したいとき、外部と電話をするときは、「フォーンブース」と呼ばれる個室を使う。社内にはこうした個室が10室ほど用意されている。