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製品とともにワクワク感を届けるメーカーでありたい

新しいモノづくりの仕組みを後発ベンチャーへ

[中澤優子]株式会社UPQ 代表取締役

自分が思っているものの120パーセントを目指す――それが私のやり方です。

ちょっとくらい苦しむところがないと、モノを作って売る実感は得られません。得ることに苦労してこそ思いが乗るし、苦労すれば知恵も働きます。何も考えずに製品を流していくのは本意ではないし、面白みを感じません。

想いを込めて作ればユーザーに気持ちは届く

モノづくりや製品への愛着を自分も持ちたいし、関わってくれる人にも持ってもらいたいと思っています。それは新卒で入社して携帯電話の企画・開発に従事したカシオ計算機(以下、カシオ)時代に学んだことです。

日本のメーカーの携帯電話事業が軒並み苦戦していた2011年初頭、私が企画したカシオ端末は、ガラパゴス携帯、いわゆる“ガラケー”でした。経営が行き詰まりを見せる中、カシオ最後のガラケーになると言われており、予算も少なく、プロモーションも予定されていませんでした。追い打ちをかけるように東日本大震災で塗料工場が被災し、塗料が僅少となった関係で、社としては他のスマホプロジェクトを優先することとなり、発売予定が1か月以上延期に。結果、生涯販売予測台数も大きく減っていくことになるので、とても厳しい状況に陥りました。

でもカシオの最後の端末だからと一生懸命みんなで開発に取り組んでいたんです。iPhoneやスマホが市場を席捲する中、決して価格としても安くないガラケーを買おうと待ってくださっているお客様もいるわけです。何とか愛着を持ってもらおう、意地でもみなさんに損はさせないぞと、メンバーはみんな必死でした。

頑張りが報われて、発売後の販売店のスタッフさんからもお客様からも反響が大きく、1年後には外部調査機関の顧客満足度ランキングのその年のガラケー部門でカシオは1位を獲得しました。私が入社して以来4年ぶりの1位でした。メディア露出の機会など一切なく、開発者が製品について語る場さえ与えられなかったけれども、ちゃんとしたものを作ればお客様に気持ちは届くんだと実感した出来事でした。

製品を製造しているのは機械、と思いがちですが、組み立ているのも、企画しているのも、機械を使っているのも人間です。製品に想いを込めれば手に取ってくれた人に伝わる、という経験を大事に、そこに対して思いを賭けようと決めました。ケータイや家電はどう転んでも大量生産品で、一点ものではないけれど、使い込むことで思い入れが湧いて、「ああ、あのときあのケータイを使っていたなあ」と思い出に残るものだと思うので。

ハードルを1つひとつ超えてモノづくりの可能性を示したい

UPQは、そういうモノづくりの魅力あふれる場を守りたいと思って動いています。創業して1年半経ちますが、これほどまでに販売店舗が広がるとは思っていなかったし、メディアで取り上げられるとも思っていませんでした。

大手メーカーで時代が悪く実現できなかったことを1つひとつ知恵を絞ってベンチャーの規模なりにやってみたら、「なんだ、意外とできるじゃん」という感じです。大手メーカー時代、ベテランの開発者や上層部とともにどうすれば厳しい市場を好転させられるか四苦八苦した末、結局どうにもできなかったという苦い経験があったからこそ、やり方を変えてどうにか実現できる、ということを示したかったんです。規模は小さいかもしれませんが、昔からのモノづくりの魅力を失わずにいまもメーカーは楽しいということを示したいし、そんな私を見て「まだまだメーカーって面白そう」と思う人が増えたらうれしいです。

UPQ創業(2015年)のたった2~3年前でも、UPQのようなハードウェアのベンチャー企業のビジネスが成り立ち、そして1年以上順調に成長していけると誰も予想もできなかったと思います。60以上もの製品を一気に280以上もの店舗に流通させることすらあり得ないし、家電メーカーが電動バイクを作って売っているのも従来のセオリーではあり得ないことだったと思います。でも、こうして常識の壁を1つひとつ壊す挑戦をし続けてみることで、この後続いてくるベンチャーやメーカーがやりやすくなればいいなあと思っています。

2016年9月に出産しましたが、妊娠期も含めて現在まで仕事への影響はありません。妊娠・出産・子育ては仕事の障壁になるとよく言われますけど、私にとってはいまのところ当てはまらないです。UPQを始めたときも、カフェの仕事など、いろいろな案件を同時進行でやりくりしていました。そこに1つ子育てというプロジェクトが入る感覚です。もちろん、周囲の方の理解とヘルプがあったうえでですが、どういう優先順位で、今何をすればいいかを判断して行動していくことに大きな変化はないです。


株式会社UPQは家電・家具のメーカー。2015年7月設立。従業員数5名。
同社が展開するUPQブランドは2015年8月の第一弾製品群で17種24製品をラインアップ。2017年1月現在、ラインナップは41種64製品に拡大している。
http://upq.me/jp/

UPQの販売網は順調に拡大しており、2016年12月にはUAEの「ヴァージン・メガストアーズ」にて4種7製品を展開し、海外の実店舗に初進出を果たした。また国内では、DMM.make STORE、ビックカメラ、蔦屋家電などの他、ヨドバシカメラ、ヤマダ電機、伊勢丹、パルコ、マルイ、イオンなどでも販売している。

発表会こそが製品のお披露目の場。
事前の情報リリースは一切しない

次のラインナップへの期待を高めるために、「今どんな製品を開発しているのか」「今後どんなモノづくりをしていくのか」といった質問には一切答えないようにしています。

UPQにとって製品発表会こそが大切なお披露目の場なんです。どんな製品が、どんなカラー展開で出てくるのかは、発表会でのお楽しみ。メディアにもユーザーの方々にもその日を待ち望んでほしいと思っているので、事前の製品情報はもちろん、ヒントになるような情報も漏らさないでおきたいんです。

電動バイクをラインナップしたことで次はどんなサプライズが飛び出してくるのかと、UPQへの注目度がより高まっているのを感じます。期待の高まりはメーカーにとってありがたいものですが、発表会でその期待をいい意味で裏切って、「うわあ、こんなすごいものを作ったんだ」と世間を驚かせたいですね。

今のメーカーの新商品には、あっと驚くようなものが少ないと思います。こんなものが出てくるんじゃないかなと思ったらその通り出てくる感じで、例えばiPhoneが防水になるのではと世の中が予想するとその通りのものが発売されたりする(笑)。これはユーザーとして、ちょっと残念です。もっと裏切って欲しい!と、心の底で期待してしまうんですよね。いい意味での裏切りが家電業界であまり見受けられなくなったのは私が社会人になる前から続いている傾向かなと思います。

また、UPQとしては、製品はできれば売り切れ御免で、なくなったら終わりが一番いいと思っています。発売終了となったモデルを持っていることを自慢できるのも1つの喜びになるといいな、と考えると同時に、「次の製品を楽しみにしてね」という姿勢はメーカーとしてもお客様としてもワクワク感が高まると思うためです。UPQとしてはそういう驚きやワクワクする時間も含めてお客様に楽しんでもらえたらと思っています。

発表会を1つの区切りとして、販売フェーズへシフトする

最近はクラウドファンディングで資金を集めるために、こういう製品を作りたいとアイデアを先に提示する開発の仕方もあります。そういう方法も否定しませんが、個人的には最後の一番いい瞬間を損なっているという意味でもったいないと感じます。UPQではあくまでも発表会で製品を華々しく登場させて、「どう!?」と勝負に出たい。

これはハードルを自ら高くしていくような行為であって、自分たちを追い込むことにもなります。開発しているときはすごくつらい局面もあるんですよ。「これは絶対ヒットする!」と思う製品を作っていても友達に言えないし、反対に一生懸命作っていてもうまくいかず、結局生産を断念せざるを得ないこともあります。そんなときでも誰にも愚痴をこぼせません。

手応えのある作業も苦しい作業も粛々と進めて形にして、品質も流通も価格設定もクリアして、「いざ」というその瞬間を大事にしたい。そこまで苦労したから発表会を一区切りとしてみんなで「おめでとう」「いいものができたよね」と達成感を味わえるし、「じゃあ次は頑張って売ろう」と販売フェーズにシフトできるんです。

晴れの日の感動が開発の苦境を切り抜ける底力になる

カシオにいたときも、開発に2年くらいかかる製品の場合、友達にも家族にも仕事の話ができないわけですよ。「2年も何をしているの?」と聞かれるけど、「いやいや、頑張ってるんだよ」としか言えない(笑)。

でも晴れて発表会を迎えて、一瞬でも通信キャリア会社の社長や芸能人が端末を持ってくれたりすると、「ほら、あれが私たちの作ったものだよ!」とようやく胸を張って言える。いち開発者として、そのタイミングはめちゃくちゃうれしいんですよね。そこはベンチャーであっても大事にしたいし、私だけでなく関わっているみんなにも晴れの日のために頑張って底力を発揮してほしいと思っています。

全てを自分たちでこなすベンチャーだからこそ、ビビッドな反応が得られることが何よりの喜びだし、それは大手メーカーでは得られないモノづくりの醍醐味といえるかもしれません。

WEB限定コンテンツ
(2017.1.18 千代田区のDMM.make AKIBAにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Tomoyo Yamazaki

在庫がなくなれば販売終了という基本的なポリシーはあるものの、状況に応じて対応は柔軟に変えていく。例えば購入希望が殺到している折り畳み式の電動バイク「UPQ BIKE me01」は追加生産を決定した。

中澤優子(なかざわ・ゆうこ)

1984年東京都生まれ。2007年中央大学経済学部卒業。同年、カシオ計算機株式会社に入社、携帯電話やスマートフォンの商品企画を担当。2012年、フリーランスとして携帯電話、化粧品、自動車といったメーカーの商品企画やマーケティング、プロジェクト・マネジメントに携わる。2013年、秋葉原にカフェを開店、オーナーを務める。2015年、UPQを創業。

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