Workplace
Feb. 13, 2017
仕事の生産性を上げるための
「カフェで働く」という選択
ワークスペースを提供する、日々進化を続けるカフェ
[Workshop Cafe]San Francisco, U.S.A.
- 家でもオフィスでもないワークスペースを求める人が多い
- ワークスペースとして使えるカフェをオープン
- 多くの利用客を集め、注目の存在に
サンフランシスコのフィナンシャル・ディストリクト。銀行や保険会社などの高層ビルが立ち並び、「西海岸のウォール街」と呼ばれるエリアだ。この一角に、現在注目を集める「Workshop Cafe」はある。たくさんの人々がコーヒーを片手に黙々と仕事をしており、コワーキングスペースのようにも見える。ところが創業者のリッチ・メネンデス氏(以下、リッチ氏)は、「Workshop Cafeはコワーキングスペースではありません」と断言する。
「Workshop Cafeを作る前に、たくさんのコワーキングスペースも見ました。その上で、既存のものは作りたくない、人々が欲しいだろうと私が思うものをオリジナルのアイデアで提供したいと思ったのです」(リッチ氏)。いわゆるコワーキングスペースは、月額料金システムを採っているところが多い。しかしこのシステムには、一見の客が気軽に入りにくく、さらに、頻繁に利用する客同士のコミュニティができあがり、あとからは参加しにくいというデメリットがある。そこでWorkshop Cafeは間口を広げるべく、月額料金システムではなく、利用するごとに料金を支払ってもらう設定にした。
しかし、そもそもなぜ、カフェだったのか。「『実は多くの人がカフェで仕事をしたいと思っている』ということに気づいたからです。特に、フリーランスで働いている人や、会社のオフィスがない人たちですね。彼らは、ロサンゼルス・スタイルとでも言いましょうか、プロジェクトベースで仕事をしています。映画で言うなら、さまざまなスペシャリストが集まって一つの映画を作り、それが終われば解散し、というような形です。普段は家で仕事をしていても、あえて他の人に混じって仕事をしたいと思うこともありますよね。誰かを呼んでミーティングをする必要がある時にも、自宅ではなくWorkshop Cafeのような場所があればホワイトボードを使うこともできますし」(リッチ氏)。
「オフィスで働く人同士が邪魔をしてしまう」という問題
そのような思いでスタートさせた「Workshop Cafe」であるが、別のカテゴリーにあたる人もターゲットとして想定していたとリッチ氏は言う。「家以外にオフィスのある人です。つまり、いわゆる会社勤めをしている方々ですね。オフィスがあっても、一人で集中したい時はあります。そういう時にこうした場所が求められているということを知りました。ある程度の予想はしていましたが、オープン後の利用状況を見ていると、そのようなニーズが想像以上にあることに驚きました」。
カフェよりも、そしてもちろん家よりも、オフィスのほうが仕事をするにはずっと適した場所だ。デザインや機能に優れたワークスペースをどの会社も整備している。それでもなお、仕事をする場所としてカフェを選択する人が多いのだという。
「たとえばオープンスペースで締め切り間際の作業を黙々と進めていても、通りがかった同僚が『週末の予定は?』などと話しかけてくることがよくあります。つまり、いかに優れたオフィスであっても、『オフィスで働く人同士が意図せずして邪魔をしてしまう』という問題の解決はできていないのです」(リッチ氏)。
Workshop Cafe外観。
創業:2013年
http://www.workshopcafe.com
【1時間あたりの利用料金】
・ワークスペース:2〜3ドル
・1人用集中ブース:5ドル
・5人用会議室:25ドル
Workshop Cafeの創業者、リッチ・メネンデス氏。
生産的に、効率的に
仕事を進めるための場所
だからと言って、会社で「集中したいから」と一人でミーティングルームなどにこもると、それは「一人にしてくれ」というメッセージを背中で送ることになり、周りに与える印象が悪くなってしまう。これは家でも同様だ。家でずっと仕事をしていると、どうしても家族を無視しているように感じさせてしまう。「仕事が忙しくて家族の相手はできないけれど、せめて物理的にそばにいたいから」と思っていたとしても、だ。皮肉なことに、近くにいるからこそ、「一人にしてくれ」というメッセージが届いてしまう。そこで人々は外に出て、より生産的に仕事をするためにWorkshop Cafeに集まるのだ。
カフェで仕事をしていると、たった1杯、2杯のコーヒーだけで長時間滞在することがためらわれることがよくある。Workshop Cafeではその点は心配ご無用だ。なぜなら、席を予約できるシステムがあるからである。最初から「2時間使いたい」、「3時間使いたい」と席を予約し、その分の料金を支払うシステムになっているため、周りの目を気にすることなく堂々と滞在することができる。Workshop Cafeの利用客の平均滞在時間は4時間だそうだが、これはコワーキングスペースよりも短く、カフェよりも長い。コワーキングスペースでもカフェでもない、Workshop Cafeという「場」を多くのワーカーが求めていたのだ。
実際にWorkshop Cafeの中へ入ると、リッチ氏の観察力、洞察力がスペース作りにも活かされていることがわかる。こうした業態では、よりスペースを広く使える席が人気があると思いきや、それは違うと言うのだ。「ここでは、あえて席と席の間を狭くしたエリアが特に人気があります。クラブやバーに行くとして、あまり混みすぎているのは嫌ですが、誰もいないのも嫌ですよね。これは生物的なものなのでしょうか、水のある場所に水牛が集まるように、『ここには人が集まっているから、いい場所なんだ』と人は思うのかもしれません。他の人間が隣にいるからこそ安全に感じる。そして知らない人だからこそ、すぐ近くにいても私に話しかけて仕事の邪魔をすることがなく、安心して仕事ができるということなんでしょうね」(リッチ氏)。
アプリを活用し、手間をかけず簡単に予約ができる
ユーザビリティも非常に工夫されている。ミーティングルームも含め、どの席も事前に予約ができ、当日空いていればもちろんどこに座ることもできる。予約はWebやアプリでできるので簡単だ。しかもiBeaconがカフェ自体にインストールされているため、チェックイン、チェックアウトの際にメンバーズカードを見せる必要もない。完全にハンズフリーの状態で、カフェに入ったらチェックイン、出たらチェックアウトの手続きがスムーズに行われるのである。
リッチ氏によると、アプリによって利用者同士の交流も生まれているそうだ。アプリにはコミュニティ機能があり、いま店内にどんな人がいてどこの席に座っているかがわかるようになっている。Workshop Cafeで知り合った利用者が意気投合し、会社を設立するまでに至った例もあるというから驚きだ。
利用者の使い勝手を最優先した考え方には、リッチ氏の行った数々のリサーチ結果も反映されている。利用客一人につき15分間のインタビューを計10時間以上行い、どれくらいの時間滞在するか、その時間は何時くらいなのか、座る席はどこか、なぜその席を選んだのか、などとという話を聞き、それをスペース作りに活かしているのだ。
カフェそのものが「Workshop」であり続けるために
内部をよく見ると、荒削りというか、雑然としているというか、ラフな雰囲気も感じられる。「なぜここをWorkshop Cafeと名づけたか、わかりますか? Workshopというのは、何かを作る場所です。イラストや写真でもいいですし、コンピューターのコードでもいいですし、デジタル、アナログを問わず、何かを作ることはかっこいいという価値観を、私たちとお客様との間で共有したいという思いからなんです」(リッチ氏)。
そのため、壁にはスタッフ自らがDIYで作った様子も見て取れる。DIYっぽさが全面に出てしまうと安っぽく見えてしまうが、かと言って豪華なコワーキングスペースのような内装にしてしまうと、建物の柔軟性が失われてしまう。あえて「パーフェクトじゃない」ギリギリのラインを狙ってデザインを行っているようだ。
「あまりにパーフェクトな場所だと、私たちがチャレンジしなくなります。私たち自身がWorkshopであり続け、いつでも変化していくことができるように、との思いを込めているのです。あそこのカウンターテーブルをもう少し長くしたいなと思えば、電動ノコギリを持ってきて作りますよ。それでお客様に不評であれば、また調整します。そうやって、私たち自身が変化しながら、お客様の仕事が少しでも効率的になるようにお手伝いしていきたいですね」(リッチ氏)。
インテリア設計: 自社+Martinkovic Milford Associates
text: Yuki Miyamoto
photo: Hirotaka Hashimoto
カフェの奥に見えるミーティングルーム。
専用の予約アプリ。画面上で席を指定することもできる。
オープンカフェのような席もあり、風を浴びながら仕事ができる。